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ロストランドからの手紙【7】


 第7章 サイクロプスバレー


チャイカの夢はいつも同じ場面だった。
低く垂れこめた暗雲の下を、チャイカたちは大きな円筒を抱えて編
隊を組んで飛んでいた。円筒にはガーゴイル語で”くたばれ!”な
どとステンシルされている。円筒は爆弾だった。
やがて前方に異様な光景が見えてきた。
はじめは山が動いているのかと思った。深淵(アビス)の底から蘇
りしもっとも邪悪な悪魔族、スラッシャーの巨体だった。ガーゴイ
ルの土地を蹂躙するこの悪魔を撃退し再びアビスに封印するのがチ
ャイカたちテルマー防空隊の任務だった。だが実際には、チャイカ
たちは爆弾を抱いてスラッシャーに体当たりしろと命令されていた。
編隊のガーゴイルは次々と反転し、急降下していった。
その瞬間。白熱の光で視界が真っ白になった。チャイカの右でも左
でも爆炎が炸裂した。「熱い、熱い!」「助けてくれ、焼かれる!」
オープンリンクされたクリスタルからガーゴイルたちの断末魔の悲
鳴が流れては消えていった。チャイカの爆弾のストラップに火がつ
き、翼に燃えうつった。チャイカは堪らず、熱くなった金具で手の
平が焼けるのもかまわずにストラップを外し、爆弾を投棄した。
彼は悲鳴をあげて墜落していった。
夢はいつもそこで終わった。

テルマーを出てからもう何年も経つが、悪夢はいまだに不随意にチ
ャイカの眠りに訪れては彼を苦しめた。もう何年も眠りは彼にとっ
て安息の時間ではなかった。


砂漠の太陽は午後になってもじりじりと暑かった。
このあたり一帯の高い柵に囲われた不毛の土地が、オフディアン族
の居留地だった。
「”地を這う者の王”と言うのは、あなたか?」チャイカは聞いた。
「その名を耳にするのは五年ぶりだな」老オフディアンは蛇族特有
の先割れした舌をシューシューと鳴らしながら言った。
オフディアン族は半人半蛇の種族だった。足はなく下半身は蛇のよ
うにとぐろを巻いているが、上体には人に似た二本の腕がある。
「いまはその名は部族に返上し、ただ”老いた蛇”と呼ばれておる
が、さよう、わしはかつて”地を這う者の王”であった」
「あなたに手紙がある」
そう言って渡された手紙を、老いた蛇はチャイカの見ている前でパ
ラパラと広げた。手紙には人間の文字で文章が書かれていたが、老
いた蛇が何か呪文を唱えると、文字はまるで蛇のように動きだし、
やがて見たこともない言語の配列になった。
「懐かしい。古い友人からの手紙だ」老いた蛇は嬉しそうに読みは
じめたが、やがてその表情が曇った。「旧友の死期が近い。翼ある
者よ、おぬしの助けが必要だ。わしが自分で這って行ったのでは間
に合わない。わしを旧友のところへ連れて行ってほしい」
「人間との協定で、許可なく居留地を出られないと聞いているが」
「人間のレンジャーは蛇族の尻尾の数さえ数えちゃおらんよ」老い
た蛇は何もかも見通すような目で言った。「おぬしは悪い夢に憑か
れておるな。わしの旧友”遥かを見る者”ならば、あるいはおぬし
の呪縛を解くことができるやもしれぬ」

そこは何かの遺跡のようだった。岩山にたくさんの人工的な洞窟が
開いており、洞窟の壁には細かい絵が隙間なく描かれていた。
「あなたの友人はここにいるのか?」チャイカが聞いた。
「いや。方角が近かったので少し寄り道をしてもらった。わしがこ
こを訪れる機会はこれが最後だろうからな」
「ここは?」
「オフディアンキープだ」老いた蛇はシューシューと言った。「す
べての蛇族の聖地だった。五年前まではな」
老いた蛇は洞窟の中をゆっくりと進んだ。赤外線の領域まで見える
蛇族の目には壁画の絵がよく見えた。そこにはオフディアン文明の
繁栄の様子が描かれていた。抽象化された蛇族たちが獲物を狩り、
畑を耕し、海に巨大な石柱(サーペントピラー)を築いていた。
「かつてわれら蛇族はロストランドの支配者だった。すでに衰退の
途上にあった先住文明からこの世界を引き継ぎ、調和をもって世界
を治め、繁栄を謳歌した」
次の絵には異邦人が描かれていた。彼らは二本足で歩き、見慣れな
い武器を持ち、ドラゴンを従え、蛇族の長たちと話をしていた。
「やがて外の世界から、冒険者と名乗る者たちがやってきた。彼ら
は少数だったので、蛇族は彼らがこの世界に住むことを許した」
次の絵にはたくさんの人間たちが描かれていた。その足元で動物が
死に、モンスが死に、蛇族たちが死んでいた。
「やがて彼らは大挙して押し寄せて来た。夜の星の数よりも多い二
本足たちは、森を焼き、山を崩し、楽しみのためだけにたくさんの
種族を殺した。蛇族はこの世界を守るために二本足たちと戦った。
そしてわれらは負け、人口の九割が殺された。ガーゴイルが人間と
同盟する前のことだ。いまやわれら蛇族は柵で囲われた居留地で保
護されており、柵の外に出入りするにも人間の許可がいる。もとは
われらの土地であったのにな」

壮大な風景が広がっていた。渓谷の風化した岩肌には堆積した地層
が風紋のように続いていた。
ずしん!ずしん!と重々しい足音が近づいてきた。
「この場所の名前は?」
「サイクロプスバレーだ」
現れたのは大きな棍棒を持った一つ目の巨人だった。
「わしは間に合った」老いた蛇が言った。「偉大なる先住者の王よ。
一つ目の賢者、わが友”遥かを見る者”よ。五年ぶりだな」
「”地を這う者の王”よ」銅鑼を鳴らすように重く響く声で巨人は
言った。「そなたが今日到着することは見えておった」
「許してくれ、わが友よ。わしは生涯に一度だけ、そなたの助言を
守らなかった。五年前、そなたの見た予言に従っていれば……」
「蛇の王よ。そなたがわしの助言を聞かず、人間と開戦する場面も
わしには見えていた。だがどうすることも出来なかった」
「わしらはかつて二人とも王だった。だがいまは国もなく、ただ死
期の迫った老人であり、友であるだけだ」
巨人は身をかがめて老いた蛇をすくい上げると肩に乗せた。
「翼ある者よ」巨人が言った。「そなたの悪夢を取り除くことは、
わしには出来ない。それが出来るのは、そなた自身だけだ。その時
が来たら、躊躇ってはいけない。そなたの為すべきことを為せ」
老いた蛇を肩に乗せて、巨人は渓谷の奥へ歩み去って行った。








(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


# by horibaka | 2012-03-02 04:41 | その他 | Trackback | Comments(0)
ロストランドからの手紙【6】


 第6章 死の街


ガードデルシアはロストランド全域のガードの本部でもあった。
深夜、当直室でコミュニケーションクリスタルが突然鳴った。
「こんな時間に気の利かない野郎だな」当直していた古参の兵士が
日誌のページを開きながら言った。「いったいどこの砦だ?」
「雑音がひどい。感度を上げます」
一緒に当直していた若い兵士がクリスタルを調整すると、雑音の合
間から低い声が漏れ聞こえてきた。深い地の底から響いてくるよう
な低いその声は、応答を求めて何度も繰り返された。
「どこの砦だ? 部隊名を名乗られたし」
声が部隊の名前を告た。若い兵士には聞き覚えのない名前だった。
「スイッチを切れ!」古参兵が叫んだ。「クリスタルを止めろ!」
若い兵士は訳が分からないまま、慌てて古参兵の指示に従った。当
直室は再び静寂に包まれた。
「古い怪談のひとつさ。今夜のことは忘れな、若いの」
古参兵はそう言うと何も書かずに日誌のページを閉じた。


その町には誰も住んでいる者はいなかった。その町は廃墟だった。
人はその町を、死の街と呼んだ。
調査隊のキャンプは町から少し離れた場所に設営されていた。
「あなたがハミルトン教授?」
出迎えた小柄な男にチャイカは聞いた。
「いや! わたしはBNN(ブリタニアニュースネットワーク)の
ニュース員だ。明るいうちに到着出来てよかったな」
「何か問題でも?」
「陽が落ちると、ここは物騒だからね!」
「できれば早く用事を済ませたい。教授に会わせてもらえるかね」
「案内しよう。こっちだ! だがその前に……」
ハミルトン教授はテントの中で発掘品を仕分けていた。
「やっと来たか。まあ、座りなさい」
「郵便配達人の業務としては、少々異例な依頼だが」
「あれを発見した時、いろんなところに問い合わせたんだよ」教授
は疲れた声で言った。「王都の議会も、ライキュームも、ロイヤル
ガードも、どこも管轄外だと言ってたらい回しだ。ようやく郵便ギ
ルドが引き取ることになって、あんたがここへ来たというわけだ」
教授は大きな袋を取り出してチャイカの前に置いた。袋の中には黄
ばんで汚れた古い紙がたくさん入っていた。それは手紙だった。
「死の街は古戦場だ。長い年月に渡って何度も激しい合戦があった。
大勢の兵士が故郷を遠く離れたこの場所で死んだ。これは、その兵
士たちが肉親や妻子に宛てて書いた手紙だよ。配達されることなく、
長くこの廃墟で埋もれていたのだ」
古い手紙の山からは、声なき慟哭が聞こえてくるような気した。
「それは何だ」教授はチャイカが首にさげている巾着袋を指さした。
「魔除けのお守りだそうだ。ニュース員から買わされたのだが」
チャイカは封を切り、袋を広げて中身を見た。袋の中に入っていた
のは煙草や酒の小瓶で、護符のようなものは見当たらなかった。
教授は馬鹿にしたように鼻を鳴らして言った。
「こんなガラクタがお守りかね? 騙されたんだよ、あんた」

夜。
浅い眠りを眠っていたチャイカは、人の気配で目が覚めた。
「起きてくれ」教授だった。「ニュース員がいない。特ダネでも探
して町に入ったのだろう。夜は危険だ。早く連れ戻さないと」
死の街は暗闇の中に沈んでいた。捜索隊のランタンが迷える魂のよ
うに廃墟のあちこちで揺れた。ガーゴイル族の目は暗闇に見事に適
応していたので、チャイカにはランタンは不要だった。
捜索ははかどらなかった。チャイカは廃墟の奥に進んだ。
ニュース員を見つけたのは深夜もだいぶ遅くなった頃だった。ニュ
ース員はランタンも点けず、崩れた壁のそばで身を潜めていた。
チャイカが近づくと「静かに!」押し殺した声で言い、動くなと身
ぶりで示した。その顔には暗視眼鏡(ナイトサイト)を装着し、首
にはチャイカに売ったのと同じ巾着袋をかけていた。
廃墟の暗闇の中で、何かの音がした。はじめは小さい音だった。や
がて音はあちこちから聞こえはじめた。
ニュース員が、あそこを、と指さす方角を見ると、瓦礫の中から立
ち上がる人影が見えた。一体、そしてもう一体。
気がつくと二人はたくさんの人影に取り囲まれていた。
人影はフルプレートの兵士だった。
ガチャリ、ガチャリと錆びた甲冑を鳴らして人影たちは足を引きず
りながらうろついていた。一体の甲冑が背負った箱を降ろして蓋を
開け、鈍く光るクリスタルを取りだした。
「デルシア本部、デルシア本部。応答せよ、デルシア本部」
それはまるで深い地の底から響くような低い声だった。
「誰だ!」甲冑の一体が恐ろしげな声をあげ、剣を構えた。他の一
体がその剣を制した。「剣を降ろせ。民間人のようだ」
甲冑たちはさらに近づきながら、二人に手を伸ばし、口々に言った。
「あんた、酒持ってるか」「煙草はないか、煙草は」
ニュース員は落ち着いた手つきでそっと巾着袋を首から外すと、近
くの甲冑に手渡した。チャイカもそれに倣った。
甲冑たちはフェイスプレートを上げた。兜の中の顔は白骨だった。
ぽっかりと開いた眼窩が夜の闇よりもなお暗く虚ろだった。
「ああ、うめえ。久しぶりの酒だぜ」
甲冑の手が酒の小瓶を兜の中に注いだが、髑髏の口が酒を受けられ
るはずはなく、甲冑の隙間から流れ落ちた。
それでも甲冑たちは、うまいうまいと言いながら酒を垂らし、紫煙
をくゆらせた。
「あんた、郵便配達か」そのうちの一体がチャイカの制帽に気付い
て言った。「手紙を届けてくれ、妻に……」言いかけて、うろたえ
たように辺りを見回す。「手紙がない、わたしの手紙が……」
「出発だ!」一体の甲冑が怒鳴った。「今夜中に本隊に合流するぞ」
甲冑たちはうめき声や金属の触れ合う音を暗闇に響かせながら、廃
墟の向こうに消えて行った。
物音が途絶えてずいぶんたってからニュース員は静かに言った。
「亡霊だよ。百年以上前に死んだ兵士たちだ。自分たちが死んだこ
とに気付かず、ずっとこの廃墟を彷徨っているんだ」
「彼らの魂が眠りにつく日は来るのかね?」
「わからない」ニュース員は暗視眼鏡を外した。「あの手紙を届け
たい。もし、いまもどこかに彼らの子孫が残っているのなら、その
人たちの元へ。BNNが全面的に協力する」
地平線に夜明けの薄明が近づいていた。








(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


# by horibaka | 2012-03-01 03:30 | その他 | Trackback | Comments(0)
ロストランドからの手紙【5】


 第5章 燈台


寒々とした冬の風景が眼下を飛び過ぎていった。
灰色の曇天の下、針葉樹と白い雪原がどこまでも続いていた。
チャイカは滑空しながら防寒マントを引きよせ、ゴーグルの位置を
直した。翼を大きく羽ばたかせて上昇すると、前方遠くに断崖が見
えてきた。その向こう側は鉛色の海がうねる海峡だった。断崖の突
端に小さな光がゆっくりと明滅していた。燈台の明かりだった。
これから届けなければならない手紙のことを思うとチャイカの表情
はこの冬の空のように曇った。彼は光に向かって飛んだ。


チャイカがはじめて平原を渡った時、季節は春だった。そこかしこ
で緑が芽吹きはじめた平原は、まだ残雪が白くまぶしかった。
「寒かったろう。いまお茶を入れたばかりだ。よかったら飲みなさ
い」ビショップという名の初老の燈台守は、手に持ったカップをチ
ャイカに差しだした。彼は一人でこの北の燈台に住んでいた。
部屋の中は広すぎず狭すぎず、よく片付けられていた。窓辺の机に
は鉢植えの花と望遠鏡。書棚、オルゴール。壁には緊急用のコミュ
ニケーションクリスタルを収めた箱があった。箱の前面はガラス張
りになっていて≪非常の場合はガラスを割れ≫と書かれていた。
老人は受け取った郵便物を仕分けた。ブリタニアジオグラフィック
誌の最新刊、燈台ギルドの会報、それにユーからの絵葉書が一枚。
「今夜は泊まって明日発つといい。夜の間に返事を書いておくから」
その夜遅く。
ガーゴイルの鋭敏な耳は、建物の中のどこかで断続的な金属音が聞
こえているのを捉えた。途切れ途切れに一定のリズムを刻む、それ
はオルゴールを調律している音だった。音階や旋律を微妙に変えな
がら、その音は繰り返し夜明けまで聞こえていた。

夏に燈台を訪れた時、平原には色とりどりの草花が咲き誇っていた。
「郵便配達人の業務ではないのだが」チャイカは郵便物を渡した後、
持参した小さなギフトボックスを差し出した。「個人的な贈り物だ。
お茶のお礼だと思ってほしい」
箱の中には歯車(ギア)が入っていた。音楽ギアだった。
「わたしも音楽を聴くのが好きでね」チャイカが言った。「わたし
は人間世界には家がないのでオルゴールを持っていない。よければ
立ち寄った時にでも聴かせてほしい」
ビショップがオルゴールにギアをかけると、静かなメロディが部屋
の中に流れはじめた。曲を聴きながらビショップは郵便物を仕分け
た。いくつかの刊行物と、ベスパーからの絵葉書が一枚。

夏が去るのは早く、秋の陽光が黄金色に染める平原をチャイカは飛
んだ。テルマーを出てからすでに久しからぬ時間を人間世界で過ご
してきたチャイカだが、友人と呼べる人間の数は多くはなかった。
北の燈台守はその一人だった。
「息子さんからかね」
ポットから自分でお茶を注ぎながら、チャイカは聞いた。
「ああ」と答えたビショップの手にあるのはニュジェルムからの絵
葉書だった。「ブリタニアで軍艦に乗っている。アリシア艦長のシ
ーウルフ号だよ。もともとトリンシックの湾岸警備隊にいたんだが、
何年か前に王立海軍が出来た時にそちらに編入されてね。武勲を立
てて何回も表彰されている。わたしの自慢だよ」
「燈台を継いでもらいたくはなかったのかね」
「とんでもない。こんな仕事はわたし一人でじゅうぶんだよ。人生
は短い。息子には、華やかで人から称賛される仕事に就いてほしい
と思っていた。それが軍艦乗りなら、それでもいいさ」
カップの湯気の向こう側でビショップの眼鏡が揺らめいて見えた。
「こう見えてもわたしはブリテイン育ちなんだよ。子供の頃から音
楽と詩が好きでね。春に草木が芽吹くように、いつか自分の中の才
能が開花する日を夢見ていた。その才能が自分にはあると信じてい
た。吟遊詩人(バード)になりたくて、何年も何年も修業をした。
やがてその夢が果たせないとわかった時、今度は楽器職人を目指し
た。だがけっきょく、わたしがなれたのは辺境の燈台守だった。人
生とは、かくも思うようにならないものだ」
ビショップは棚に並んだたくさんのギアの中から一つ取りだすとオ
ルゴールにかけた。流れはじめたメロディにチャイカは聞き覚えが
あった。はじめて燈台を訪れた夜に聴いたメロディだった。
「わたしの人生も、もう冬だ。いまから新しいことが出来るとは思
えない。だから自分の子供には、自分が行けなかった場所まで行っ
て欲しいと願うのだよ。人間とはそういうものだ」


そして冬。
吹雪の平原を飛んで北限の燈台を訪れたチャイカは、マントに付い
た雪を払い落とした。部屋の中に風が吹き込んで暖炉の炎が揺れた。
今回、郵便物は一通だけ。その手紙を燈台守に手渡す。
これまで同じ手紙を何通も配達してきたチャイカには、手紙の内容
はわかっていた。差出人はブリタニア王立海軍省。文面は短く、た
だ事実のみを告げている。『貴殿御子息、戦死ス』と。
ビショップの手から手紙が落ちた。膝から力が抜け視界が暗転した。

季節はめぐる。冬は去り春が過ぎて、再び夏になった。
「暑かったでしょ」燈台の扉を開けた娘はチャイカに言った。「い
ま冷たいものを持ってきますから、飲んでいってい下さいね」
ビショップは部屋の中にいて、男の子にギアの調律を教えていた。
「夏の間だけ一緒に住むことになってね。息子の嫁と、子供だよ」
「つまりあなたにとっては孫というわけだ」
「夏休みの宿題を終わらせちゃいなさい」奥の台所から先ほどの娘
の声が響いた。「遊んでばかりいちゃだめよ。人生は短いのよ」
「ねえ、おじいさん」男の子が真顔でビショップに聞いた。「ジン
セイってなに?」
「そうだな」ビショップはオルゴールギアを調律する手を休めずに
言った。「人生っていうのは、長い長い夏休みみたいなものだ。時
間があるときには遊んで過ごし、終わり間際になって何一つ出来て
いないことに気付くんだ。それが人生だよ」
その様子を見ながら「ここへ置くよ」と言ってチャイカは運んでき
た郵便物を机の上に乗せた。
いつものように刊行物がいくつかと、一通の封書があった。宛名は、
いま愚痴をこぼしながら宿題のギアを仕上げている男の子だった。
リュートをあしらった紋章のついたその手紙は、ブリテイン音楽ギ
ルドからの入学許可通知だった。








(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


# by horibaka | 2012-02-29 04:00 | その他 | Trackback | Comments(0)
ロストランドからの手紙【4】


 第4章 
ニューコーヴ


チャイカは罠に挟まれた足を引っ張りながら不注意を悔いた。
少し離れたところに、やはり罠にかかった一匹のテラサンがいた。
ニューコーヴへ向かう途中で見つけて不用意に近づいてしまった。
他にも罠が仕掛けられていることは予想できたはずなのに。
テラサン族は半人半虫のモンスターだった。蜘蛛のような大きな腹
と左右四対の節足、しかし上半身と頭部は人型で、両腕の先は五指
ではなくハサミ状になっている。ドローンと呼ばれる種類だ。
チャイカは自分の足首を挟んでいる罠を調べた。頑丈だが、時間を
かければ外せそうに思えた。その足音が聞こえるまでは。
一頭、また一頭と茂みから現れたのはヘルハウンドだった。全部で
五、六頭のヘルハウンドは、いまいましいことに罠の場所を知って
いる足取りで近づいてきた。先頭の一頭が身体を屈めて力をため、
チャイカに飛びかかった。しかしそいつはチャイカを飛び越えて地
面にどうと倒れた。その額には一本の矢が深々と刺さっていた。
「動かないでね」ふいにそばで子供の声がした。いつからそこにい
たのかすぐ脇にダンが立っていた。「こっちだ」ダンは両手を振っ
てヘルハウンドの注意を自分に引き付けた。じゅうぶんにチャイカ
から離れると彼は「ディーナ!」と叫んで、その身体は唐突に消え
た。隠蔽(ハイディング)のスキルだった。
バンダナを巻いた背の高い少女が放った矢は、二頭目の額も正確に
射抜いた。少女はすぐに矢筒から矢を抜いた。次のヘルハウンドは
すでに跳躍の姿勢をとっている。どちらが早いか。
「An Ex Por!」
青白い閃光が走って勝負を無効にした。パラライズの魔法にかかっ
たヘルハウンドは身体を硬直させ、その額を矢が射抜いた。
「もう、エリーったら! 間に合ったのに!」
「あら、ごめん」眼鏡の少女が笑った。「でも選手交代よ」
その背後の茂みから別のヘルハウンドが猛然と眼鏡のエリーに襲い
かかった。弓も詠唱も間に合わない。
バシッ!と鋭い音がしてヘルハウンドは弾き返された。
「今日は俺様まで出番が回ってきたな」年長のギャリーが体術のポ
ーズを構えていた。体格のいい少年だったが、素手の力だけでヘル
ハウンドは跳ね返せない。格闘(レスリング)スキルだ。
弓と魔法と拳が交差して、残ったヘルハウンドは逃走した。
「クリス、追って。騙しじゃないかどうか見て」
同じ顔をした小さな男の子と女の子が姿を現した。双子のクリスと
リンダだ。男の子がヘルハウンドの去った方角を見て目を細めた。
「西の沢の向こうまで逃げてるよ。まだ走ってるからホントじゃな
いかな。あ、一匹こけたよ」追跡(トラッキング)スキルだ。
「いま外してあげるからね」クリスと同じ顔のリンダが祈るような
仕草をすると、チャイカの足を挟んでいた罠がガチャリと外れた。
あちこちでガチャリ!ガチャリ!と罠が外れる音がした。あらゆる
罠を外すことが出来る罠解除(リムーブトラップ)のスキルだった。
「ブレア、落ち着かせて」
長髪の少年が横笛を吹き鳴らすと、沈静(ピースメイキング)スキ
ルの効果でテラサンの震えが止まった。
「テラサンは殺したらダメなんだ。群れで仕返しに来るから、あと
で面倒なんだよ」
子供たちはテラサンを森に返した。

ニューコーヴの子供たちがこれほどのスキルの使い手であったこと
には驚かざるを得ない。今日、ブリタニア世界ではあらゆるスキル
が廃れつつあった。かつてブリタニアは冒険者と呼ばれる人々の世
界だった。冒険者はスリルや名声や富を求めてダンジョンに潜り、
また未開地を切り拓いては町を作っていった。いまその町に住んで
いるのは役人、兵士、投資家、市民だ。彼らは冒険はしない。
幼少の頃から最辺境の地で生きてきた環境が、子供たちの眠ってい
た冒険者の遺伝子を覚醒させたのかもしれない。
だが、その日の子供たちの苦労はすべて徒労だった。
町の入口に並んだ×字型の磔(はりつけ)台には三匹のテラサンの
死体が吊るされ、その周りでは大人たちが気勢を上げていた。
「ダン! また畑仕事をさぼりやがったな」アーロンが振り返って
怒鳴った。「今日中にトウモロコシの刈り入れだぞ」
「わかったよ、父ちゃん」
アーロンはチャイカに向かってあからさまに敵意ある声を投げた。
「悪いな、ガーゴイル用のはまだ出来てねえんだ」
「何か問題でも?」
「いいか。ここは人間の土地だ。おれたちがモンスどもから切り取
って建てた町だ。誰には渡さねえ。おれたちはここを守って、もっ
といい町にするんだ。子供や、そのまた子供たちのためにな」
「あとで学校に来てね」
ダンはそっとささやくと、先に町に入って行った。

集配を済ませたチャイカが学校に行くと、教室では子供たちが輪に
なって勉強をしていた。だが大人の教師の姿はなく、年長の子が年
下の子供たちを教えていた。
「先生はどうしたのかね?」
「この前本土に帰っちゃったよ。転勤のジレイが来たって」
「でもわたしたち勉強が好きだから。こうして学校を続けているの」
「ぼく、字が書けるようになったよ! 今度来るときまでに手紙を
書いておくから、配達してね」
「たくさん勉強したいんです。郵便屋さんも何か教えて下さい」
チャイカは子供たちにテルマーのこと、それから彼が人間世界を旅
して見聞きしたことを話して聞かせた。
子供たちは真剣な顔でチャイカの話に聞き入った。そしてまだ見ぬ
世界に想いを馳せ、将来の夢を語り合った。
ブリタニアに行ってみたい、王都やべスパーやトリンシック。マラ
スにも行ってみたい。ハートウッドや、禅都にも。でも最後には、
またニューコーヴに帰って来るんだ。ここがぼくらの故郷だから。
お父さんたちがぼくらのために一生懸命に作った町だから。大人に
なったらぼくらが継がなきゃいけない町だから。はやく大人になり
たい。大人になったら、もっといろんなことが出来るから……。
そのとき、眠っていた女の子が目を覚ました。女の子は顔を上げる
と、澄んだ青い目で真っすぐチャイカを見て言った。
「ありがとう、郵便屋さん。ほんとにありがとう」
チャイカは意味が分からず、他の子の顔を見た。
「ルシアのスキルは予知(プレコグ)なんだ」ダンが言った。
「彼女の予知は外れたことがないんだよ」
「あなたはニューコーヴを助けてくれる」女の子の目から一筋の涙
が流れた。「あなたはわたしたちの町を救ってくれるわ」








(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


# by horibaka | 2012-02-28 03:33 | その他 | Trackback | Comments(0)
ロストランドからの手紙【3】


 第3章 パプア


魔法使いが言った。「賭けをしようぜ、兄弟」
チャイカは怪訝そうな表情を浮かべたが、ガーゴイル族の表情は男
には通じていないようだった。生物学的に異なる起源の種族なので
兄弟でも類縁でもないことを指摘すべきかチャイカは迷った。
「賭けっていうのはわかるよな」男は構わずに続けた。「なあに簡
単な遊びだよ。次に魔法陣から出てくるのが男か女か当てるんだ」
「何を賭けるのだね?」
「負けた方が昼飯を奢る。どうだ?」
午後の陽射しがパプアの町を容赦なく照りつけていた。パプアでは
どの建物もそうだが、チャイカがいまいる魔法屋も高床式で床の下
に風を通して蒸し暑さを和らげるようになっていたが、たいした効
果はないようだった。パプアの魔法屋の片隅にある魔法陣は、ブリ
タニアのムーングロウの魔法屋の魔法陣とリンクしていた。その上
に乗って呪文を唱えれば誰でもブリタニアと行き来することが出来
る。この魔法陣の起動には、魔法スキルは必要なかった。
「男」チャイカが言った。
「それじゃおれは女だな」

チャイカはパン屋の店先から声をかけた。
「パンはあるかね」
「ええ、もちろん」パン屋の娘はそばかすのある頬にえくぼをつく
って可笑しそうに笑った。笑うとツインテールの髪が揺れた。
「昼食を食べそこねてね。何かパンがほしいのだが」
「あなた郵便屋さんね!」娘はチャイカの制帽を見て言った。
「ちょうどよかった。 手紙を出したいの。これよ」
郵便配達人にも昼食をとる権利くらいあるだろうと思いながら、チ
ャイカは差し出された封筒を受け取った。差出人の名前を見て「ヒ
ルデガルドさん?」
「ええ。それがあたしの名前。ヒルダって呼んでね」
「ではヒルダ。わたしはパンを……」
「その手紙、ラブレターなのよ。ラブレターってわかるかしら」
「愛情を告白する文書だ。わたしはパンを……」
「それをブリテインのビリーに届けてね。宛先は書いてあるわ」
「ではブリタニア行きの便に乗せよう。だからパンを……」
「お願いね。ビリーは幼なじみなの。子供の頃よく遊んだわ。彼、
右の目の下に傷があるの。子供の頃、あたしがモンバットに襲われ
た時に彼が助けてくれたの。その時の傷なのよ。彼の家は猟師でね、
ときどきお父さんと一緒にワイバーン島へ狩りに出かけて何週間も
帰って来なくてね。待っている間は寂しかったわ」
「いまはブリテインに住んでいるのかね」ヒューマンの、特に若い
女性の生態には、チャイカにはいまだに理解し難いものがあった。
聞かれもしない身の上話をなぜこうも話したがるのだろう。
「騎士になるんだって、王都へ行ったのよ。一年経ったら必ず戻っ
て来るって。あたしを迎えに来るって」
「彼を信じて待っているのだね」
「ええ、もちろん! 離れていたって絆があるもの」

パプ
アは大きな町だったので、チャイカは頻繁に郵便物の集配にこ
の町を訪れた。そして彼が行くたびに、パン屋の娘は王都にいる恋
人への手紙を彼に託した。
「長いこと離れて暮らしていると心配ではないかね」
「心配よ。でもあたしは絆を信じてるから。絆ってわかるかしら」
「つながりのことだね」
「そそ。人と人とのつながりよ。人間は一人では生きていけないか
ら、絆を信じるのはとても大事なことなの。わたしはビリーを信じ
ているから頑張れる。ビリーもきっと同じはず」
ある日、チャイカがいつものようにパン屋を覗くとヒルダは店にい
なかった。他の店員が、ヒルダは使いに行っていると答えた。
「いつも彼女から手紙を預かるので寄ってみたのだが」
「手紙って……もしかしてビリーへの手紙?」
チャイカが頷くと、その店員は呆れたように首を振った。
「あの娘、まだビリーを待っているの?」
「何か問題でも?」
「どこで何をしているかもわからない男なのよ!」
「ブリテインへ騎士修業に行っていると聞いているが」
「猟師が騎士になんてなれるわけないじゃん! もう諦めなって何
度も言ったのに。本当に可哀そうな娘なんだから」
「その彼は」手紙の依頼人の人間関係を問うことは郵便配達人の業
務には含まれていなかったが、チャイカには聞かずにいられなかっ
た。「ブリテインへ出かけたのはいつ頃のことだね?」
「もう二年以上も前よ!」
「予定外に修業が長引いているのでは?」
「それじゃ聞くけど」女はこわい目つきになってチャイカをにらん
だ。「一度だってあの男から返事がきたことある? ヒルダはあん
なに一生懸命に手紙を出したのに、あんた一通だって彼からの返事
を運んできたことあるの?」

「さて、今日はどっちに賭ける?」魔法使いがチャイカに言った。
午後の陽射しがいつものようにパプアの町を焼いていた。
必ずしも暑さのせいばかりではない疲労感にチャイカの翼は重かっ
た。チャイカはしばらく考えてから言った。
「男だ」
「あんた、いいカモだな」
「わたしの名前はチャイカ(カモメ)だが」
「なぜ男にばかり賭けるんだね」
「わからない。だが、わたしも信じてみたいのだよ。絆をね」
その言葉は魔法使いには意味不明だったが、彼の頭の中では既に昼
食のメニューがリストアップされはじめていた。
そのとき魔法陣がボンッと鳴った。
真新しいマントに身を包んだ若い騎士が魔法陣から降り立った。
その騎士はゆっくりと歩みを移してチャイカたちのテーブルの前に
来ると礼儀正しく「こんにちは」と挨拶した。
「こんにちは」とチャイカは言葉を返した。
「ちょっとお尋ねしますが」若い騎士は言った。「パン屋にはまだ
ヒルデガルドという名前の女性がいますか」
「いますよ」とチャイカが答えると、若い騎士はうれしそうに微笑
んだ。その右の頬に古い傷跡があるのをチャイカは見た。
騎士は丁寧に礼を言うと魔法屋を出てパン屋の方に歩いて行った。
あっけにとられている魔法使いにチャイカは言った。
「わたしの勝ちだな、兄弟」








(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


# by horibaka | 2012-02-27 04:22 | その他 | Trackback | Comments(0)