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BNNアーカイブ 準備

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準備

投稿日:2002年5月11日


全シャード
ケイバー(Kabur)の重い足音が、エクソダス(Exodus)の部屋に通じる廊下に鈍く響きわたった。戦場から呼び戻されて、彼は機嫌が悪かった。特に今は、人間どもを存分にいたぶれる最高の時だったのだ。司令官という重責を担うのはよいが、会議ばかりで嫌になる時もあった。だが、彼の主人であり、彼らの種族を絶滅から救った存在の命令には、絶対に逆らうことはできない。

大広間のドアが音もなく左右に開くと、ケイバーは、いつも地位の高さを盾に偉ぶるあの忌々しい人間、ブラックソン(Blackthorn)の姿を探した。だが、そこには彼の気配は感じれらなかった。こちらの世界に来てから、彼がエクソダスに直々に呼び出されるのは、今回が初めてだった。ケイバーは、主人の声がする部屋の暗がりに向かって、深々と頭を下げた。ブラックソンがいないのは妙だと感じたが、あの横柄な原始人と口をきかなくて済むと思えば気が楽だ。

「我らが主なるエクソダス様、ケイバー、はせ参じまして御座いまする」

岩をも砕くかと思われるエクソダスが、部屋中を振るわせた。「おまえとジュカ(Juka)の者どもは、よく尽くしてくれている。作戦の首尾を報告せよ」

ケイバーは立ち上がり、暗がりを見上げた。「進軍の妨げとなる障害には、いまだ遭遇しておりません。滞りなく都市の破壊と人間どもの抹殺を遂行しております。竜騎兵隊も……それなりに貢献している模様であります」この偉大なる戦士にとって、人間と肩を並べて戦うことほど誇りを傷つけられることはなかった。それはジュカ族全体に対する屈辱だと、彼は感じていた

「ユーで戦ったお前から、その地の様子を聞きたい」

「ユーは全土にわたり、想像をはるかに超える変化を遂げております。森の樹木は根を土より引き上げ、人間に襲い掛かっております。動物は、私の見る限りにおいては肉体の形状を失っております。大地そのものも、湿気を増し、ぬかるみ始めております。かかる変化の中にありながらも、我がジュカ軍はまったく影響を受けておりません。植物は我々には攻撃しようとはせず、奇形化した動物たちも、ジュカを狙う事はありません」ケイバーはしばらく言葉を止め、次に伝えるべき情報を頭の中でまとめた。「斥候の情報によりますれば、ミーア(Meer)どもは病に冒され始めているとの事であります。もはや、我らの脅威ではありません」

エクソダスの声が響いてくる暗がりの中で、小さなライトがしばらく瞬き、やがて闇に飲まれていった。続いて、歯車が回転する音が大きくなったかと思うと、またすぐに静かになった。「腐敗の術を使うとは、ミーアも愚かな真似をしたものだ」

腐敗という言葉を聞いて、ケイバーは目を細めた。これまでミーアは、もう後がないという最後の最後、捨て身の切り札としてその術を使ってきた。腐敗の凄まじい嵐にもまれ、将校も兵士達も変わりなく土くれとなって消えてゆく光景を、ケイバーは一度目にしているのだ。

エクソダスの耳障りな声はさらに続いた。「ユーを救おうとした事で、ミーアはユーの未来を永遠に封印してしまった。ミーア自身の未来もだ。ケイバーよ、このまま街の人間どもを攻撃し続けるのだ。そうすれば、今にミーアは我らの意のままに動くようになる。もし、ミーアが己の身を守ろうと反撃に出るようなことがあれば、ジュカ軍と竜騎兵を引かせるのだ、ケイバー」

「退却せよと?」主人には特別な策があるとは承知していたが、ケイバーにとってそれは不本意な命令だった。「という事は、新しい任務をお与えくださるのですか、エクソダス様」

「しばらくお前とは連絡がとれなくなる。戦況が複雑化しても、私は指示を出せない。そうなれば、大切な兵をいたずらに失うことになるからな」

その言葉に、ケイバーは動揺した。エクソダスは、ジュカを支配下に入れてからこのかた、ありとあらゆる物事に口を出してきたからだ。エクソダス不在という状況など、考える事もできない。「どちらかへ、お出かけになられるのですか」

モーター音が大きくなり、また静かになる間、沈黙が続いた。「目的を達成するためには、私は別の場所に注意を向けなければならんのだ。そのためには、準備が必要となる」

「では、ブラックソンが……」ケイバーは、目の前にいる時以外、ブラックソンに敬称をつけて呼ぶ事はなかった。「あなたがお帰りになるまでの間、ヤツが全権を握るという事でしょうか」質問をするケイバーの声には、重苦しい険があった。

「ブラックソンは私の活動の事を何も知らない。ここでの話も、お前に対する私の命令も、ヤツの耳に入れてはならん。ケイバーよ、お前の口の固さを信じているぞ」

「承知いたしました」ケイバーはヘルメットの下でニヤリと笑った。「決して漏らしません」








5:45 2017/06/07

by horibaka | 2017-05-22 05:43 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 兆し

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兆し

投稿日:2002年5月10日


全シャード
「クレイニン!後ろよ!」

クレイニン(Clainin)が身を屈めるやその頭上を飛び越えたドーン(Dawn)は、その勢いで祖父から受け継いだ剣を怪物に深々と突き刺した。怪物の体は真っ二つに割れ、気味の悪い悲鳴を上げてのたうちまわると、見る間に土に戻っていった。ほかに襲いかかってくる植物怪人が残っていないか、ドーンは素早くあたりを見回し確認したが、どうやら、しばらくは心配なさそうだった。
ジュカ(Juka)はまだ町の中だけで暴れている。彼らがこっちまで来る気配もない。

「これはすごい!」クレイニンは化け物の死体の脇にしゃがみ込むと、組織の一部を拾い集めて、せっせとガラスの瓶に収めていった。

「それだけ喜んでもらえれば、嬉しいわ」ドーンは皮肉っぽくクレイニンに言った。「でも、それの標本が欲しいだけだったんなら、わざわざ私といっしょにユーくんだりまで来る必要はなかったわよね。それを集めるぐらい、私にもできたから」彼女は体から引き剥がすようにして鎧を脱ぎ捨てた。「それに、私一人なら、この鎧ももっと早く脱ぐことができたわ」

クレイニンは、食い入るように作業を続けながら、怪物の死体から目を離さずに言った。「ドーン、それはロイヤルナイトの鎧だ。名誉に思うべきだよ。」

「思っているわよ。ただもうちょっとその名誉の着心地がよかったらね。いつもの服ならもっとうまく戦えるわ。見た目の問題じゃないの。」

「言いたいことはわかるような気がするよ」クレイニンは彼女を見上げて白い歯を見せた。「ニスタル(Nystul)の研究室は、僕には広すぎるんだ。だけど、みんなもそれぞれ頑張ってるんだから、文句は言えないよ。僕にはニスタルの不在を埋めるという責務があるんだからね」

ドーンは剣を鞘に収めると、クレイニンの近くに横たわる倒木に腰をかけた。「不在っていえば、デュプレ(Dupre)はどうしたのよ?とても重要な任務だって言ってたじゃないの。それなら、彼が来るべきでしょう?」

「派閥の任務だよ」彼はガラス瓶を持ち上げて中身を凝視しながら答えた。「このめちゃくちゃな戦争で、彼も相当まいってるんだよ。たしかに、これはとても重要な任務だ。だからこを、キミが選ばれたんじゃないか。デュプレがキミを信頼してるっていう証拠さ」彼はドーンに微笑みかけた。

「キミは天下のロイヤルナイトなんだぜ」

彼女ははにかんだ笑いを浮かべた。「つまり、細かいお役目でなら私を信頼できるってわけね?」

「ああ、ごめん。僕はここのところの……」彼は怪物の死体に目を戻した。それはもうすでに通常の腐葉土と見分けがつかないほど分解が進んでいた。「……騒動で頭がいっぱいになっちゃって。ミーア(Meer)の代表から、ここで会おうと申し出があったんだ。ものすごく重要な話があるって。たぶん、この新しい植物のお友達と関係がある事じゃないかと思うんだ」

彼らの背後に光が現れた。光は、魔法特有の振動音を発しながら次第に強くなっていった。ドーンは咄嗟に立ち上がり、素早く体を回転させると剣を構えた。光が消えると、そこにはアドラナス(Adranath)が、背後にダーシャ(Dasha)を控えて立っていた。ドーンは安心して剣を鞘に戻した。

「お若い方、見事な身のこなしね」ダーシャがドーンに微笑みかけたとき、彼女は激しく咳き込みはじめた。しかし、アドラナスが彼女の肩に手をかけると、すぐに収まった。

クレイニンが緊張した面持ちで前に歩み出て、ミーアの長老に対して頭を下げた。「アドラナス先生ですね。お会いできて光栄に存じます」

アドラナスの片方の眉がピクリと動いた。彼はクレイニンを上から下まで舐めまわすように見つめると、さっと周囲を見回した。「今日は、最長老の魔道師をお会いする約束じゃったはずだが……、長老は、どうされたかな?」

クレイニンは助けを求めるようにドーンの顔を見たが、すぐにアドラナスに視線を戻すと、こう答えた。「私が……私が長老でございます」

「その若さでかね!」アドラナスはびっくりして目を見開いた。しかし、気まずそうにしているクレイニンに気づき、言葉を繕った。「よほど特別な才能をお持ちの方とお見受けした。失礼をお許しくだされ。こちらこそ、お会いできて光栄に存ずる」彼はクレイニンの不安を取り除く意味も込めて、深々と頭を下げた。そして上体を戻したとき、必死にこらえようとした歯をくいしばったその口から、咳が漏れ出した。

クレイニンは、相手の顔色を気遣いながら訊ねた。「不躾な事を伺いますが、あなたもダーシャ様も、お体の具合がよろしくないようにお見受けします。お薬が必要なら、ここにも少しございますが」

「たぶん、薬ではどうにもならんじゃろう。ユーの近くでは病がいっそう悪くなる。長居はできぬ。しかし、どうしてもここへ来る必要があった。我々がどれほどの被害を与えたのか、この目で確かめたかったのじゃ」

「被害?」ドーンが口を挟んだ。「奇妙な植物の化け物があちこちに現れていますが、ユーの情勢には変化がないように思われます」

「わしの言う被害とは、怪物を出現させる原因となったものじゃ。申し訳ないが、それはもっと恐ろしいものを出現させる。ジュカの攻撃を止めるためには、良心に逆らって強大な破壊力をもたらす必要があったのじゃ」咳の為に再び話が途切れた。「我々の足元で、それは確実に育っている……」

「ユーの地下で何かが育っていると?」クレイニンは訊ねた。

「腐敗じゃ」アドラナスは答えた。「ミーアに古くから伝わる魔法でな、過去に我々は、種族の存亡がかかる一大事にのみ、自然の力を逆手にとるこの腐敗の術を使ってきた。そもそもこの魔法は、敵を捕らえ瞬時にして土に返すというもので、ジュカの襲撃部隊もこれによって消滅するはずじゃった。腐敗とは、自然に恐ろしい所業を強要する、実に背徳的な術なのだよ」

「それをユーにお使いになったのですか?」ドーンが聞いた。「でもジュカはピンピンしております!」

「試してはみたのだが、失敗してしまったのじゃよ。化け物が現れるまで、我々にも確信が持てなかったのじゃが、自然が……姿を変えてしまったようなのだ。長い時間をかけて、魔性の物どもが自然を汚し、己の都合のいいように、無理やり自然を作り変えてきた。そのつけがまわって、腐敗の魔法は歪曲化し、より強力に、そして恐らくはもっと悪質な方向へ変形しまったのじゃろう。それは、植物の怪物を生み出しただけにとどまらず、ミーアにも疫病をもたらした。我々が病に冒されたのは、ちょうどジュカへの攻撃準備を進めているときだった」ここでまた、アドラナスは咳の発作に襲われた。それは非常に激しく、通常の人間には正視できないほどであった。

「あなたがおっしゃるとおり、その魔法が成長を続けているのなら、あの怪物の出現は、ほんの序の口という事ですね。あなたの説明から察すると……その魔法は世界そのものに影響を与えたというわけですか?」それほど大規模な魔法が、いったい何を引き起こし得るのか、クレイニンには想像もつかなかった。「考えるだけでも恐ろしい」

ダーシャが一歩前に歩み出た。またしても始まった発作を抑えると、こう切り出した。「本日は、ジュカに対抗する同盟のお申し出を受けるため、ここへ参りました」ドーンを見つめるその顔には、自尊心を押さえつけている様子がありありと伺えた。ダーシャは指が空を差すように、手のひら正面に向けて、片方の手を前に突き出した。しばらくしてドーンも同じように腕を突き出し、手と手を合わせた。次にどうしてよいのか戸惑っていると、ダーシャはドーンの手のひらに自分の手のひらを押し当て、指を組んでしっかりと手を握ると、ようやく腕を下ろした。このとき、2人ははじめて笑顔を交わす事ができた。

「我々の無礼をどうかお許しくだされ」アドラナスは言った。「我々のいた時代では、人間は今のあなたたちとは似ても似つかぬ存在でな、人間に援助を求めるなどという事は、とにもかくにも……初めての事で」アドラナスは、ゆっくりとユーの原野を見回した。「これから、我々があの魔法で犯した間違いを是正させてもらわなければならん」

「ほかに、その魔法の影響で考えられる事は?今よりもっと植物怪人が増えるのでしょうか?」クレイニンは訊ねた。

「何とも言えぬ」高齢のミーア人魔道師はその場にしゃがみ込み、地面に手のひらを押し当てた。「魔法がこの土地に浸透して、自然体系を変えてしまったのだ。何が起こっても不思議ではない。この下で腐敗の術が生きているのを感じる。何か手を打たぬかぎり、成長は続くだろう」

「研究室に戻りましょう」クレイニンが呪文の書に手をやりながら言った。「あなたがたの治療に関して、お力になれると思います」

「治療?」アドラナスが咳にむせながら聞き返した。

クレイニンが答えようとすると、木立の中から、ぼこぼこと泥が湧き出るような音が聞こえてきた。全員が音のするほうへ顔を向けると、巨大なものがこちらへ向かってくるのが見えた。それは肉の塊のようなもので、いびつな裂け目のような口がいくつも開き、いくつもの目玉が不規則に体全体を包んでいる。目は、見えていたかと思うと体内に引っ込み、また別の場所から現れた。土手のような体の片側からは、鹿の胴体が半分だけ奇妙な角度で突き出ている。だが、すぐにそれは体の中に吸い込まれ、骨を砕くような、湿った気持ちの悪い音が響いた。そして、あちらこちらに口が開き、前進を続けながら血まみれの骨を吐き出した。

ドーンは剣を構えたが、そのおぞましい姿を見るや、いつでも退却できる体勢に切り替えた。「いったいなんなの、あれは?」

「腐敗の新しい産物だな!ついに作用は動物にまで及んだという事だ。あれも元は普通の森の動物だったに違いない。それが魔法に侵されて変形したのだ」アドラナスは咳をこらえながらクレイニンを振り返った。「ここは逃げるが勝ちだ」

そうアドラナスが言い終わらないうちに、クレイニンはもう、ブリテイン行きのムーンゲートの呪文を唱えていた。間もなく4人は音もなく光の門を抜け、姿を消した。一方、巨大な粘液状の怪物は、そのまま町に向かって移動を続けた。







2:07 2017/06/06

by horibaka | 2017-05-21 02:05 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 種子

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種子

投稿日:2002年4月30日


全シャード
アイエラ・リー(Aiella Leigh)は、その日、千本目かとも思われる木のあたりで手綱を引いた。地面に降り立ち、馬を草むらに放すと、彼女は茂みの中からそびえる立派な木々を畏敬の目で眺めた。ブリタニアでもこの地方は、弓師にとって最高の場所だった。カシ、クルミ、オヒイなどの木が、巨大なイチイの木と肩を寄せ合うように密集しているからだ。木材なら、彼女の小さなレンガの家の近所だけで十分に事足りてしまう。切り出し作業は単調で退屈だが、ときおり迷い出てくるエティンや大蜘蛛が変化を与えてくれる。本気で戦うときは、やはり自分で作った頑丈な弓がいちばん頼りになるが、咄嗟の場合には、仕事の道具である斧が武器になる。そんなわけで、彼女の斧を使った戦闘術は、かなりの腕前に達していた。

近頃では、いざというときは弓矢、と考える人が増えているようで、作っても作っても弓が足りない状態が続いている。つい昨日作った百本の矢も、すぐに売り切れてしまった。それと言うのも、安全な距離からジュカ(Juka)を攻撃できる弓矢や魔法に人気が集まっているからだ。仕事が上々で文句を言う人はいない。お蔭様で、弓矢は飛ぶように売れ、彼女は、欲しいものは何でも買える好況を楽しんでいた。

「遊んでる場合じゃないわね」彼女は声に出して言った。「しごと、しごと」

間もなく、木を刻む心地よいリズムが響き渡った。アイエラは木を切り出しては、ラマの背中にしっかりと縛りつけていった。弓と矢、それに石弓の矢をそれぞれ数十組分の予定量の木材は、まったく邪魔が入らなかったためか意外に早く集まり、ラマのラーマ(Rama)の背中がすぐに一杯になってしまった。そこからまた馬にまたがり北へ向かう。しかし、ユーの街に近づくにつれ、彼女は異変に気が付いた。彼女の相棒であり、そこそこの体格を誇る馬のデューク(Duke)が、いつものような軽い足取りで街へ向かおうとせず、嫌々をするように右へ左へと飛び跳ねる。アイエラからもらう果物や麦にだけ特別な興味を示し、そのほかのことにはまったく無関心な太っちょのラーマも、彼女の言うことを聞かず、素直についてこようとしない。彼女は、いつでもデュークの脇腹を蹴って一目散に逃げられる体勢を整えると、動物たちが凝視する方角を、木と木の間から恐る恐る探ってみた。たしかに、そこでは何かが動いていた。

だがそれは、彼女が恐れていたジュカではなかった。はっきりとしない形の何かが、よたよたと近づいてくる。彼女は、ラーマが積んでいるのが木材ではなく弓矢だったらと悔やみながら、斧の柄を握り締めた。それは、見たこともない姿の生き物だった。こんなご時世だから、よくないものに違いない。見られていなければいいが。たまたまこちらへ向かって道を歩いているだけならいいが。それなら、相手が何者であれ、逃げることは可能だろう。彼女はもう一度小さな声でラーマについてくるよう命じ、デュークには、静かに道から北東の方向へ離れて、我が家へ向かうように命じた。できることなら戦いたくないと祈りつつも、いつでも斧を振れる体勢は崩さなかった。

その生き物は、目と鼻の先にいる彼女には気が付いてはいないようだった。彼女が見た限りでは、それはどこに立っているのかわからなかった。地面とそれの境目がない。まるで地面がそこだけ盛り上がっているように見える。身長は平均的な男と同じぐらいだったが、人間の形とは似ても似つかない。おまけに、それの方角から、風に乗って野菜が腐ったような悪臭が漂ってくる。突然、ラーマが取り乱し、甲高い声をあげて走り出した。気づかれた。アイエラは咄嗟にデュークの脇腹を蹴り上げた。デュークは待ってましたとばかりに、アイエラの命令を受けるまでもなく、必死になってラーマのあとを追いかけた。だが、あの嫌な臭いが離れない。前からも横からも匂ってくるようだ。懸命に逃げているはずなのに、ラーマはどんどん化け物に近づいているように感じられた。アイエラは、あれを遠く引き離していることを願って肩越しに振り返った。しかし、引き離すどころか、追いかけてくる化け物が1匹増えているではないか。新しく現れたほうは、やや小型だが、人間に近い形をしていた。

そんな馬鹿な!今の今まで、2匹目はどこにもいなかった。まるで、あの腐った野菜のお化けから飛び出してきたような感じだ。前方に目を戻すと、そこにも2匹が……、いや、4匹だ。アイエラは全身の力を使って手綱を引き、化け物のいないムーンゲートのある方向へとデュークを急回転させた。ところがムーンゲートに向かう途中、数匹の化け物に囲まれている一人の戦士が目に入った。アイエラは、混乱するデュークの手綱を再び引き付けると、乱闘の只中へ飛び込んだ。彼女の斧が風を裂く。最初の目標は、戦士にいちばん近いやつだ。それが奇妙な悲鳴を上げて倒れると、ようやく馬から飛び降りる猶予ができた。

「デューク!かかれ!」激しい戦いの騒音の中で彼女は叫んだ。

馬に命令が届いたかどうかを確かめる間もなく、彼女は再び戦士の背後に駆け込んだ。視界のほんの片隅に、ちらりと見えた戦士の様子から、彼女は彼に関して必要なすべてを知ることができた。戦士のリングメイルは、いくつものリングが切れて大きく裂けていた。その下には無数の切り傷があり、大量の血が流れ出ていた。野戦医療の知識のない彼女が見ても、助かる見込みがないことは明らかだった。たとえこの戦闘を生き延びたとしても、長くは持たないだろう。だが、かなり弱ってはいるものの、彼がいればこの戦闘を勝ち抜くチャンスはある。そしてついに、5匹の化け物が地面に横たわり、周囲に静寂が戻った。

大きな代償を払っての勝利だった。ラーマは殺され、デュークもかなり辛そうに後ろ足を引きずっている。そして戦士は、ついに名前すら聞くことはできなかったが、体をふらつかせながら、自分で包帯を巻こうとしていた。ここに長居はできない。6匹目がどこへ消えたかわからないからだ。それがいつ戻ってくるとも知れない。もし再び現れたなら、たった1匹であっても、もう二人には戦う力は残っていない。

「馬に乗って」彼女は戦士にそういうと、立ち上がらせようと体を引っ張り上げた。彼の体から伸びた何本もの包帯の端が、風に吹かれてはためいた。デュークのところへ連れて行こうとすると、戦士は力なく抵抗を見せた。そこを無理やり馬に押し上げたのだが、彼はそのまま地面に転げ落ちてしまった。

「まるで水銀と戦っていたかの様だ……。奴らは増え続けたんだ」弱々しいながらも、驚愕の言葉が彼の口をついて出た。そして目を閉じると、もう二度と開くことはなかった。

アイエラは地面に膝を突き戦士の状態を確かめたが、すでに息絶えていた。戦士の遺体は、この場に放置するしかなかった。馬は怪我をしているし、いずれにせよ彼女一人の力では運ぶことはできない。そこで彼女は、彼が横たわっている場所に目印を立てた。どの途、ラーマの木材を取りに戻らなければならないからだ。立ち上がると、戦士と化け物の死体の間に、妖しいほど鮮やかな色をした植物の種のようなものが散らばっているのが見えた。彼女は強く興味をそそられた。だがゆっくり見ている時間はない。急いで片手に掴めるだけ掴むとポーチに押し込んだ。そして、デュークにまたがり、早足でムーンゲートに向かった。馬が通ったあと、ひづめでできた土のくぼみに泥水が染み出た。しばらくすると、土が動いて蔦や草が一箇所に集まり、ゆっくりと塊を形成し始めた。それは脈動しながら次第に大きくなり、大きくなるにつれて、脈も早くなっていった。








4:28 2017/06/05

by horibaka | 2017-05-20 04:27 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 呪文の儀式

いまではユーの腐敗を知らない人も多いかもしれませんが。
かつてユーの土地は長い間腐敗によって汚染されていました。
これはその腐敗が起きたときのお話ですね。



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呪文の儀式

投稿日:2002年4月23日


全シャード
ミーア(Meer)族地下祭室の中、テレポーターの入り口を飾る木彫りのタイルの上に、微かな光が瞬いた。光の明滅が終わると、ダーシャ(Dasha)は一度だけ目をしばたき、猫のような鋭い視線を集中させながら、薄暗い大広間をアドラナス(Adranath)に向かって静かに歩き出した。彼に近づくにつれて、ダーシャの表情は、わずかずつだが緩んでいった。

『やあ、おかえり。ご苦労じゃったな。人間との会合は楽しかったかな?』戦士の治療のために世話しなく動かしている手元から目を離さないまま、アドラナスは言った。

『楽しいというか……ええ、まあ』彼女は魔道師アドラナスの施術が終わるのを待つことにした。戦士の折れた足がポンと元の形に戻り、アドラナスの手を包んでいた光が消えると、彼はようやく彼女に顔を向けて、微笑んだ。

『楽しかったと顔に書いてあるぞ。ずいぶんご無沙汰じゃったが、まだ治癒の腕は衰えていないようじゃ』アドラナスはダーシャに優しい笑顔を見せた。ミーアの戦士は、瞑想を続ける仲間のもとへ去っていった。

『すみません、先生。人間との会合のことを思い出していたもので』彼女はエターナルの近くに腰を下ろした。『私は人間の城で、人間たちと同じテーブルについて話をしてきました。全体的に、とくに嫌な思いはしませんでしたけど、まったく想像もしていなかった世界でした』

『面白かったじゃろう? ワシが観測人(Watcher)として現役じゃったころ、このイルシェナーで見かける人間といえば、つい最近まで、原始的な連中ばかりじゃった。今のようなマトモな人間が現れたのは、彼らが魔法の魔術にかかってからじゃな』アドラナスはくすりと笑った。『それで、彼らの町を見てきたのじゃろう?ブリテイン……とか言ったかな?』

『はい、それはもう驚きでした。人間は、とても……きちんとしていました。なかでも、デュプレ(Dupre)と名のる立派な戦士がおりまして、共にジュカ(Juka)と戦うための同盟を組もうと申し出られまして』ダーシャは鼻で笑いながら言った。『あまりにもプライドが高すぎて、素直に助けを求めることができない様子でしたわ』

『助けてやって困ることはないじゃろう、ダーシャ?』アドラナスは静かにたずねた。『あのときの混乱の中で、ジュカを一気に殲滅してしまおうと焦ったワシがいけなかったのじゃ。ワシがしっかりしていさえすれば、エクソダス(Exodus)がやつらをこっちの世界へ連れてくることもなかったはずじゃ。結果として、人間に迷惑をかける形になってしまった』

『ご自分をお責めになってはいけませんわ、アドラナス先生。かつて私達が宿命だと思っていたものは、今では幻想にすぎません。ただの悪い夢だったのです。先生は、見張り番として十分に貢献されてきましたわ。私は、ジュカの軍隊がミノックに向かっていると、人間たちに警告してまいりました……』

『人間を助けてやらねばならん。我々は、ジュカが罪のない人々を皆殺してゆく様を傍観者として見過ごすことはできん。だからこそ、種族全体を大いなる眠りにつかせることはしなかったのじゃ。ジュカと敵対しているのは、この我々だ。しかし、なぜジュカは我々を攻撃しない。大いなる眠りにつき、まったく未知の土地に移り住んだ我々の戦力が、全体的に低下していることは、ジュカとてよく知っているはずじゃ。それなのに、弱くなった我々を攻撃しないのは、何故じゃと思うね』 彼は立ち上がってうろうろと歩き始めた。『今の我々は、エクソダスにとって脅威ではないのじゃよ。脅威はむしろ、人間なのじゃよ。これは異常な事態じゃ。一刻も早くヤツらを叩き潰さねばならん』

『どうしたらよいのでしょう?』ダーシャは困惑の表情を見せた。

『できるかぎり、人間とジュカが衝突しないよう力を貸すことじゃ。ワシがあんなことをしなければ、ジュカは人間を攻撃したりはしなかった。お前がなんと言おうと、ワシが責任をとる』アドラナスは言葉を止めた。そして、断固とした決意に、岩の面のような彼の顔がさらにこわばった。『ジュカに腐敗の術をかける』

『人間を助けるために、そのような危険な呪文を使うというのですか』ダーシャは立ち上がり、アドラナスの肩に手をかけた。『ジュカはいくつもの町に広がっています。彼らを全滅させるためには、一度に大量に術をかける必要があります。そんなことをすれば、自然のバランスを崩してしまいます』

『そんなことは、するものか。いかなるミーアも、あのときのような行動は絶対にとるべきではない。何があろうとな』アドラナスは、怒りに任せて振るった魔法の力で、一族を死に追いやってしまった苦い思い出を押さえ込もうとするかのように、固く目を閉じた。しばらくして、ようやく気持ちを落ち着けた彼は、言葉を続けた。『ジュカは、ユーという人間の町から襲撃を開始している。我々も、そこから攻撃を始める。しかる後に、他の町をひとつずつ叩いていく』

『でもなぜ、腐敗の術なのですか?もっと他に方法があるはずです』ダーシャはアドラナスの目を鋭く見つめた。魔道師アドラナスは、ゆっくりと頭を横に振るった。

『兵士を送り込んで攻撃を開始するまでには、時間がかかりすぎる。人間を傷つけずにジュカだけを叩ける呪文は、これしかないのじゃ。たしかに、腐敗の術は非常に危険な魔法じゃ。ワシはこの術を受けてもがき苦しむジュカたちを、数え切れないほど見てきた。じゃが、我々が何もしなければ、人間たちが苦しみ続ける』アドラナスはきびすを返し、ゆっくりとダーシャから離れた。そして、足を止め悲しそうな目でダーシャに振り返った。『ジュカはエクソダスと結託しているのじゃよ、ダーシャ。ヤツらは種族の誇りを捨てて、我らに戦いを挑んできたのじゃ』彼は、ほかの魔道師たちのいる場所に向かって、また歩き出しだ。

『これは戦争じゃ。汚いことも、せねばならぬ』

*          *          *

祭室の外、ダーシャは腰を下ろし、エターナルたちを遠巻きに見ていた。彼らは輪になり、両手で複雑な印を切っていた。彼らの動きは、完璧に一致していた。輪の中央では、アドラナスが両手を高々と掲げていた。目を閉じた彼の顔からは、一切の表情が消えていた。彼の心の目には、ユーの町が見え始めていた。閃光のように見えては消える映像の断片が、やがてジュカの完全な映像に変わった。命を奪う者、斬られて死ぬ者が入り乱れ、恐怖に怯え四方に逃げ惑う人々ばかりが見えてくる。しかし、ゆっくりと集中力を高めてゆくと、戦闘の全体像がわかってきた。

アドラナスを取り囲む魔法使いたちは、呪文を唱え始めた。彼らの声は次第に高まり、陰鬱なハーモニーが遠くで見ているダーシャの背骨を振るわせた。そしてそれは、あたり一帯を微かな振動で覆った。魔法使いたちの指の先が光りだした。それらはゆっくりと光の筋を残しながら宙を舞い、互いに絡み合い入り組んだ、燃えるような光のレース模様となって輪を取り囲んだ。光は呪文の声に共鳴して震えているようだった。光の輪は、やがて中心に向かって縮みだし、アドラナスを包み込むと、彼の体は輪の中心からほとばしる、まばゆい稲妻と化した。次の瞬間、魔法使いたちの声が最高潮に達し、永遠に続くかと思われるほど長く、最後の不協和音が唱えられた。すると、アドラナスの体内から放出された巨大な光の波動が天に昇っていった。だがそのとき、彼は、かっと目を見開き、激しい苦痛の表情を見せた。ダーシャは飛び上がり、一目散にアドラナスのもとへ駆けつけた。

アドラナスの心の目には、呪文の光がユーに向かって飛んでいく様子が見えていた。だが一瞬の後、それは小さな光の粒となって地面に墜落してしまった。そのとき突然、映像は真っ暗になり、彼の心に激しい痛みが走ったのだ。

ダーシャが魔法使いを押しのけて輪の中に入ったときには、呪文は完全に終わり、精根尽き果てたアドラナスは地面に崩れ落ちるところだった。ダーシャはアドラナスの体を肩で支え、静かに地面に横たえてやった。彼の目は、まだ遠くの虚空を見つめていた。

『観測人様!』大きな儀式を終えて、やっと我にかえったエターナルの一人が口を開いた。『呪文の感触が……以前に行ったときと違っておりました……』他のメンバーも同意するようにうなづいた。

『アドラナス先生!どうしたのですか』ダーシャはアドラナスの体を優しく揺さぶった。『どこか痛むのですか』

『腐敗の術が……』彼は唸るように言った。『最後に腐敗の術を使ったときから、自然が……魔法が……、歪んでしまっていた……』彼は、気力を振り絞って身を立て直すと、ダーシャの目を見つめて言った。

『何か、とてつもなく悪いことが起きている』








7:19 2017/06/04

by horibaka | 2017-05-19 07:17 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 同盟者と敵軍

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同盟者と敵軍

投稿日:2002年4月15日


全シャード
ブラックソン(Blackthorn)は、埃っぽい大きな机の上に積み上げられた地図の山に目をやった。まばらに立てられたロウソクの心もとない明かりが、壁や天井、それに、かたわらで跪いているジュカ(Juka)の戦士、ケイバー(Kabur)の上に影を躍らせている。彼が神妙に頭をたれているのは、彼の主人であるエクソダス(Exodus)の御前であるからにすぎないことは、ブラックソンにもわかっていた。しかし、ケイバーのうやうやしい態度を見るのは、ブラックソンにとって束の間の腹いせになった。

『まずはユーの都から攻める。我々は、カオスの力でこの国を支配する』ブラックソンは言った。『これよりブリタニアは、正統なる王の真の怒りを知ることになる』

ケイバーが顔をあげると、ブラックソンと視線がぶつかった。ケイバーにしてみれば、いまだ人間であることに変わりがないブラックソンは、さげすむべき存在であった。ケイバーの目には、そんな感情を隠そうとする気遣いすら感じられない。ケイバーにとって人間は、わずかばかりの餌を求めて原野に寄生する原始的で不潔な獣に過ぎない。ところが、この新時代とやらは人間の時代となってしまった。世界のほぼ全体を人間が支配している。都市を建設しそこに暮らす人間。魔法を操る人間。なかでもいちばん腹立たしいのは、自分に命令を下す人間だ。

『我が軍勢に指令を伝えまする……閣下』ケイバーの言葉はほとんど唸り声のようだった。『御身に人間の生き血を捧げまする、ロード・エクソダス!』ケイバーはすっくと立ち上がり、鋭くきびすを返した。彼は今日、大勢の人間を殺すだろう。だが、その中には本当に殺したい相手はいない。ケイバーが部屋を出ると、すべるようにスライド式のドアが閉じられ、ドスンという鈍い音とともに部屋は密封された。

『攻撃には、私の私的な竜騎兵隊も投入する』ブラックソンは声に出して言った。『厳しい訓練を重ねてきた連中だ。しかも、トラステッド(Trusted)の一員になることを熱望している。すべて準備は整えて、私の命令を待っている』

数万匹の虫のざわめきのようなエクソダスの声が部屋に満ちた。『私の情報は役に立っただろう?』

『ああ』ブラックソンは大きなガラス瓶が並んでいる部屋の反対側に向かってゆっくりと歩きながら答えた。瓶の中には、それぞれ姿の異なる生物の標本が、どろりとした液体に包まれ浮かんでいる。『私の研究の結果は、かならず驚きとなって花開く。生命の創造が、そうやすやすと可能になるなどとは、最初から思っていないよ』

ブラックソンは、生物標本の入った大きなガラス瓶をひとつ手に取った。標本は、竜のように見えるが、首の下から、明らかに奇形とわかる5本の足が生えている。背骨は不自然に折れ曲がり、こぶのように隆起している。

『あと一歩だ』

『ロード・ブラックソン、よくぞそこまで立派に軍隊を育て上げたものだ。面白いことに、ジュカですら、彼らを格好の訓練相手だと思っている』エクソダスは自分の声の耳障りな反響が消えるのを待ってから、話を続けた。『ジュカは、もうすっかり時間の旅の疲れもとれて完璧な状態だ。お前の竜騎兵隊も、トラステッドに入りたい一心で、わき目も振らずに恐怖を撒き散らすだろう。すでにこの国は、お前の慈悲の上に成り立っているようなものだ』

*          *          *

『人には心のよりどころが必要だと思う。陛下が定められた徳の精神は、もうほとんど消えかけている。国民の心は散り散りになってしまった』クレイニン(Clainin)は背中を向け、城の窓からブリタニアを見渡した。『陛下の穴を埋められるほどの人間は、もう二度と現れないだろうな』

『ヤツもニスタル(Nystul)も、もういない』デュプレ(Dupre)が答えて言った。『オレたちに任せても、この国の平和と安定は保てると確信していたから、あんな無茶ができたんだ。もうこの国には、あいつに代わる王は現れないだろう。だが、国民の立ち直りは早い。オレは人の底力を信じてる。もちろんお前も頼りにしてるよ、クレイニン。大丈夫、心配は無用だ』デュプレは魔道師クレイニンにやさしく微笑んだ。

『心配性は生まれつきだ』クレイニンは眼鏡をはずして目をこすった。『この短い時間に、あまりにも多くの物事が変わってしまった。私はガーゴイルの研究に没頭していた。それだけで手一杯だったのに、そこへミーア(Meer)と……チュカ……だったか?』

『ジュカだ』デュプレが訂正した。

『ジュカ……そうそう、それとミーアが同時に現れた……。ミーア!ああ、すまん、デュプレ。君の話の途中だったな。それで、イルシェナーのほうは、どうなんだい?』

デュプレは、ぴったりくる言葉が見つからずに苦労しているように見えた。『ミーア族はその……、とても内気で、とてもプライドが高い。ジュカと違って我々に敵意は持っていないようだが、我々と出会って心から喜んでいるようにも思えん。オレが話ができたのは、ダーシャ(Dasha)というミーアの女性一人だけだった。かなり位の高い女性のようだった。もっとも、彼らの社会に階級があればだが』

『招待を受け入れてくれたのか?』クレイニンが口を挟んだ。

『ああ……、そう思う。オレは王国を代表で、友好関係を築くためにあなたを城に招待したいと、そう告げたんだ。彼女は、オレが言ってる意味をよく理解していたかどうか怪しいんだが、興味はありそうだった。来るとしたらダーシャ一人だと思う。そのほかの連中は、みなジュカとの戦いに備えて体力を蓄えているところだと、彼女は言っていたからな』

『やっぱり関係があるんだ!』クレイニンが言った。『ふたつの種族が同時に現れたと言うことは、戦争の為?』

『それもあり得る』デュプレはため息混じりに答えた。『ダーシャによれば、彼らの戦争は数百年間、絶え間なく続いているそうだ』デュプレはクレイニンのテーブルに体重をかけて身を乗り出した。『ブリタニアが戦場になるかもしれん』








7:37 2017/06/03

by horibaka | 2017-05-18 07:36 | その他 | Comments(0)
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不正疑惑!?代表にまつわる謎の影!!

投稿日:2002年4月14日

Cheryl Brown
Mizuho
読者諸君はご存知のことだと思うが、先日動物園にイルカタイプのUMAが捕獲された。そのUMAは高度な知性を持っているようだったのだが、その入手経路について様々な噂が取沙汰されている。

事の経緯はこうだ。ある日突然動物園に入れられたイルカタイプUMA。しかしそれは公認調査員でいるRex氏、Keir氏、Gigi氏が捕らえたUMAではなく、代表のXenos氏が独自に入手したものなのだ。「tasukete...」などと言い餌を食べないUMAを見て、動物園にやってきた観光客らが激怒、Xenos氏に詰寄るという一幕もあったようだ。観光客の中の有志がついに調査員に連絡を取ることにしたのがその数日後。UMAは明らかに弱っており、死亡してしまうのは誰の目から見ても明らかだった。

調査員達も観光客らの熱意に動かされ、UMA救出を断行。観光客らの支援によりUMAは無事に海へと帰された。しかし・・・その途中で the animal broker なる男達が、UMA救出部隊を襲撃したのだ!彼らは非常に人を襲い慣れているようだったという。調査員と観光客の必死の反撃によって彼らは撃退されたが重傷を負った観光客もおり、あたりは惨憺たる有様だったそうだ。

この男達は一体何者なのか?ここで浮かんでくるのが「Xenos氏が単独でUMAを入手した」、そして「男達の職業は animal brokerだったらしい」ということだ。UMAが連れ出されたのを知ったXenos氏が追手を差し向けたと考えることはできないだろうか・・・?なお、一連の騒動でUMAを連れ出したRex氏は謹慎処分になっている。Xenos氏にまつわる黒い噂。BNN記者Cheryl Brownはその噂を追っていく。








5:30 2017/06/02

by horibaka | 2017-05-17 05:28 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 調査隊、遂に未確認生物を発見!

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調査隊、遂に未確認生物を発見!

投稿日:2002年3月9日

Cheryl Brown
Mizuho
未確認生物調査隊は昨日、発見した未確認生物をムーングロウ王立動物園に寄付した。現在までその存在が闇に閉ざされていた調査隊だが、我々BNNレポーターが彼らの密着取材に成功。その壮絶なまでの友情と勇気を見た!

読者諸君は次々と発見される新生物の情報の多くが、調査隊からもたらされていることをご存知だろうか?あまり知られていないが、かの有名なフェニックス発見も彼らの功績のひとつなのだ。凍てつく大地や燃えさかる火山すら彼らの勇気を脅かすことはできない。以下は今回発見された新生物(名前未定)に関するレポートである。

調査員Aさん「その生物は弱々しく歩いていた。おそらく彼らを襲う数多の敵により、その生命力は削られていったのだろう。鋭い嘴がある。その切っ先が血で染まっているように見えるのは決して気のせいではあるまい。おそらくあの嘴は鉄ですら切り裂くほどに鋭く、的確に敵の急所を貫くのだ。しかし俺は負けるわけにはいかない!」

調査員Bさん「茶色の羽。雄々しく天を突くその冠。わたしは初めて知った・・・。これほどまでに気高い生物が他にいるだろうか?身構えながらその生物に気づかれぬようにそっと捕獲装置を取り出す。気づかれたら彼は天高く飛び去ってしまうだろう」

調査員Cさん「あたしは見抜いたわ。あの子は本当は戦いなんか望んでいないのよ!あの瞳を見れば誰だって気づくわ。何故同じ生き物同士で争わなければいけないの?だからあたしはその時叫んだの。攻撃しないでって・・・」

彼らは互いにかばいあい、その身を盾にしてその生物と対峙した。永遠に続くかと思われた死闘だったが、遂にそれに終止符を打つ時が来た。彼らの捨て身の作戦が生物を追い詰め、捕獲に成功したのだ。「殺してはいけない」その信念を守るために多大な犠牲を払うことになったが、調査員は全員生還した!

ムーングロウ王立動物園園長は語る。「我が動物園に動物を入れるためには彼らのような勇気ある調査員が数多く必要だろう。どんな情報でも構わない。是非調査員のために情報を集めて欲しい。ブリタニアに住む人々よ、貴方達一人一人が誇り高き調査隊の一員、特別調査員に任命される時が来たのだ!」

さあ、貴方も今すぐに調査隊Yew本部へ行こう!そして我々の手で新たな生物発見の知らせを持ちかえるのだ!








5:32 2017/06/01

by horibaka | 2017-05-16 05:31 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 見張り番

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見張り番

投稿日:2002年1月26日


全シャード
『あなたは!』

ダーシャ(Dasha)は身を起こそうとしたが、刺すような痛みに手足が震えて動けなかった。彼女に覆いかかる影はゆっくりと近づいて来た。彼女は、バランスを保てるかどうかもあやしかったが、今一度身体を立て直そうともがいた。そして素早くもう一度ヒールの呪文をかけようと試みた。

呪文の影響でダーシャの頭の中は渦を巻き視界がぼやけたが、乱れる意識の中で、かすかな光が彼女の手の先から広がり身体全体を覆うのが見えた。その効果はわずかなものだったが、力の波動が手足に行き届くのを感じた。地面を押しやるようにして震える足でようやく立ち上がると、影の人物は手を伸ばせば届く距離まで近づいて来た。

『思い通りにはさせません…あなたは殆ど破壊してしまったのです…。』ダーシャは切れ切れの息でそう言うと膝を折った。『なりません…そうさせる訳には…。』彼女の視界は舞い踊る光の球で満たされ、身体の力が朝日の中の霧のように消え失せるのを感じた。彼女が最後に見たものはアドラナス(Adranath)の顔だった。彼の頬には涙の筋が光っていた。

『もう待つのは終わりじゃ。』彼はそういうとダーシャを子供のように抱き抱えた。彼の涙は勢いを増し、すすり泣きにと変わった。『お前は我等の元に帰って来たのじゃ。長いことかかったが、ついに帰って来たのじゃ!』

***

炎のきらめきが、ダーシャの閉じたまぶたの裏にオレンジ色の花を咲かせた。彼女は顔をしかめると、こめかみを押さえ、ゆっくりと目を開いた。小さなたき火の向こう側にはアドラナスが、優しく微笑みながら座っていた。彼女はすばやく起き上がると身をこわばらせた。

『あなたは何をしたのですか?ここはどこですか?』彼女は迫った。彼女の彼に対する永遠の尊敬の念は、彼が指揮して招いた混沌の様を目の当たりにした時から消えてしまっていた。戦で彼の呪文がイルシェナーの大地を揺るがせていく様は、彼女の悪夢として一生残るであろう。

『心配しておったぞ、娘よ。お前の体力が元に戻るまで何日もかかった。』アドラナスは彼女の問いが耳に入らないかのように言った。『これで我々は完璧に戻れた。すぐにも我々の為すべき事を為さねばならぬ。それはもう長い事待たされたからな。』彼は微笑んで彼女を見つめた。

ダーシャは彼の言葉を飲み込もうと、しばらく沈黙していた。このエターナル(eternal)は気が狂ってしまったのか、それとも彼女を操ろうとしているのか定かではなかった。『アドラナスよ、何をしたのかお教え下さい!あなたの狂気が私達に何をもたらしたと思うのです?ここはどこなのですか?』彼女は言いたい事が伝わったかどうか、彼の瞳を探ったが、その目は夢を見ているかのように虚ろだった。

『山じゃよ、ダーシャ。山の姿に気づかぬか?今となっては、そう様変わりしてはおらんじゃろう?』彼は立ち上がり、雄大な地形を見渡した。『今となっては…』

『このような場所は一度も見た事はございません。』ダーシャはゆっくりと言った。自分の言葉に自信が持てなかったのだ。この場所には、確かに見覚えはある。『この場所は…私の故郷を思い出させます。しかし、これは私達の世界の贋物か何かでしょう。安っぽい模造品です!』彼女も立ち上がり、アドラナスの前に立った。彼女が彼の肩を強く掴むと、お互いの視線がぶつかった。『ここで何が起こったのか教えて下さい!私達の故郷はどこに行ったのですか?一体どうやってジュカ(Juka)を…』

『ジュカ!』彼は目を見開き彼女の手を握った。『その時が来たのじゃ、ダーシャ。長い間見張っておったが、ついに再びその時が来たのじゃ。我々の均衡を回復する機会が新たに始まったのじゃ!』

『均衡ですか?』彼の言葉に、彼女の心はわずかに和らいだ。『たった数日前、あなたはすっかり復讐の虜になっていたというのに、今さら均衡に希望を見いだしたというのですか?』

『数日じゃと?』彼は困惑し、顔をしかめた。『何世紀も前の事じゃ…お前は知らん!娘よ…お前は知らぬはずだ…もう数え切れぬほど昔の事じゃ。あの大破壊は…座りなさい。いいから座るんじゃ。』彼は彼女の手を取り、たき火の向こう側へと導いた。『知っておくべき事がある。』

彼女はゆっくりと腰を降ろすと足を楽にした。師の態度に彼女は強い関心を覚えた。『知っておくべき事とは何ですか?』

『お前は行方がわからなくなっていたのじゃよ、ダーシャ。お前は時空間から消えていたのだ。お前とジュカの砦は、そっくりあっと言う間に消えてしまったのじゃ。歴史から引き剥がされてしまったのじゃよ。エクソダス(Exodus)の仕業じゃ!』

『しかし、私は砦からあなたの姿を見ました…あなたが呪文をかけると、全てが光に飲み込まれてしまったのです。』彼女の周囲に蒸散していた狂気の中からその出来事をそっくりたぐり寄せる為に彼女の記憶は張り詰めた。

エクソダス!魔術師め、姿を見せろ!

アドラナスの説明の異常さに彼女はぞっとする思いを抱き始めた。ここは故郷。時を経て山は丸みを帯び、地形も変化はしてきている。数日前魔法の炎と爆風が吹き荒れた場所には、見た事もない植物がはびこっている。でも…それはもっと前の事だったのであろうか?

『いったいどのくらいの間?』ダーシャは腕組みをした。身体の中に寒気が走るのを感じた。彼女の世界は、もはや失われてしまっていた。かつて彼女の仲間によって使われていた魔法は色褪せ姿を変えていた。彼女の呪文の力が弱くなっているのももっともな話だった。彼女の家は、今や望むべくもなく歴史に埋もれてしまっていた。『一体私はどれくらいの間行方知れずになっていたのですか?』

『何千年もの間じゃよ…とてつもなく…とてつもなく長い間じゃ。』彼は彼女を待っていた間の一瞬一瞬を思い出すかのように宙を見つめた。『とてつもなく長い間、わしは見張っておった…そしてついにその時が来たのじゃ。』

『あなたは…そんなに長い間待てる訳がありません!一体どうやって?!』

『エターナルの持って生まれた性質を忘れたのか?娘よ。』アドラナスは優しく微笑んだ。『わしはその見張り番(watcher)になったのだ。責任はわしにある。わしは…わしは自分のした事の償いをせねばならぬ…。彼の微笑みは不安な表情に変った。『あのような狂気…わしは全く愚か者よのう、ダーシャ。』

『お願いです…アドラナスよ…。』ダーシャは彼の肩を優しく抱いて優しい声で言った。『ミーア(Meer)はどこへ行ったのですか?私達の種族は自らが忘れられる事など許さないはずです。私が…さらわれた後、何が起ったのですか?』

『夢の到来じゃ。』涙が一粒彼の瞳からこぼれ出た。『私が引き起こしたあの大破壊…全ては失われてしまったのじゃ。ジュカ、砦、ミーア…わしらは自らの終わりを夢見て、しかしそこから疎外されてしまったのじゃ。その夢の中で私は…わしは皆を殺してしまった。全員、わしの病んだ復讐心のせいで死んでしまったのじゃ!』彼は気を取り直し、その大虐殺がすでにわずかな記憶に取って代わった事を思い出した。『その時じゃ、わし等が知ったのは。それはエクソダスのした事だと。ジュカは均衡を崩す為にさらわれて行った。お前も…さらわれて行ったのじゃ。』

ダーシャは、再びその老人にかける言葉を失ってしまった。何千年もの間、夢の中で二つの種族の虐殺を目撃し続ける事の苦痛は、罰としては充分ではないか。彼はエクソダスのもくろみによって、自らの罪により疎外されてしまったかの様だ。『しかし、ミーア…私達の種族はどうなってしまったのですか?アドラナスよ。私達二人がミーアの生き残りなのですか?』

『時は来たり!』彼はすっくと立ち上がり再び微笑んだ。『来い、来るのじゃ娘よ!お前は我等の元に帰って来た、そして今や覚醒の時はすぐそこまで来ているのじゃ。』

彼はダーシャの手を取り、彼女が身を起こすのを手伝うと、きびきびした足取りで歩き始めた。見知らぬ土地で彼女が従うべき者は他になく、行く手に何が待ち構えているのかわからぬまま、彼女は彼の後を追った。二人は沈黙したまま一時間近く歩き続け、ついに山のふもとに辿りついた。草むらの中に小さな空き地ができていた。以前彼女が命からがら逃げ出したジュカの砦の場所からさほど離れていない場所であった。

アドラナスが手で複雑な曲線を描くと、細かい光の塵が埃のように彼からこぼれ出した。彼が手をパンと叩くと光は地面に落ち、揃って渦を巻き、一つの明るい点を形作った。光は地表に沿って広がり、四角い石の壇を形作って消えた。丁寧に彫り出された石の頂上には、磨かれた木製の壇と光り輝くルーンの様な物が埋めこまれていた。

『来るのじゃ。』アドラナスがダーシャに手を差し伸べると、彼女は疑わしそうにその手を取った。二人が揃って木製の壇の上に登るとその姿は消えた。彼等が再び姿を現した時、ダーシャは自分達が地下室の様な所にいるのがわかった。巨大な部屋の端から端まで、墓が整然と並んでいた。松明の灯がそこかしこに点々と燃えている。この場所を作ったのがミーアである事は確かだったが、彼女は一度もここへ来た事はなかった。

『この場所は何なのですか?死人の墓ではないですね、アドラナス。』

『違う。我々が従う道はこれしかなかったのじゃ。ここではミーア族が永遠の眠りに抱かれておるのじゃ。』彼は、蓋が閉じていない墓に向かって部屋の中を歩み続けた。『しかし、誰かが残らなければならなかった。ジュカを見張る誰かが。』彼は彼女の方に向き直った。『その役目はわしのものだったのだ。自分のしでかした事のせいで…私がかつてしでかした事と、まだ出来ていない事の為に…償いをせねばならなかったのじゃ。』

『あなたは…何千年もの間見張り、そして待っていたというのですか?!』彼女は、ついにその年老いたエターナルが狂気に蝕まれたのだと思った。何世紀もの間この地で隠遁生活を送ったせいで、いくらかネジが緩んで来ているのだと。エターナルは永遠に生き長らえる事ができるだろう。しかし、孤独な暮らしを続けていたらいかに不死身の魂とて広大な時の流れに苦しむであろう。『ミーアは住む場所を放棄したのだ。そうすれば我々は均衡への戦いが復活するまで待つ事が出来る。砦は帰還した。ジュカは戻って来たのだ。そしてお前、お前も戻って来た。』彼は、何世紀もの間彼を待ち続けていた幾百もの墓を囲む正円の中に入って行った。彼の任務は遂行された。『さぁ、目ざめよ我が民!起き上がり戦い続けるのじゃ!』

彼は杖を床に叩きつけると片手を高く挙げた。彼の指先から放たれた眩しく青い光が部屋の隅々まで輝きで満たした。ダーシャは少し目を蓋いながら、光が全ての表面を包んで消えて行く様を見届けた。最初は気づかない程であったが、ゆっくりゆっくりと何かが動く音が聞こえて来た。彼女の傍らで、一つの墓石がひび割れて口を開け液体が流れ出て来た。また別のエターナルが石棺から起き上がり彼女と視線が合った。

『ダーシャ!お前さんが我々の元に戻って来たという光景に、目覚めた途端に出会えるとは思いもせんかった!』ダーシャはただ、驚きの余り見つめるだけだった。何世紀もの間、種族の全員がここに眠っていた。再び均衡の為に身を捧げる事ができるように。皆、姿を消したのではなかったのだ。

『見張り番、良くやったぞ。』そのエターナルはアドラナスに言った。『お前の献身が我々全員を救ったのだ。恩に着るぞ。』

アドラナスはダーシャに向き直った。怯えた子供のような表情だった。『わしは…許されたのかの?ダーシャ。わしがしでかした事の全て、わしがしでかすかもしれなかった…起こった事の全て...わし一人が責めを負えば良いのじゃ。あの頃、わしはなんと言うせっかちな愚か者だったのだろう。このような新しい世界に来なくても良かったろうに。全てが終った今…わしは放免されたのじゃろうか?』

彼女は微笑み、優しく彼の手を取った。『以前あなたは教えてくれました。智慧は変化の必然性を受け入れる、と。』

一つまた一つと墓が開き、やがて種族全体が眠りから覚めた。








5:19 2017/05/31

by horibaka | 2017-05-15 05:17 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 力への転落

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力への転落

投稿日:2002年1月23日


全シャード
暗い広間で、ロード・ブラックソン(Lord Blackthorn)は一人で深い思索に耽りながら前へ後ろへと自らの体を揺り動かしていた。彼の胴を覆うクロークが床に沿って摩擦音を立てながら微かに引き摺られていた。それは彼が動く時に立てる唯一の音であった。やろうと思えば、彼はクロークが音を立てないように容易にもっと床の高い部分で移動する事は出来たのだが、その音は彼に奇妙な安らぎを与えるのであった。彼はまだ自らの足音を聞かないと言う事に慣れてはいなかった。彼にとってそのような事が惜しまれるのは理解しがたい事であった。

その広間には、彼がかつて職人に金を出し彫らせた彼のかつての容姿の大きな石の像が立っていた。彼は移動しつつそれを凝視した。彼は自身がその時より幾分かハンサムになったのではないかと考えていた。高貴な生まれと言うステータスは彼に多大な安心を与えた。彼は現在の姿に不満がある訳ではなかった。エクソダス(Exodus)によって与えられた新しい体が、その外観にもかかわらず彼を悩ませる事はなかった。しかし時折、コントローラー達が彼の顔を見た時、彼はその顔に嫌悪の念を見て取る事が出来た。彼らの凝視の中には、痛くないのかどうかを知りたいと言う僅かな好奇心があった。それはまるで彼らの目は視覚的な痛みの兆候を探る為に、ロード・ブラックソンの顔の肉と金属の間の線を目で追っているかのようであった。

他の者が彼を目にする事は殆どなかった。彼は変容を遂げて以来、公にブリタニアに出向いた事はまだない。文明化された土地では誰も今の外観の彼を受け入れないであろう。彼の本当に少しの部分しか人間として認識できるところはなかった。彼の人間時代の像は今では本当に似ても似付かない物になった。それは気取った彼の容姿を台無しにする事などない、別の人物を現わしているかのようであった。それはモンスターを前に恐れおののきながら、恐怖の中で彼を見つめているかの様であった。

彼の手が広間を横切り、その石像を撃ちつけたので、彼はその滑らかな冷たい石に沿って、痛みの内に彼の拳が裂けるのを感じた。彼の指は抗議するが如くズキズキと痛み、そして血が皮膚の裂けた彼の拳を微かに染めていた。その石像は、まるで彼に残存している脆さを嘲笑っているかの様に無傷であった。ブラックソンは、痛みを無視して、人間であった最後の時にへと思いを馳せていた。

***

彼はブリタニアの全景を眺めながら、彼の要塞の中に立っていた。王のかつての城は、彼に呼び掛けつつ、その偉大な都市の中心部より日に照らし出されていた。それは、彼がそこにいるべきだった城だった。

彼は既に魔導師ニスタル(Nystul)と会合を開いた。その年老いた愚人は全ては統制の下にあると主張した。彼はとりとめも無く彼の指導の下で王国が如何にして生き残るかについて、そして人々に警告する必要は無い事などを延々と話し続けた。彼は終始、人々が彼らの主君により見捨てられたと言う事で混乱するであろう事、更に新たな主君をいきなり擁立する事は問題を悪化させるだけであろう事を心配していた。王の僕であるデュプレ(Dupre)はフェルッカの王党派の派閥に命令を下したであろうし、その他全ての事柄も王への忠誠の下にある者達によって内々に取り扱われる事になったであろう。

ブラックソンは人々には支配が必要な事、王のいない王国は廃退しいずれ滅びる事、支配する事を要求するのは最高位の貴族の義務である事を議論した。彼は自分が支配する権利を有している事を知っていた。それにも関わらず彼は拒否されたのだ。ニスタルは平民の様に彼に説いた。王の不在の間、彼に如何なる権力を与える事よりも、王国の支配者が不在である事を望む愚者達の考えに彼は心底憤激した。無限の時を持つその男は何度となく人々に騒乱をもたらしながら、彼らを危機に晒していた。

彼が反応できるより前に、全身が光りに囲まれ、そしてゆっくりと彼の視界は暗闇に呑まれていった。思考は全て残されていたので、彼は誰かが彼を魔法により、彼の意思に反して連れて来たと言う事は分っていた。彼が再び思考を巡らす以前に、相当時間が経ったように思われた。突然、意識が彼に押し寄せ、彼は目を開けた。彼は周りを見渡すのに十分な明かりを放つ数本の蝋燭のみがある薄暗い部屋の中に立っていた。彼の前には、色黒の皮膚をして丈の長い深紅のローブを着た三人の人間らしき者が立っていた。彼らは静かに彼の前で跪いた。

『この様な誘拐で私を辱める者は誰だ?!私は何処に居るのだ?!』ブラックソンは怒鳴った。

『プライバシーを侵害してしまい申し訳ない、ロード・ブラックソン。』虫の羽音の様な不思議な声が一度に至る所からやって来るように思われた。一千の静かな時計が時を刻むかの様な音が絶え間無く部屋中に鳴り響いていた。そしてそれは不思議な声の主が奇妙な調和の中で話していくにつれて、その不思議な声と一体となってゆくように思われた。『大変重要な問題についてあなたと共に討論できる聴衆が欲しかったですな。貴方が危険の内に無い事は私が保証します。貴方がお望みならば、従者達に何か飲み物でも持って来させましょう。』ブラックソンは壁の一つに沿って暗がりから発光している光のパターンに気が付いた。それらはその声が話しをする時、まるで火が付くように光り輝いている様に思われた。

『私は闇に身を隠す者達と話をするつもりはない!姿を現すか、すぐに私をここから出せ!この違犯によりお前を殺す事になるぞ!』ブラックソンは叫びながら素早く振り向き部屋中を見渡した。彼は彼の前に跪いている三人の男を除いては、誰も見る事が出来なかった。

『私の本当の姿は至る所にあります、ロード・ブラックソン。私は貴方と同じような人間ではありません。私はエクソダスと呼ばれています。貴方にブリタニアを捧げる為にこの地にやって来たのです。』

ブラックソンは躊躇った。どういう訳かこの存在は彼の支配への欲望を知っていたのだ。『お前が持っている訳でもない物をどうやって私に捧げると言うのだ?人間でないとすれば、お前は何者なのだ?』

『私は激動より出で、時それ自身によって形成されたのです。私は結合体なのです。』何かが風を切るような音がしばらくして、そして次第に薄れていった。ブラックソンは宝石の様な光が以前より明るくなっている事に気が付いた。

『謎めいた事を言うな。』彼はその光に向かって一歩踏み出した。『正体を現せ、そうでなければ話は終わりだ!』

その光は目も眩むばかりの明るさとなり、激しく明滅し始めた。風を切るような音もエクソダスの声と混ざり合い、今まで以上に大きな物となった。『お気の召すままに。』ブラックソンの心は心象で張り裂けた。彼は手で頭を抱えて跪いた。彼はモンデイン(Mondain)城のイメージを見ていた。

父よ…母よ…時は彼らの王国であった。力と魔法は彼らの気まぐれから流れ出た。全ての力は宝玉からやって来た。その宝玉は貴重であった。私は貴重であった。愛されていた。私は後継者となるはずであった。私は力を手に入れるはずであった。その機械は…時の扉からやって来たその機械は…その機械は私に力を与えるであろう。悪魔。彼の力は私の物になるであろう。彼の力は強大である。その機械はこの事を実現するであろう。父の愛こそその機械。母の愛こそその悪魔。私は愛されている。私は力を手に入れるであろう。その宝玉は…その宝玉は脅威にさらされている!その宝玉は…とても貴重で…駄目だ!止めろ!!全ての力はその宝玉からやって来る。その宝玉は壊された…世界は破壊された…酷い破壊だ…とてつもない変動だ。世界は破壊された。母よ、なりません!父は死んだのです。母は死んだ。私も死んだ。

時は破壊された…城全体が消え去った…時代は変わらねばならない…時は破壊に道を譲らなくてはならない…時は流れなくてはならない。私は死んだ。私は砕かれた。私は破壊に道を譲らなくてはならない…私は変わらねばならない…私は機械だ…私は悪魔だ…私は結合体…私は再生…私は家に居ない…私は家を見つけなくてはならない…時は砕かれた…時代は間違っている…私は待たねば…待たねば…時はやって来る。家もやって来る。

部屋の遥か向こうにある光が急に暗くなり、突然ブラックソンは我に返った。彼は跪いていた冷たい広間の床から立ち上がりながら、息を切らしていた。頭から下ろした手は震えていた。彼の顔は身震いする様な驚きから凍り付いていた。『私…私は目にした…何千年もの時間を…ほんの僅かの間にだ。』

『私は貴方を待っていたのです、ブラックソン、』その声は淡々と続けた。『時は満ち、そして私は再び故郷を見つけたのです。貴方は私が長い間留守にしていたこの世界の貴重な知識をお持ちです。』

『ブリタニアを征服したいのか?』

『私は貴方がブリタニアの支配者として相応の地位に居て頂きたいのです。私にはそれを導く力があります。』

ブラックソンは躊躇した。『それであれば、私に支配を許す事でお前は何を得る物があるのだ?まさか、お前がただ単に贈物として私に玉座を渡したいと云う様な事を信じろと言うのではあるまいな?』

『私は本来の目的を果たそうと努めているのです。』光は薄暗く輝き、その声は低い音程となった。『その事は先程お見せしましたからご存知でしょう。私は絶対的な守護者として、すべてを見張り、すべてを知る為に、この世界を引き継ぐ事になっていました。この世界となり、この世界をコントロールする力を維持する為にです。その力を貴方に与える事ができます。貴方にそれを支配させる事ができます。』

ブラックソンはゆっくりと話した。『どうやって…どの様な力を与える事が出来ると言うのだ?』

再び光が明るく輝き、ブラックソンの心にあるイメージが浮かんできた。『私は貴方に新しい身体を与えましょう。そして指令を下す新しい軍隊。』彼はまるで一千の熟練した細工師が彼の体格に合わせて手足を作ったかの様に、彼の身体を変えられるのを見る事が出来た。彼はその体の中、そして血管を駆け巡るその力の中に自分自身が居るように感じる事が出来た。それは彼がそれまで経験した何にも当てはまらない物の様であった…とても信じ難いほどの力を思いのままに出来るのだ!彼の感覚はそれまで可能と思われていた以上に遥かに広がっていった。彼は無敵に感じられた。その感覚は次第に薄まり、そして彼は再び本来の彼に戻った。すぐに彼はもう一度あの力の感覚を感じたいと言う熱望を覚えた。それは彼を夢中にさせた。

エクソダスはしばらく待ってから静かに続きを話した。『ロード・ブラックソン、この力を受け入れますか?支配する事を欲しますか?』

『私は…ああ…分かった、受け入れよう。私は受け入れようではないか!』

『よく言って下さった。』その光は明滅し、そしてブラックソンは暖かいエネルギーの中に彼自身が包まれる様に感じたのであった。

***

彼の人間の頃を映した石像は賛同の意を表さない衛兵の様に彼をじっと見下ろしているかの様に思われた。彼は再び自分の手を見た。出血は僅かではあったが、それは今以て彼がかつて持っていた弱さを思い起こさせる物であった。重厚な爪を持ったもう一方の手が起き上がり、彼はそれを見つめた。おぞましい笑みが彼の顔中に広がった。次の瞬間、ブラックソンの強力な機械の従者が辺りを舞い、そしてその石像を数千の破片へと打ち砕いた。かつて石像が立っていた所で塵が渦を巻き、そして地に落ちた。

『他の者も私に加わるのだ。』彼は力の感覚を味わいながら吼える様に言った。

***

ダーシャは山道を登りながら、もう一度自分自身を落ち着かせようと苦心していた。数日前、彼女はジュカ要塞の不思議な場所に辿り着いた。今、彼女は酷く傷ついている。クロークを身に纏った者からのエネルギーの閃光と要塞の壁から落ちた事で、彼女はもうすぐで死ぬ処であった。今となっては彼女のヒールの魔法も、まるでここでは魔法が違っているかの様に、何らかの理由で失敗するのであった。彼女は本当に何とか貧弱な呪文で自らの命を守り、そしてジュカの警備兵が彼女を発見する前に逃げたのであった。

彼女はしばらくの短い間、十分な安全を確保する為に、山を登ろうと決心したのであった。彼女は誰も彼女を見つける事は出来ないだろうと思い、その間に体を休め、そしてその後、ヒールの呪文をかけるのに十分な体調を回復する事が出来た。岩を背に腰掛けながら、彼女は骨に走る痛みに怯んでいた。もし、再び呪文が失敗すれば、とても遠くへは行けないであろう。

彼女はその土地を見渡し、そして持ち物を手に取ろうとした。元居た地ではないのだが、ここでの物事は見知っているような気がした。彼女は朦朧としていて、それを理解するには十分な状態ではなかった。彼女の後ろで小石が落ち、彼女はそんな明白な敵の出現を察知できなかった自分を呪った。すばやく振り向くと、何者かが目の前に立っているのが見えた。

『あなたは!』








5:26 2017/05/30

by horibaka | 2017-05-14 05:25 | その他 | Comments(0)
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変化

投稿日:2002年1月15日


全シャード
その爆発は要塞を揺るがし、ダーシャ(Dasha)を床へ叩きつけた。彼女の周りのジュカ(Juka)兵士も槍と鎧とをぶつける音を立てながらふらついた。彼女は自分の置かれている状況を捉え直し、部屋全体を一目見た。石の壁はひび割れていた。床が揺れ動いた。要塞は今にも崩壊しようとしていた。

師アドラナス(Adranath)の儀式が始まったのだ。ダーシャとケイバー(Kabur)が素早く行動をしない限り、ジュカとミーア(Meer)の滅亡は目の前にやって来ていた。

彼女は膝立ちになり怒鳴った。『エクソダス(Exodus)!正体を現わせ、魔術師よ!』彼女の指先から、暗く奥まった小室を照らし出す呪文が放たれたが、ジュカの謎めいた支配者はそこにはいなかった。彼は、幾何学的な配列の明滅するジェムストーンと銀のはめ込みをちりばめた奇妙な祭壇か台座か見当のつかない物を残して立ち去っていた。彼女は呟いた。『危機を前にしたお前の尊敬する主人は何処だ、ケイバーよ。』

そのウォーロードは怒りを込めて言った。『ジュカは魔術師の後ろに隠れたりはせぬ。我々は自分自身の手で以って戦うのだ!』そして、彼は出入り口を通りぬけるべく突撃した。ダーシャは彼の後を追った。彼らは強固な要塞の前部にある高い壁の頂上にやって来た。その眺望を得て、彼らは今朝の戦いの地震で荒廃させられた目の前に広がるジュカの都市を見渡した。無秩序な乱戦は通り中に血を浴びせた。

ダーシャは懸命に落ち着きを維持しようとしていたが、彼女の鋭い目は何かを探しながら辺り一帯にダートのような視線を飛ばしていた。アドラナスよ、なりません!彼女のハンターとしての目は、遥か下方に他の永遠なる者の輪の北の地点で巧みに手を操っているその長老を捕らえた。地獄の閃光がメイジ達の輪から前方へと輝き始めた。そしてダーシャはその要塞がいつでも復讐心で出来たもう一つの一撃に見まわれるであろう事を知っていた。突然彼女の感覚はまるで氷の張った水に沈められたかの様に鈍った。彼女の眼前に広がる谷は凍りついたかの様に思われ、静寂の夜の静けさは混沌を飲み込んでいった。遥か下方のアドラナスはまるで彼がぼやけた絵の中へ取り込まれたかの様に見えた。混沌とした大火の初期の段階の小さな火の柱が、装飾品の様に彼の指先から垂れ下がっていた。ケイバーと彼の立っている構造物のみが彼女の視界にははっきりと現れた。彼女の体はまるで鉛に包み込まれるかの様に動き、そしてただ頭を横に揺り動かしている事で特別な意識の集中をしていた。鈍い紫の明りの流れが彼女の足下の床の表面に沿って羊皮紙の上に落ちた涙の様に、ゆっくりと線を描き始めた。それらは紫の明りの中に要塞全体を包み込む様にして、より速く、全ての表面に巡らされていった。その流れはその奇妙なエネルギーを除いて何も見えなくなるまで、ダーシャとケイバーを包み込みながら彼らの元へと集まって行った。そのミーア女性は意識を失った。彼女の視界は目が眩むような光で一杯になった。

***

長老達の輪の頂点で、アドラナスは魔法を止め、恐怖で固まっていた。激しい火の波が呪文を打ち消し次第に消えていくと、彼は視界からジュカの要塞が完全に消えていくのを目の当たりにした。瓦礫も、灰も、生命が存在した形跡も何一つとして残ってはいなかった。ただ単に、その要塞は行ってしまった。それだけだった。

エクソダスとジュカは逃げ失せたのだ。しわを刻んだ顔に涙を流しながら、アドラナスは跪いた。

煙と火の中心では、ごく少数の残存したジュカ戦士とミーアとの戦闘が、谷中に苦悩に満ちた耳を劈くばかりの叫びが木霊したので、しばらくの間中断された。

***

ご先祖様、私達を見捨てないでください!私達はこの様な終焉を迎えたくはありません!

偉大な母により、お前達は我々全てを殺したというのか!

…火を…

…厚い煙が…

これがジュカが永遠という物に向き合うやり方なのか?

これがミーアが永遠という物に向き合うやり方なのか?

ジュカは歴史にその存在を刻んだのだ。

智慧は変化の必然性を重んじる。

***

漆黒の中から、彼女を混乱させつつ光りのしわがダーシャの視界に入り込んで来た。彼女の手足はまるで数日間走り続けたかの様に弱っている様に感じられた、そして頭も何かに打たれるかの様に痛んだ。不思議な風が彼女の周りに吹いた。彼女の鋭い感覚がかつて経験したことのない香りが部屋中に強く放たれていた。彼女は上方からの日光に瞬きしながら、何とかゆっくりと目を開けた。焦点が合ってくるにつれて、彼女は自分が同じ要塞の中にいるという事が分かった。しかし、その場所は何かが違っていた。

ダーシャがゆっくりと振り返ると、地面の上に微かに浮きながら、暗いクロークに身を纏いながら彼女の近くに立っている人の姿を見た。彼女が反応する事が出来る前に、そのクロークを身に纏った姿のひだの下から巨大な爪を持った手が飛び出して来て、地獄の爆風を放った。彼女は要塞の端を越えて後方へ吹き飛ばされ、落ちていった。

ケイバーは唸り声をあげ始め、立ち上がろうとした。彼が膝を曲げた姿勢になったとき、その白髪混じりの戦士は既に彼の武器に手が届いていた。『私をそれ程簡単に倒せるとは思って欲しくはないな…』彼はしばらくの間、懸命に直立の姿勢を保とうとした。『安心しろ、ケイバーよ。お前は救われたのだ。』ある声が彼の頭の中で単調に響いた。

『ロード・エクソダス?』ケイバーは震えながら立ち尽くし、彼の下に広がる谷中を見渡した。まるで要塞全体が別世界へ移動しているかのようであった。その構造物自身を除いては、何一つとして同じ物はなかった。

『ここは…ここは何処なのですか?』彼は再びそのクロークを身に纏った影を見極めようと振り返りながら尋ねた。

『お前はお前が良く知っている要塞の中に立っているのだ、ケイバーよ。ここはイルシェナーだ。』エクソダスの声が昆虫の羽音の様にケイバーの心の中に聞こえてきた。

『ここは私が見た事の無い場所です…私は炎や死を目撃し…ダーシャと私だけが生き残ったのです。今起こっているこれらの事は夢のように思われますが…そうではないのでしょうな。』ケイバーは眼前に広がる新しい光景を凝視する事しか出来なかった。

『ケイバーよ、運命はまだ未完成なのだ。時が次第に戻っていくのを感じたであろう。お前達の運命はここで、私の尽力により再び新たに始まるのだ。』

『貴方が…貴方が死からジュカを蘇らせたのですか?』ケイバーは武器を下ろした。

『私はお前の死を白紙に戻したのだ。私はお前達を過去から連れ戻す魔法の力を集める為に何世紀も費やしたのだぞ、ケイバーよ。ロード・ブラックソン(Lord Blackthorn)の助力を得て、私はミーアの狂気からお前達を救う為に私が必要な力の最後の部分を得る事が出来たのだ。お前は今新しいイルシェナーを見下ろしている。ジュカが挑むべき新たな敵もいるぞ。私は今までしていたように、お前を導いてやろう。』

『ロード・ブラックソン?』ケイバーはその見知らぬ者を凝視した。そのクロークを身に纏った影は、一部分は肉であり、ある一部分は鎧になっている顔を見せながらフードに手を回した。光り輝く宝石の様な目は、金属の継ぎ接ぎのグロテスクな容姿を目立たせながら微かに明滅していた。

『要塞の周辺の地を探索する事から始めよ。』ブラックソンは命令した。『武器を集め、出会うもの全てを抹殺せよ。』

ケイバーは突然彼に命令を与えたその存在が何者であるかいぶかしみながら静かに立っていた。彼の主人の声が再び彼の頭の中で木霊した。『彼に従うのだ、ケイバーよ。』

ゆっくりと彼はブラックソンから目を離し、塔の深部へと歩いて行った。彼はその場を離れる時、不思議な何者かの視線を受けていると感じた。彼はブラックソンの顔に浮かぶ冷笑を見る為に振り返りはしなかった。一人ずつ彼は兵士を集め、武器を分配し、要塞とその周辺の土地を調べる為の部隊を編成しにかかった。彼は武器の山に思いを巡らして立っていた。塔の頂上から彼は遠方に生命の存在を見つけていた。彼が人間だと推測した者達は湿地の近くで潜伏しているように思われ、他の方向にはガーゴイルと思われる者の存在を確信した。彼はその様な獲物を狩る為に彼がよく用いていた二本の弓と十分な量の矢を手に取った。

彼は兵士の一団と共に要塞の扉から外へと歩み出た。彼らはこの新しい世界に慣れようとしながら、しばらくの間その景観を眺めていた。ケイバーは彼らに振り返り、そして吠え立てた。『前進!武器を構えよ!』

彼が兵士達の部隊の先頭で大股で歩み出した時、彼は撃破の心構えを以って前方を見遣った。一つの思いが彼の心にあった。

ダーシャは生き延びた。








5:31 2017/05/29

by horibaka | 2017-05-13 05:30 | その他 | Comments(0)