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BNNアーカイブ 労働者

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労働者

投稿日:2002年10月6日


全シャード
地面のずっと下、土と石の穴の中で、2人の労働者が1日中、忙しく動き回っていた。彼らは、このじめじめした暗い穴倉で働くことを無常の喜びと感じていた。早足で戦士の一団が駆け抜けたり、岩のトンネルの奥から剣や鎧がぶつかり合う音が響いくるといった騒ぎは、2時間前に収まっていた。もっとも、その程度のことで気が散るような2人ではない。彼らは女帝直々の命を受けて仕事をしているのだ。しかも、彼らは仕事をしながら新しい遊びを発明して、結構、楽しくやっていた。

『……じゃあ、科学者人生でいちばん恥ずかしかった体験ってのはどうだ?』ボルビン(Borvin)がクレット(Krett)に言った。

クレットは、大きな泉りの脇に組み立てている背の高い装置から顔をあげ、考え込むように顎をなでながら答えた。『いちばん恥ずかしかったこと……ですか。そりゃ、んー、むずかしいなぁ』工学博士は再び装置に向き直り、中に工具を握った腕を突っ込むと、何やら甲高い音を立てた。『それはその……、ふむ、難しい質問だよ』クレットは暗闇の中でかすかに顔を赤らめた。『たくさんありすぎて』

『いいから、ひとつ選べよ!』ボルビンは錬金術用の道具の数々を広げて、地下泉の脇の小さな椅子に腰かけていた。彼はガラスの小瓶を手に持ち、前かがみになって何杯目かの検査用の水を採取した。そして小瓶に紺色の液体を数滴落とすと、首を横に振って瓶の中身を投げ捨てた。『なんなら、私から先に話そうか』

『どうぞ、あー……、お先にお願いします』装置に頭を突っ込んでいるクレットの声は、かすかにエコーがかかって聞こえた。

ボルビンはクレットに目をやると、腕を振り上げて言った。『そんなところに頭を突っ込んだりしたら危ないじゃないか。中ではいろんな部品が動き回ってるんだろ。耳でも落としたらどうするんだ』

クレットは装置から頭を引き抜いて、ボルビンに微笑んだ。『17秒半ごとに外に出れば大丈夫なんですよ』装置は、内部で刀が回転しているのかと思わせるような、ヒュンという、聞きようでは恐ろしい音を立てた。クレットはまた装置に頭を突っ込み、調整を続けた。『あなたの番ですよ』

『ああ、そうそう。私の科学者人生でいちばん恥ずかしかった出来事だな』ボルビンはビーカーを見つめながらしばらく考えて言った。『それは、錬金術の先生を吹き飛ばしたときかな』

クレットは装置の中でクスクスと笑った。『いや、その……失礼とは知りつつ、つい……、でも、先生を吹き飛ばしたとは、これまた恐ろしい』

『いや、彼は無事だったさ』ボルビンも、かすかに腹を揺らして含み笑いをした。『どうして無事だったのかは、いまだに謎なんだがね。その先生は、父が私のために付けてくれた人でね、それは私が間もなく卒業というときだった。彼は私の才能を妬ましく思っていたんだな。私が大物になると見抜いていたんだよ』

クレットは、あのヒュンという音が鳴る寸前に装置から頭を出した。彼は別の工具を拾うと、また頭を突っ込んだ。『私も……、その、そういう先生に教わっていたことがありますよ。彼らも、私が大物になると思ってたようで……はい』

『たしかに先生の言うとおり、私は当時から大物だったよ。その頃からズボンよりも腹のほうが大きかったからな。人には変わらないものってのがある。違うか?』ボルビンは腹を手で叩きながら言った。『卒業作品として、私は新しい薬品を調合した。錬金術界をひっくり返すような新薬の発明だと私は自負していたんだが、ちょいとした初歩的なミスを冒してしまった。先生がやってきてそいつをテストしたところ、いきなり薬が爆発して、錬金術界ならぬ、先生をひっくり返ってしまった。先生は部屋の壁を突き抜けて通りの真ん中まで飛んでいったよ』

クレットの笑い声が装置の中でこだました。

『私は恐ろしくて、煤で真っ黒になったまま立ち尽くしたよ。先生は道の真ん中に倒れてる。もう死んだと思ったね。私はそこに何年間も立っていたような気がした。やがて先生はむっくり起き上がり、こちらへ歩いてきて、家に帰るよう私にやさしく言ったんだ』

『家に帰れって?』クレットは、装置の中で17秒半ごとに人の運命を決する何かをかわして頭を外に引き出した。『それで……、つまり、それだけ?家に帰れって?あ、やあ、こんにちは』クレットは少し顔を赤らめ、巣への出入りを許された2人の人間に好奇の目を向けて通り過ぎるソーレン(Solen)の労働者に挨拶をした。

『ああ、その日はそうだった。翌日からは、私は彼の下働きになったんだがね。1年半かかったよ、先生の家の修理代を弁償するのにさ』ボルビンは2種類の薬品を混ぜ合わせ、そこへ泉の水を数滴たらした。『ほう、アドラナス(Adranath)が正解だったようだ。彼らの飲み水が腐敗の影響を受けている。おそらく、彼らを今の姿にしたのは、この水だ。だが同時に、これはやつらの寿命を縮める原因にもなってるようだ』

『だからつまり、思うに彼らは……、飲み水を求めて地上に出てきたと?』クレットは尋ねた。

『あり得る、あり得る』とうなづくと、ボルビンは試験液を泉に流し、瓶や薬品を片付け始めた。『次はそっちの番だ。あんたの科学者人生でいちばん恥ずかしかったことはなんだい?』

クレットは装置に頭を突っ込んだまま、地面を手でまさぐっていた。やがて顔を出してあたりを見回した。『たぶん、それは今このときですよ……。つまりその、レンチをどこかへやってしまったようで』

『それがいちばん恥ずかしい体験だってのか?』とボルビンは聞き返した。

『いや、その、私は工具をなくしたことなんて、一度もないんですから!あれは最高のレンチだったのに。それに……』クレットは地面の上をあちらこちら探し回り、やがてトンネルの少し先で、彼のレンチを持ったソーレンを発見した。彼は珍しそうにレンチを眺め、それを歯で噛もうとしていた。『ああ!ちょっと待って!』

彼はソーレンに駆け寄り、相手を刺激しないよう静かにレンチに手をかけた。それはまるで、気難しい子供をなだめる母親のようだった。ソーレンは小さく甲高い声をあげ、クレットの手を振り解こうとした。『それは大切なものなんだから……その、返してね。お願い!これは女帝様に頼まれたお仕事なんだから、協力してね?』

ボルビンが歩いてきて、クレットの後ろに立った。彼は、手にしていた黄金色の透明な液体を満たした小さな壷を、神経質になっているソーレンの顔の前で左右に振ってみせた。『ほーら、いい匂いだろ?』ソーレンは触覚を壷に伸ばすと、すぐにレンチを手放した。そのため、レンチを取り返そうと頑張っていたクレットは後方によろめき、悲鳴とともに泉に転落してしまった。ボルビンは壷をソーレンに差し出すと、ソーレンはそれを奪い取り、カチャカチャと独り言を呟きながらトンネルを歩いていった。

『あれは、何だったの?』ボルビンに手を引いてもらって立ち上がりながら、口の中の水を吐き出し尋ねた。

『ハチミツだよ。弁当のパンに付けて食べようと思って持ってきたんだ』ボルビンはにやりと笑って答えた。『やつらは身長が180センチになって、女王は言葉までしゃべるようになったが、昔から変わらないものもあるってことだ。大丈夫か?』

クレットは濡れた顔をぬぐいながら答えた。『はい、大丈夫です』そして彼は装置に戻り、レンチを握った手を内部に突っ込んで、最後のボルトを締めた。『えーっと、これで、ここの仕事は完了ですね』

『それが役に立つと思うかね?』ボルビンは荷物をまとめながらクレットに聞いた。

『そう願いますよ。もし役に立たなかったら、そのときは、ああ……、それこそ、その、お恥ずかしいことで……』と言いながらクレットは苦笑した。

2人は、仕事を果たし満足な気分だった。新しい装置は、見た目は悪いが、女帝をはじめとするすべてのソーレンにとっては、最後の望みだ。

2人が外へ向かうトンネルを歩き始めたとき、ボルビンはクレットを振り返り、意地悪そうな笑いを浮かべて言った。『あんた、とうとういちばん恥ずかしい体験を話してくれなかったな』

『今、見てたじゃないですか』そうクレットは答えた。








9:09 2017/06/17

by horibaka | 2017-06-01 09:08 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 科学討論会


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科学討論会

投稿日:2002年9月30日


全シャード
太陽が沈み、ブリタニア城の雑然とした研究室の床の上を、粘液が流れるように、音もなく夕闇が覆っていった。オレンジ色の夕日の中では、まだ未練がましく細かい塵が弱々しくきらめいている。魔道師クレイニン(Clainin)が部屋を一周しロウソクを灯してゆくと、大きな円卓を囲んで座わっている人々の顔が次第に浮かび上がってきた。

老練の科学者クレット(Krett)は、いろいろな機械工具をテーブルの上に広げて座っていた。目の前には、数秒おきにカチッと音を立てる風変わりな金属の装置が置かれている。会の開始を待つ間、クレットはその装置に部品を組み込んでいた。それぞれの部品は、組み込まれるごとにボヨンと奇妙な音を発した。その左側には、錬金術師ボルビン(Borvin)が座っていた。ボルビンは比較的大柄な男だが、悲しいかな、体全体で筋肉が占める割合が極端に少ない体質になっている。しかし、こと錬金術に関しては、高い能力と豊富な知識を誇っていた。クレイニンは、ボルビンの錬金術の知識を大いに頼りにしていた。ボルビンの左隣はクレイニンの席なので今は空いている。さらにその隣には、ミーア(Meer)の賢人長老アドラナス(Adranath)が指を組み、静かに座っていた。

『みなさん、お集まりいただき感謝します』クレイニンはやっと着席し、参加者の顔を見回した。クレットは顔を上げて微笑むと、彼の装置から大きなスプリングが天井に向けて飛び出した。クレットは慌てて手を伸ばし細動する金属部品をキャッチすると、静かに机に置き、恥ずかしそうな苦笑いを見せた。『こうしてまた討論の席を設けることができるようになって、嬉しく思います』そう挨拶しながら、クレイトンはローブの下から小さな袋を取り出した。

『最後の会では、本当に楽しませていただいたよ』ボルビンが低い声で笑いながら言った。『ありゃ誰だったかねぇ。いまや魔法審議会のメンバーにもなっているあの若造は。世界が宝石の中に閉じ込められているという説を、何度も何度も聞かされたっけなぁ』

クレイニンは気まずそうに咳払いをした。『ええ、はい。あのときは……楽しかったです』そしてすぐさま話題を変えた。『マスター・アドラナス、私どものために貴重なお時間をありがとうございます。その後、ミーアの皆様は、いかがお過ごしですか?』

『元気でやっていますよ、マスター・クレイニン。お気遣いありがとう。この席にお招きいただいたことを、光栄に存じます。こうして知識溢れる諸先生方と科学的な謎について討論ができるなど……、そう、じつに数百年ぶりのことですからな』アドラナスと席を同じくした3人の参加者は、数千歳先輩の大魔道師からの最大の世辞に、鼻高々の気分になった。

クレイニンは袋の口を開き、興奮気味に参加者の顔を見回した。『では、本題に入りましょう』彼は注意深く袋に手を入れると、大きな ズーギーファンガス(Zoogi fungus)の塊を取り出し、テーブルの中央に置いた。『みなさんご承知のとおり、ソーレン(Solen)の巣が発見されました。残念ながら、安全性が確保されないため、まだ科学的な調査を実施できずにおります。そこで今日のテーマですが、彼女はどうやってこれを……』そう言うとクレイニンは、再び袋に手を入れて、転移パウダー(Translocation powder)が入った小瓶を取り出し、ファンガスの隣に置いた。『これに変えたかです』

各人は催眠術をかけられたかのように、円卓の上の2つの物体をじっと見つめた。部屋は、ピンが落ちる音も聞こえそうなほど静まり返った。事実、そのとき図らずもクレットの手から4本のピンが滑り落ち、それが単なる誇張表現ではないことを証明して見せた。『ああ、どーも……、し、失礼。忘れてたもんで……、手に握っておりましたのを……。い、いますぐ片付けますので、はい。とんだ失礼を』彼は気まずそうに咳払いをした。

睨めっこはさらに続いた。みんなの視線を集中すれば、答えのほうが痺れを切らせてズーギーファンガスから飛び出してくるのではないかと、全員が信じているかのようにも見えた。ときどき、中の一人が顔をあげて他のメンバーの様子を伺ったが、言葉を発してはいけないような雰囲気を察して、すぐにまたファンガスに目を戻した。このままではせっかくの会が台無しになる。クレイニンはそう感じて口を開いた。『みなさん、お腹は大丈夫ですか。軽い食事でも用意させましょうか』

アドラナス、クレット、ボルビンは、互いの顔色を伺った。食事に関して彼らが合意に達することは、世界が崩壊して宇宙の塵になるより前にはあり得ない様子だった。

『みなさん、そうおっしゃるのなら……』

『空腹というほどではないですけど……』

『じつは私は人間の食べ物の愛好家でして……』

3人が同時に話を始めたので、クレイニンは片手をあげてそれを制した。『食べる物を用意するよう、料理人に言ってきましょう。何かお腹に入れれば、頭も活性化されるでしょう。特にご注文はありますか?』

『それなら……ピザなど』とアドラナスが言った。

3人の人間の頭の中の時間の流れが極端に低下し、彼らはゆっくりと偉大なるミーアの魔道師に頭を向けた。

『なにか、いけないことを言いましたかな』アドラナスは目をパチクリさせた。

『いえいえ、なにも!』クレイニンが慌てて答えた。

『だけどその……、つまりです、その……、ピザをお召し上がりに?』クレットが尋ねた。

ボルビンは身を乗り出してこう聞いた。『もちろん、エールは欠かせませんな』

『いや……、私は一度だけピザをいただいたことがあるというだけで』アドラナスは困惑の表情を浮かべた。『先日、ダーシャ(Dasha)と私とで、ミーアクリプト(Meer Crypt)の近くで怪物に襲われていた人間のご一向をお助けしたことがありまして。そのとき、礼をしたいからと、彼らの料理人が食事に誘ってくれたのです。そのとき彼が作ってくれたのですよ、ピザを……発音はこれで合ってますかな?』残りの全員がうなづいた。『あなた方の食文化は、我らミーアのものに比べて非常に豊かで複雑です。新鮮な驚きであります。しかし、ピザはとても美味でした。じつに創造的な食べ物です』

ボルビンは乗り出した体を椅子の背に戻すと、クレイニンに微笑みかけた。『ピザを何枚か頼むよ。それとエールもな』

『たぶん、ご用意できると思います』クレイニンは答えた。『では、ちょっと失礼して料理人に伝えてきます。その間、どうぞズーギーパウダーに関する論議を続けていてください』彼は眼鏡の置くの目玉をいたずらっぽく回して見せた。

3分後、彼が部屋に戻ってきたとき、ズーギーファンガスとの睨めっこはまだ続いていた。

『それで……』クレイニンは自分の席に腰を下ろしながら大きな声で言った。『彼女がどうやってファンガスを粉に変化させたか、仮説を提起してくださる方はいらっしゃいませんか?』クレイニンの声から、明らかにイライラした気分が伝わってきた。

アドラナスが咳払いをすると、言った。『その、おそらく、ユーの腐敗から彼女はある種の魔法の力を得たのではないかと。あの生物が、この世界に新しく出現した生物だとするなら、腐敗に何らかの関係があると思うのですが』

『私は、私が知る限りあらゆる方法でそれを調べた。私が持っているすべての薬と混ぜ合わせたりもしてみた。だから、何らかの魔法が関係しているとしても驚きはしないよ。錬金術的には、どう考えても不可解な現象だ』ボルビンが言った。

『あの、その、もしかして……、これはファンガスが自分で自然にですね、こうなると。彼女はただそれを……、何らかの方法で早めたというのでは?』クレットは、テーブルの上に置いた歯車を意識せずに手で前後に転がしながら言った。『何らかの、その……、物質が、彼女の体内で生成されているのかも』

だんだん核心に近づいてきた、とクレイトンは感じた。

『食事はあとどれくらいかかるのかね?』とボルビンは尋ねた。

* * *

数時間後、空になった皿やジョッキを使用人が片付けるころになっても、討論に進展は見られなかった。

『つまり、こういうことです。おそらく腐敗の副産物として、彼女は自ら意識することなく魔法を生み出し、使っている』眼鏡の位置を直しながらクレイニンは言った。『どれくらいの速度で成長したのか、さらに、それは数世代をかけたのか、あるいは一世代で完了したのかによりますが、魔法は彼女の、いわゆる生体組織の一部になった可能性があります』

『エールを飲むのは初めてですか?』ボルビンはアドラナスに尋ねた。

『今はエールではなくファンガスの話をしましょう、ボルビンさん』クレイニンは言った。『この小さなキノコは謎の塊です。あなた方がこれに興味を示さないのが不思議でならない。これは大変な発見なんですよ』

『これって……もしかして、ピザに乗せたらどうかなと……』クレットがクレイニンの要求に答えて小声で言った。クレイニンは両手に顔を埋めた。

『クレイニン、お前にお土産だ!』

聞きなれた声がドアの向こうの廊下から響いてきた。経験豊富にして天才的レンジャーのシャミノ(Shamino)だ。彼は袋を手に持ち、ニコニコしながら研究室に入ってきた。円卓の学者たちに軽く会釈をすると、彼はクレイニンに袋を投げてよこした。クレイニンはびっくりながらそれを受け取り、中を覗いた。

『こいつは、すごい量のパウダーだ、シャミノ!どこでこんなに集めたんだ?』クレイニンは驚きながらも、嬉しそうにシャミノを見上げた。

『クイーンがくれたんだ』そう言うとシャミノはスツールに腰かけ、足を組んだ。

『え、彼女に会ったのか?生きているとは聞いてたけど』クレイニンは袋の口を閉じた。そして、それを戸棚のところまで持ってゆき、中にしまった。『今ボクたちは、クイーンがどうやってズーギーファンガスからパウダーを作るのかを、討論……していたたところなんだ』

『また明日、会いにいくから、直接聞いてきてやろうか?』シャミノはそう進言した。

『また会いに行くって?何を考えているんだ。そんな危険なところは、一度行けば十分じゃないか』ボルビンが口を出した。

『そうでもないさ。ボクはもう、あそこの顔だからね』シャミノは立ち上がり、気取らない仕草で伸びをしながらドアに向かいつつ言った。『怒ってないときは、面白い連中だよ。働きアリと小石でキャッチボールをしたぐらいさ。ヤツは楽しそうにしてたよ』

アドラナスは目を見開いた。『あなたには襲いかからないと?』

『でも……、あの、いったいどうやってお友達になれたのです?』とクレットが尋ねた。

シャミノは学者たちを振り返り、後ろ向きに部屋を出ながらニコリと笑って答えた。『ボクはレディーの扱いには慣れてるからね』

シャミノが去ると、男たちはしばらく部屋の中で押し黙ってしまった。

『つまり、シャミノについて行けば、好きなだけ彼らの巣の中にいられたってことか』クレイニンはため息交じりに言った。『そうすれば、今ごろはファンガスの謎もとっくに解けていたはず』

『いずれにせよ、クレイニン君、私は楽しかったよ』とアドラナスが言った。『食事もすばらしかったしね』クレイニンは、ふて腐れた顔を見せたいところを、必死に堪えた。

ボルビンが笑いながら言った。『それに、あなたは初めてのエールを体験できた!』これにはクレイニンも顔をしかめた。

『そうそう、こ、今夜の集まりがまったく無駄だったとは言えませんよ。それぞれ、何らかの、そのつまり、科学的な成果を得られたと思うんですけど』とクレット。

『それは何です?』クレイニンはクレットを見上げて言った。

クレットは、取っ手の先に鋭く細かい歯が並んだ歯車を取り付けた道具を手にしていた。『私は、これを発明できました。ピザカッターです』







4:33 2017/06/16

by horibaka | 2017-05-31 04:31 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ オークと爆弾

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オークと爆弾

投稿日:2002年9月21日


全シャード
オークの基準から見ても、フッド(Fud)とグリンデック(Grindek)は頭のいいほうではなかった。高い木の枝にしがみついている、こんな危機的状況に至っても、その事実が覆ることはなかった。一般にオークは、頭が悪いと言われることを好まなかった。その手のメッセージは頭をガツンとやられるような衝撃的な形で送られてくるのが常なので、とくに嫌がった。しかし、自分で自分は頭が悪いと認めることは、それよりずっと嫌なことだった。

フッドとグリンデックはオーク爆弾師(orc bomber)だった。科学は、彼らにとって恐ろしいほど最先端の技術であり、オーク爆弾師は慎重に選ばれた存在だった。しかし大多数の候補者は、今の仕事を続けるようにと追い返されてしまった。なぜなら、彼らは平均以上に優秀なオークだったからだ。結局、大きな破壊力にあこがれて志願してきた、部族の中でもあまり頭を使わないほうの連中が選ばれることになったのである。爆弾師は、新しくて難しくて、大変に危険な仕事だった。仕事中に爆弾師が命を落とす事故は、毎日のように起きた。その原因の多くは爆弾師自らのミスによるものだった。薬剤の調合を間違えたり、誤って爆弾を床に落としたり、中でももっとも多かったのは、出来上がった爆弾の味見をするというミスだった。

自らのミスによってバタバタ死んでいく爆弾師が、フッドやグリンデックのような連中、つまりオークの間でコケにされるほどの超強力な馬鹿ばかりだったことは、部族にとっては幸いだった。フッドとグリンデックは、特に無知で無学であったことを買われてこの仕事を得た。彼らは、他のオークをほとほと呆れさせ、首を横にふって重いため息をつかせるほどの完璧な薄ら馬鹿であった。部族でもっとも危険なこの仕事に就くことができるのは、そんなごく一握りの特別なオークだけだった。人々は、フッドとグリンデックを爆弾試験師(bomb-tryers)と呼んだ。

爆弾試験師という職業の存在意味を疑う者がいるが、それは間違っている。ちゃんとした爆弾師は、より強力な爆弾を開発するために、新しく調合した爆薬を試験する必要に迫られる。また、ちゃんとした爆弾師は頭がいいので、自分で実験しようなどとは思わない。そこで部族の長たちは、爆弾試験師という職種を新設したのである。その仕事には、フッドやグリンデックのような完全な馬鹿を採用した。ほとんどの場合、刺激を好む彼らは大喜びで仕事に飛びついてきた。

ところが、今日の任務は刺激が強すぎた。新型爆弾を何かに投げつけて爆発させるだけという、本来ならばごく簡単に片付く仕事のはずだったのだが、お気楽な午後は、とんでもない悪夢に変わってしまった。指先だけで辛うじて枝からぶら下がっている2人の足のはるか下方の草むらの中には、無数の巨大な虫たちがうようよしている。彼らは2人を見上げながら、カチャカチャと顎を鳴らしたり甲高い声をたてて互いに話をしているようだ。楽しい話をしているようには見えなかった。

『どーすんだよう?』フッドはオーク語で言った。

『でっかい虫がいなくなるまで待つ』グリンデックが不安そうに答えた。

地面では、1匹のソーレン(Solen)が、だらしなくぶら下がっている2人を見つめながら、腕を使って木を激しく揺さぶった。あの虫はニヤニヤ笑ってると、フッドは思えてならなかった。

『ぜんぜん、いなくならないぞ』フッドは必死に枝を握り直しながらベソをかいた。

『いやなら、もっと上に逃げれ』グリンデックも枝を握り直しながら、怒るように言った。

『オレがか?お前が先に行け!オレはお前の後から行く!』フッドは怒鳴った。

あのソーレンがまた木を激しく揺らした。2人は震え上がった。ソーレンのすぐ近くの地面には大きな穴が開いていて、そこから次々と巨大な虫が這い出してくる。フッドとグリンデックは枝を握り直し、腹を立てて互いの顔を睨み付けた。

『オレがお前の後から行くんだ、フッド!』グリンデックは怒鳴り返した。

『オレが先にお前の後についてくって言ってんだ、バカ!』フッドも言い返した。

ソーレンはまた木を揺らした。松ぼっくりでも落とそうとしているかのように、それは枝からぶら下がる2つの緑色の餌を見つめている。

『バカじゃない!』グリンデックは忍耐の限界に達した。足の下で口を開けている状況をすっかり忘れ、彼はガルルと唸りながらフッドの腹を蹴り上げた。フッドもグリンデックの腹を目掛けて蹴りで応戦した。2人は、辛うじて枝からぶら下がった状態のままで、激しいけり合いを展開した。

その様子をソーレンは、黙って見つめていた。

2人のオークは喧嘩を続けた。今は非常に危険な状況にいるという事実は、なかなか彼らの脳ミソには戻って来なかった。2人の腰のベルトには、爆弾師が開発した大きな新型爆弾が縛りつけられていた。蹴り合いの間、彼らはこの壮大にして劇的な大爆発によって使用者を殺害せしめること以外にほとんど使い道のない爆弾も蹴飛ばしていた。そのため爆弾の紐は次第に緩み、やがてそのうちのひとつが、するりと解けて落下を開始した。このときになって、やっと2人は蹴り合いをやめ、落ちてゆく爆弾に目をやった。

大きな爆弾がくるくると回転しながら、地面までのまっすぐの道のりを、際どく枝葉の間を縫いながら落ちてゆく様は、スローモーションのようにゆっくりと感じられた。ソーレンもまた、落ちてゆく爆弾を見つめた。爆弾の落下を目で追う巨大な虫たちの頭が揃って動いた。やがて爆弾は地面に到達し、あたりは猛烈な閃光と耳をつんざく轟音に包まれた。

次の瞬間、フッドは目を瞬かせた。彼は大きな枝を抱きかかえるようにして、木にへばり付いていた。あたりを見回すと、グリンデックが木のてっぺんのいちばん高い所にある枝にしがみ付き、振り子のように大きく揺れていた。2人は互いを確認すると、煙を燻らせるソーレンの死体が転がる黒焦げの草むらに向かって、木を降り始めた。

そのとき、何かが裂けるような大きな音に周囲の空気が振動した。すると木が大きく揺れ、やがてゆっくりと、しかし確実に傾き出した。グリンデックは、急速に自分に向かってくる地面の穴に気づくと、木の枝にしがみつき硬直した。そして、大きな音を立てて木が倒れると、グリンデックは真っ暗な穴の中へ真っ直ぐに落ちていった。

ものすごい音がして地面が揺れた。フッドはしがみ付いていた倒木の枝から振り落とされると同時に、穴から巨大な火柱が立ち上り、大量の灰が噴き出した。穴はそのとき、グリンデックの墓と化した。驚くのも忘れるほどびっくりしたフッドは、よろめきつまづき、煙を立ち上らせている穴に転落してしまった。穴は、ほんの一瞬前よりも、少しだけ大きくなっていたのである。目眩でぼやけたフッドの目には、焼け焦げたソーレンの体が散乱する穴の底が見えていた。

なんか変だ。ソーレンの黒焦げの死体がどんどん近づいてくる。フッドは取り乱した。ソーレンは死んでるはずなのに!なぜ動く?すっかり混乱したフッドだったが、あることに気が付くと、奇妙な安心感に包み込まれた。『ああ……アリンコが近づいてるんじゃない。オレが落ちてるんだ!』ドサッという音とともに、彼は穴の底の柔らかい土の中にめり込んだ。グリンデックの爆弾の余熱で、土はまだ温かい。幸いなことに、フッドの爆弾はグリンデックの二の舞にならずに済んだようだ。

だが待てよ。自分は今、アリンコの穴の中にいる。さっきまで、この穴の中からアリンコは次から次へと這い出して来ていたのに。グリンデックの爆弾が爆発するまでは……。そうか、この新型爆弾が役に立ったんだ!オレはまだひとつ持ってる。みんなに見せてやれる!今やフッド様は"えらい"爆弾試験師だ!部族の爆弾師は、みんなオレを尊敬するぞ。フッドは喜び勇んで、陽光まぶしい地上へと這い出した。

今日はいい日だ。フッドは命拾いをした。だから今はフッドが爆弾試験師の頭だ。早くそれを自慢したくて、彼は家路を急いだ。嬉しくて嬉しくて、背後に大きな翼を広げた陰が近づいてくるのも気付かないほどだった。翌日、オークの一団が巨大なワームの死体を発見した。しかしそのワームの首から先が吹き飛ばされたようになくなっていて、周囲が真っ黒に焦げていましたとさ。








5:30 2017/06/15

by horibaka | 2017-05-30 05:29 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ クレージー・ミギー

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クレージー・ミギー

投稿日:2002年9月18日


全シャード
これは、シナリオ第1週の物語の、追加ストーリーです。

トリンシックのケグ・アンド・アンカー(The Keg and Anchor)は、旅人が気軽に立ち寄り、冷たいエールと健康的な食事で英気を養う、そんな落ち着いた店だった。従業員たちは、のんびり落ち着いた店の雰囲気を大切にしていた。彼らはよく、気の利いたジョークを飛ばし、面白い話を聞かせては客を楽しませてくれたものだ。この店は、激しく過酷な戦いの日常を忘れ、パブの暖かい雰囲気の中でチェスや人気のダイスゲームに興じることができる、格好の夜の隠れ家として、旅なれた一流の冒険家たちの間でも評判だった。

だが、そんな落ち着いた店の雰囲気をぶち壊す問題がひとつだけあった。クレージー・ミギー(Crazy Miggie)だ。ミギーがどこの馬の骨で、そもそも彼がなぜ"クレージー"になったかを知る者は、ケグ・アンド・アンカーの常連たちの中にもいなかった。と言うより、客たちにとれば、何杯か腹に流し込んでしまえば忘れてしまうような事柄だったのである。世間に名の知れた乞食がみなそうであるように、ミギーにも誇大妄想の気があった。彼は、このブリタニアに降りかかったすべての災厄は、恐ろしくて口に出せないほどの悪い連中が彼を狙って引き起こしたものだと信じて疑わない。

ミギーはまさに"頭のイカレた乞食"という形容がよく似合う人物だった。まるで彼自身が学者チームを雇い、さらにブリタニア全土で『頭のイカレた乞食に必要なものは何か』というアンケートを実施するなどして入念に調査を行ったのではないかと思わせるほど、ぴったりはまっていた。ぼさぼさの灰色の髪は、雷に撃たれた直後のようにあらゆる方向に逆立ち、衣服からは、伝染病で死んだ動物の肉で洗ったかのような異臭を放っていた。顔には迷路のように皺が走り、片方だけの目は皺によって半分閉じかかっていた。どう贔屓目に見ても、醜い男だった。人々は、極力彼を避けて歩いた。モングバットですら、できる限り彼には関わらないようにしていた。

にも関わらず、ミギーはケグ・アンド・アンカーの常連客のお馴染みであった。彼が興奮して店に飛び込んでくるのを、客たちは嫌がるどころか、むしろ楽しみにしていたほどだ。とくに、娯楽に飢え、どんな小さなことでも楽しもうとしている連中の間では格好の暇つぶしの対象だったのである。彼は、殺されそうな悲鳴をあげながら誰もいない店に走り込んでくることがよくあった。また、とても警戒心が強く、夜が相当に更けてから現れる傾向があった。

トリンシック全土に対するミナックス(Minax)の猛攻撃が去り、町は次第に日常を取り戻していった。ケグ・アンド・アンカーも例外ではなく、店を再開した日には、多くの常連客がほろ酔い気分の一晩を楽しもうと戻ってきた。警備兵のロジャー(Rodger)は、いつもの席でくつろぎ、けたたましく大笑いする合間にぐーっとエールを飲み干していた。魔法使いのレッジと相棒の戦士ラルはカウンターに陣取り、代わる代わる酒を注文しては、バーテンのサミュエルと話を聞かせ合っていた。町中がアンデッドに襲われた後でもあり、彼らにはくつろぐ必要があった。彼らは、くつろぐことにかけてはプロだった。もしこれが商売だったなら、彼らはかなり稼いでいたことだろう。そんな、誰よりもくつろいでいた彼らだけに、クレイジー・ミギーがまるで狂気の化身であるかのようにドアから飛び込んできたときには、いささか驚いた。

『ミナックスだぁ!あいつが出た!みんな逃げろ!この町を乗っ取りに、死んだ亭主といっしょに攻めてきたんだ。パンの匂いだ!焼きたてのパンの……、みんな殺されるぞ!』ミギーはロジャーのチュニックを掴んで体を揺さぶろうとしたが、衛兵の巨体はびくともせず、反対にミギーだけがバタバタと暴れているように見えた。

ロジャーはエールを吐き出しそうになって言った。『頼むよ、おっさん!ミナックスは2週間前に追い払ったよ。今すぐその臭い手を離さないと、オレのハルバードで切り落としてやるぞ!』

『そりゃあいい、ロジャー!』バーのあたりからレッジ(Ledge)が茶々を入れた。『そのハルバードが、モングバットを追い払う以外に役に立つところを見てみたいもんだ!』

ラル(Rul)が大声で笑いながらバーテンのサミュエル(Samuel)を振り返った。『お代わりはちょっとお預けだ。このミナックス事件を放ってはおけないからな。ミギー、そこへ案内してくれ!オレが彼女をこちょこちょして町から追い払ってやる。いい女だからな』彼はそう言うと、くすくすと笑った。

『ラル、お前のカミさんが今のを聞いたら、何ていうかな?』レッジが言った。

『女房だと?女房め!そうか、なんか忘れてると思ったよ。サミュエル、やっぱりお代わりだ。オレにはこっちのほうがいい』ラルとレッジは笑い転げた。その間、ロジャーは、なるべくミギーに触れないようにして彼を追い払うことに苦労していた。

『見たんだよ!すぐ外に立ってるんだ!ああ、徳のご加護がありますように。みんな殺されてしまうー!』ミギーは大声で叫ぶと、芝居がかった様子で自分で自分のシャツを引き裂いた。店の客たちはミギーの聞き苦しい声に顔をしかめたが、バーテンのサミュエルは、とっくに馴れっ子だった。

『わかったよ、ミギー。外で聞こう。恐ろしいミナックスを見に行こうじゃないか。あんたが下戸で助かったよ。ほら』サミュエルは汚れたナプキンをミギーの肩にかけ、その上から手を置いて、ミギーを店の出口へと誘導した。そして、ミギーの体でドアを押し開けさせ、店から数歩離れた場所まで連れ出した。店の中からは、一斉に椅子を引く音が聞こえてきた。彼らは窓のところに固まり、興味深げに事の成り行きを見学していた。『それで、どこにいる?』

『あれだ!ほら!おお、ミナックス様。お助けください!命だけはご勘弁を!何でも言うことは聞きます。あなたの死んだご亭主の餌にしないでください!』サミュエルは通りを見渡して、目を瞬かせた。そこでは、洗濯の水を通りに捨てた仏頂面の老婦人が、こちらを睨み返していた。

『すいません、ブリンスタイン(Brinstein)さん。ミギーがふざけてるんですよ。ご主人によろしくお伝えください』ブリンスタイン婦人は恐ろしいうなり声をあげた。その声には、オオカミの群のリーダーをも震え上がらせるほどの凄味があった。『さあ、ミギー。今夜はもう店には来ないでくれよ。それから、営業時間中に生ゴミを漁るのもナシだ』

サミュエルは、ナプキンを乗せたままのミギーの肩を軽く押し出した。ミギーは恐ろしいブリステイン婦人の目を見つめた。そして、ナプキンを彼女に投げつけると、命乞いを叫びながら夜の闇の中に転げ込むようにして消えていった。店の中からは大きな笑い声が響いてきた。

* * *

『エクソダス(Exodus)だぁー!殺されるぞ、逃げろー!エクソダスの手下の金属人間が追いかけてきた!オレを金属人間に改造しようとしてるんだ!怖い怖いガーゴイルが一日中オレにつきまとってるんだよー!』ミギーはパブに転がり込むと床に伏せて、ガタガタと体を震わせながら両手で頭を覆った。まるで地震の魔法に襲われた人のようだった。

サミュエルは、マグカップを磨く手元から目も離さずに言った。『それなら3週間前にやっつけたじゃないか、ミギー』

『いや、違う!でっかいボーレム(Bolem)が怒って追いかけてきたんだ!』ミギーは、自分の体の臭いを周囲に撒き散らそうとでもするかのように、両手をばたばたさせて反論した。

『ゴーレム(Golem)だ、ミギー。ゴーレムだよ』バーの椅子に腰掛けたレッジが口を挟んだ。『エクソダスはもうゴーレムを送り込んだりはしないよ。ヤツにはもう、ゴーレムを作らせる奴隷が一人もいないんだからな』

『ガーゴイルは悪い連中じゃないぜ!』とラルは付け加え、ビールの最後の一口をすった。『オレはレッジとガーゴイルの都に行ったことがあるが、きれいなところだった。そこで飲んだくれようって気にはなれなかったがな』

レッジは黙ってラルに同調してうなづき、何かを目で訴えながら部屋の反対側にいるロジャーに向かって言った。『なあ、ロジャー。お前も町の警備兵なんだろ。ぼんやりしてないで、ほら……ミギーを店の外に連れていって、何も怖がることはないって安心させてやったらどうなんだ?』

『まだオレはビールを飲んでるんだ。それに、そういうことはサミュエルの……あ、ああ、そうか!オレは警備兵だもんな。市民の安全を守るのがオレの義務なんだったよな。行こう、ミギー。誰もあんたを追いかけてなんかいないってことを、オレが証明してやるよ』ロジャーは震えるミギーをハルバードの柄で突付き、彼を立たせた。

レッジとラルはほとんどひっくり返りそうになりながらも、必死に笑いをこらえていた。ロジャーはミギーを突付きながら店の入り口の外まで追い出すと、間もなく建物全体を揺るがすような大きな悲鳴が聞こえた。そして、異臭を放つ灰色の髪の毛が2つの窓の前を猛スピードで通過していった。レッジとラルは、笑いをこらえ切れずに椅子から転げ落ちんばかりに身もだえした。

『サミュエル、オレからレッジに1杯やってくれ』ロジャーはニヤニヤ笑いながら言った。『お前の勝ちだよ。お前のゴーレムの術がかなり利いたようだ』

* * *

遠くから響いてくる常軌を逸したミギーの叫び声は、店の中にまで聞こえてきた。その声は次第に近づき、店の戸口で止まった。ちょうど、見たこともないほどピカピカに磨き上げられた鎧の手が店のドアを開けたところだった。鎧の主は、若くてハンサムな戦士だった。腰に眩いばかりに色づけされた剣と鞘を下げている。まるで英雄とドラゴンが登場する子供のおとぎ話から抜け出たような、英雄然とした男だ。ミギーは、興奮した子犬のように、彼の周りをぴょんぴょんと飛び跳ねた。

『アリだよ!家ぐらいあるでっかいアリの大群だぁ!すんごくでっかくて、人間なんかペロっと食っちまう!そいつらが、オレを食おうと追いかけてきたんだよー!』ミギーは、話を聞いてくれる新しい人間が現れたことに狂喜していた。すでに酒の回っているケグ・アンド・アンカーの常連たちは、鏡面仕上げの鎧に映り込んだ飛び跳ねるミギーの姿をぼんやりと眺めていた。

『いらっしゃい。何を差し上げましょう?』サミュエルが声をかけた。『とりあえずエールをグーッと、どうです?』

『エールを飲むと警戒心が鈍る。正統な騎士の飲み物は水と決まっている』男は横柄に答えた。

『あんな気取った野郎は、これまで会ったことがない』ラルはくすくす笑いながら小声でレッジに言った。鎧の男は、その会話が聞こえたかのように、キッと2人を睨み付けた。彼らは咳払いをして笑いをごまかした。

『強い騎士様、お助けください!でっかいアリがオレを食おうとしているんですよ!木からぶら下がった2匹のオークをあいつらが食おうとしてるのを見たんでさぁ!あいつら、何でも食っちまう!お助けくださったら、一生恩に着ますです!』ミギーは喉から丸太を半分に引き裂くような音を立てたかと思うと、若き戦士の鎧にて唾を吐きつけた。彼はすぐさま、ぼろぼろのシャツの袖で鎧についた唾を拭い去ろうとしたが、しっかりと染みが残ってしまった。

男は、胸当てプレートにできた染みを気にする素振りを見せまいと、店をぐるりと見回して言った。『このお方を苦しめている物の正体を見極めに、拙者と共に出かける勇気のある者は、ここに何人おるか?』

耳を圧迫するような沈黙が流れ、次の瞬間、爆発音のような笑い声が店を満たした。

『ちょ、ちょっと待った。真に受けちゃダメだ。巨大なアリだって?平凡すぎるぜ、まったく』ラルの顔は笑いをこらえ切れずに真っ赤になった。『ミギーのやつ、とうとうオリジナルのモンスターを考え出すようになったか。頭が良くなってるのか悪くなってるのか、わかんないよ』

男の表情が不快そうに歪んだ。彼は両足を椅子に乗せ、最後の一口のエールを喉に流し込んでいるロジャーを見下ろすと、言った。『貴殿は、この町の警備兵であろう?命に代えてでもこのお方をお守りするのが、徳の道というものではないか。貴殿の武勇はいずこにある?』

『オレだって勇気ぐらいある!』ロジャーはほろ酔いに緩んだ顔で言った。『サミュエルのエールが飲めるんだからな』常連客たちの笑い声がさらに高まった。

『貴殿は、魔法使いであろう……』男は語気を荒げた。『このような気の毒な方に、慈悲の心を示されてはいかがか!』かいがいしく彼の鎧を磨こうとして返って汚しているミギーの行為を丁寧に拒みながら、男は訴えた。

『慈悲の心は3杯前に使い果たしちまったよ』レッジは空になったマグカップを逆さにしてカウンターに置いた。『サム、こちらのお方に、お別れのグラスを1杯を頼むよ』

サミュエルは新しいエールのカップをレッジに、水の入ったグラスを男に渡した。『悪気はないんですよ。ミギーはここいらじゃ有名な……その……空想家でして。ヤツの巨大なアリが負いかけてきたってのは、差し詰め、転んでアリ塚に顔から突っ込んで、アリンコをうんと間近に見たってな程度のことなんですよ』

若い騎士は、その店に漂う嫌な雰囲気を感じた。『このお方の言葉を、誰一人として信じようとしないのか?』

もし、人を小馬鹿にした目くばせが音を立てたとしたら、店の中はオークの爆弾を火にくべたような大騒音がまき起こっていたに違いない。

『この臆病者どもが何もせぬと言うのなら、この拙者が巨大アリを退治して差し上げよう!さあ、共に参られよ。あなたが見られた怪物の巣へ拙者を……、あの、鎧に触らないでいただけるかな。いざ』マギーは、相変わらず男のまわりをぴょんぴょん跳びはね、またあの話を最初から、まるで初めてするかのようにペラペラとまくしたてながら、男と店を出ていった。

* * *

次の夜、パブは輝く鎧の男の噂で持ちきりだった。レッジとラルとロジャーは、あの騎士と名乗る男が夜通しアリンコを探して歩き回る姿を想像し合っては、何時間も笑い転げていた。しかし、そんな馬鹿騒ぎも、店のドアが開き、そこにミギーが黙って立っているのを見たときにピタリと止んでしまった。

ミギーは、バルロンの集団暴走に踏みつけにされたような顔をしていた。彼の髪の毛や衣服には、血の塊がこびりついている。彼は木の切り株のように押し黙っていた。細かいところまでは見えなかったが、体中に、いくつもの巨大なアリの頭がぶら下がっていた。鋭い顎で彼の体にしがみつくその頭は、死してなおこの男を食おうとしているかのような迫力があった。ひとつの頭は彼の首に噛り付いていた。別の頭は右腕に噛り付き、さらにもうひとつは足首に噛り付いていた。風変わりな宝石を身に着けているようにも見える。彼の右手には、傷だらけになった昨日のあの若い騎士の胸当てプレートが握られていた。

彼は足を引きずりながら、ゆっくりとバーに近づき、さりげなくカウンターにもたれかかった。そのときの足音は、エコーがかかったように店の中に響き渡った。『エールをもらえるかい?』彼は静かに言った。サミュエルは黙ってうなづき、エールを注いだカップを彼の前まで滑らせた。ミギーはエールが飲めるように、手首に噛み付いていた巨大アリの頭をさりげなく取り去り、カウンターの上に置いた。彼は乱暴にカップをカウンターに置くと、輝く鎧を頭上に掲げ、そしてサミュエルの前に投げつけた。『代金はこれでいいか?』

サミュエルはうなづいた。

ミギーは微笑むと、カウンターに置いたアリの頭を取り、脇に抱えた。そして、また足を引きずりながら店を出るときに、彼はラルとレッジのほうを見た。『な、でっかいアリだろ?』2人は、まったく言葉を出せないまま、うなづいた。ミギーは戸口で立ち止まり、ゆっくりと振り返って店の中の連中を見回した。

『忘れるところだった。あのゴーレムだが、いまいちだったな』

そう言い残すと、ミギーは夜の街に消えていった。








5:25 2017/06/14

by horibaka | 2017-05-29 05:24 | その他 | Comments(0)
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我掘る、故に我あり

投稿日:2002年9月10日


全シャード
思考は、そよ風に乗って窓から舞い込んだ羽毛のように、ゆっくりと、とりとめのない形で訪れた。やがて意識が芽生えた。だがそれは、よちよち歩きをはじめた幼子のごとく、バランスを崩してぎこちなく走り出し、すぐさま激しく転倒した。ようやく欲求不満を感じられるまでに成長した心に、それが湧き起こった。

永遠とも思われる長い奮闘の末、心は、ごく原始的な秩序を持たせる事で思考を管理する事ができるようになった。原始的ではあるが、その秩序は思考を解読可能にした。すると、瞬間的な細切れの理解が爆発的に生じていった。それは完全なる思考だ。混乱の靄の中に霧散してしまう事もなく、氷のように記憶に凝固させる事ができる。新しく生まれ出る思考のすべてが、より新しく、より複雑な思考の産物へと形を変えていった。そして加速的に意識は成長し、これまでになく力強く安定し、ついには完全な結合性を有する原則が確立されるに至った。それは、あらゆる知的活動を凌駕する衝撃的な事件だった。

この個体に自意識が芽生えた。知性が初めて自己と言う概念をとらえた瞬間だ。もう天然の本能と反射神経の寄せ集めではない。独立した実存として己を認識できるようになったのである。そして瞬く間に、可能性の宇宙が拡大していった。

心を宿したその個体は、暗闇の中で己の手足の状態を確かめた。それはとても重要なものだ。この個体に属し、この個体の体の一部であるがゆえに、この個体に支配される。その考えは、初々しい心にとって非常に魅力的なものだった。自己認識を行った瞬間、自己は周囲の宇宙から完全に分離した。それは驚異的な感覚だった。本能に従い日常の行動をとっていた時には単なる背景に過ぎなかった世界が、今や謎と驚異を背後に隠す神秘の緞帳となったのである。

個体は、自己以外の存在を認識しようと周囲を見回した。見たものを心に記憶できるよう、最初はゆっくりと確認していった。速過ぎては、考えがまとまらず記憶に留める事が難しくなる。それは、肢体の一本を伸ばして目の前の壁に触れた。ほんの少し土が崩れ落ちた。よく見慣れた光景だ。そして己の従属物である肢体の先端に何かが残留する感覚を覚えた。ここはよく知っている場所だ。ここは自分が住んでいる場所だ。原始的な本能が拡大し、すぐさま明確な姿となって開花した。ここは自分の故郷だ。ここは安全だ。ここには……、何かがある。何かとても重要なものが。

背後の音に驚いて、それは素早く振り返った。生き物だと、それは確信した。静かに、そこにじっと立っている。新しい感覚が体をつき抜け、心が動揺する間、2つの個体は身じろぎせずにたたずんだ。匂いだ。懐かしい匂いだ。それは、生まれたばかりの知性の中核に直接働きかけ、記憶の爆発を引き起こした。間違いない。今現れたこの生き物は、仲間だ。友達だ。ここは、それの家だ。それは、自分に危害を及ぼすような素振りは見せず、すぐに部屋の壁と土へと注意を移した。

あらゆる物事が新しく、矢継ぎ早に訪れた。しかし、その個体の心も急速に拡大し、すべてを吸収していった。意識はますます成長し、精密になり、それぞれに映像と匂いを伴った新しい概念を次々と生み出してゆく。これは……、気持ちがいい。一度に多くの発見ができる喜び。学び、発見する。その瞬間の楽しさは、何物にも代えがたい。

突如、すべてが停止した。新しい匂いだ。しかし、よく知っている匂い……、とても力強い……、逆らえない。その匂いの正体は、わざわざ目で確かめるまでもなかった。この匂いに込められた意味は、体の隅々まで染み渡っている。

リーダー……。

これは単なる新しい知識ではなかった。もっと重大なものだった。目的のある知識。方向性のある情報だ。自分とよくにた他の個体も、それを理解したようだ。この一瞬の衝撃的な匂いがコミュニケーションをもたらし、それを感知しうるすべての意識の間に、あるものを伝えていった。指揮。命令。指示。

この空間にいる個体は、すでに承知している事柄が事実である事を確認し合うかのように、周囲を見回した。そして彼らは行動を開始し、指揮者としてみなが認めた個体の意思の実現に専念した。目的と決意。数百の個体が同じ思考のもとにひとつになった。非常に明確で、昔から体に染み付いている思考。取り違える事などあり得ない。


掘れ。








5:26 2017/06/13

by horibaka | 2017-05-28 05:25 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 思惑ふたつ

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思惑ふたつ

投稿日:2002年9月9日


全日本シャード
またか、と彼は舌打ちした。前を歩いていた市長が立ち止まり、あごに左手をあてるのを見たからだ。市長がくだらない事を言い出す時の決まった仕草だ。

「マルコス(Marcos)君、あの妙な囲いはなにかな?」

「はい、畑に立てられた異国様式の囲いでございますか」

「うん、ああそう。その、妙な囲いだよ。以前来た時は無かった様に思うんだがなあ」

彼としては最大限皮肉った言い方をしたが、市長は全く気づく様子がなかった。

「あれは、新年祝いの催しのため立てられた施設の一部です。土地の確保に都合が良いからと、市長のご指示で囲いのみ残してある物ですが。」

市長はだまって畑を眺めていたが、顔色一つ変える様子はなかった。そしていつもの様に、癇にさわるのんびりした大声でしゃべりだした。

「ああ、おーおーおーおー、うん、確かにそう言う事が間違いなくあったかも知れないね。でもね、うん、あれでは農家の皆さんは農作業がまるでできないじゃないですか。うん、それはいけませんねマルコス君。今日の内に撤去する事で如何ですか。」

「かしこまりました、市長」

彼は、市長の矛盾を指摘する様な情熱を、もはや持ち合わせていなかった。彼に情熱があった頃でも、説得の結果はいつも疲労と無力感が得られるだけだった。

記憶力が弱いと言うよりも、市長は昔の事を覚えておくつもりが全く無い様だった。それでいて決断だけは誰よりも早いのだから、次から次へと下される予想外の指示に、周囲の者達は常に振り回される事になった。憮然として指示を書き留めていた時、マルコスは何か不吉な事が起こったと感じた。市長がまた左手をあごに持っていくのが見えた。

「いや、まってくださいよマルコス君」市長の目はいつになく大きく見開かれていた。

「何か大勢の人が集まって来ていますよ。囲いだけにしてはえらく賑わっているではありませんか」

マルコスにも意外な事だった。慌てて指示を書き留めようとしていた手帳をめくりだした。

「ああ、はい。今朝に急ぎの申請が入っています。コンパニオンと称する団体が、ヘイブンで行う催しの臨時集会所としての使用を申請していました。」それにしてももの凄い人数だ。と中をのぞき込んだマルコスの顔が、途端に険しくなった。

「なんだあのステージは・・・建築の許可を出した覚えは無いぞ!申し訳ありません市長、すぐに撤去するよう指導いたします」

意外な言葉が駆け出しかけたマルコスを押しとどめた。

「そのまま!いやそのままにして置いてくださいマルコス君。いやー素晴らしい。素晴らしいではないですか。まさに季節は夏なんですよマルコス君!」

苛立ちを感じるよりも、彼は単純に驚きと当惑とを感じていた。市長の新たな決断にここで立ち会うとは、長らく補佐に倦んでいた彼も予想していなかった。

「一体どのようなお考えをお持ちなのですか、フィニガン(Finnigan)市長?」左手をあごにあてたまま、市長は笑みを作った。

「至急かねてより検討中だった、花火大会の計画を進めるのです。一週間の内にです。あの施設はそのまま接収して、大会設備にあてて下さい。ふっふ、はっはっはっはいやー素晴らしい!」


***************************************


ヘイブン市街から北西にやや歩いた所、その頃そこでは、もう一つの異なる思惑が生まれようとしていた。

「これね、これなのね、コンパニオンとやらが作っていた建物は」

身につけたその装飾品だけでも、ヘイブンで彼女を見間違える人はいないが、彼女の声を聞けば街の反対側にいながら彼女の企みを知る事が出来るだろう。

「整然と並んだ机!大きな指示ボードに・・・ああ何から何まであつらえた様にぴったりじゃないの!この施設を元に設備を整えればあいつとその取巻きなんか。ひと月もあればそうね・・・これなら、これなら勝てるわ。見てらっしゃい、学校の名前は何にしようかしら、ふふ、うふふふ、ホーッホッホッホ!」

屋敷の中で、駆け出しの冒険者達の相談に乗っていたウゼラーン(Uzeraan)にも、彼女の高笑いは届いていた。不安がる若者達に彼は肩をすくめて見せた。

「カーミラ(Carmela)め。また何かよからぬ事を考えついたかな。ヘイブンでの勢力を伸ばそうと何かと私につっかかってくるんだが。私の使命、いや大げさか。仕事の邪魔だけはしないで置いて欲しいな。ははっ」

彼女がその使命に立ちはだかる存在になる事は、彼も予測する事はできなかった。








5:27 2017/06/12

by horibaka | 2017-05-27 05:25 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ ファイアスティード

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ファイアスティード

投稿日:2002年7月18日

Anwyn Brenna
全シャード
ロード・オークス(Lord Oaks)は、私がヘイブンの無垢な若者達との生活へ入っていく為に、イルシェナーの森を離れてから、私を訪れる事が何度かあった。しかし、今回の彼の用向きは、かつて無い程の興味を掻き立てるものであった。彼はユニコーンをさらい、この世界の奥深い場所へと連れ去るデーモンの噂を聞いたというのだ。そこでは、それらのデーモンがユニコーンの角を切断し、熱と炎に曝し、そしてそれらを無感情にし、その血に火を注ぎ込んでいると言うのだ。そこで作り出されるのは、世界がかつて目にした事の無い生物であった。ファイアスティードである。

私はその連れ去られた獣を追い、ファイアダンジョンまで向かった。恐らく、過去にはそれらは多く存在したのだろうが、私に確認できたのは2頭だけであった。それらを捕らえたデーモンはどこにも見当たらなかったが、それらが近くにいるに違いなかった。間近にそれらを見ようと、私は注意深くその黄金の輝きを放つ馬に向かって近づいていった。近づくにつれて、それらの目に何かが映し出されているのに気が付いた。火の苦しみはその生物を狂気へと駆り立てていたのだが、それらはかつての知性を保持していたのだ。ユニコーンだった頃の尊厳が、これらの炎の生物達のどこかにあったのだ。今では荒々しく、他の事など省みない生物と成り果てていた。そして、私の調教スキルを以ってしてさえ、それらを制御できるか、私には見当がつかなかった。

しかしながら、私は数週間前に2本のスクロールをロード・オークスから受け取っていた。それは、私が以前までマスターしたと思っていた調教と動物学の更なる習得を可能にするという物であった。それ以来、そのスクロールを使いこなすべく、実に様々な動物に対してスキルを働きかけたが、今ほど私の新しい能力をテストする絶好の好機はあり得なかった。攻撃の兆候の動きを窺いつつ、私はファイアスティードに最接近した。ファイアスティードはすぐさまこちらへと振り向いて、火を噴き、私を酷くその火で苦しませた。その時点で、私にはこれが、私の調教の能力の試練のみならず、同時に、生き残りへの試練である事も分っていた。

少なくとも1時間、私は自身を頻繁に治癒しつつ、また、1回以上退却も考えながら、その獣と格闘した。そしてついに、彼は私に彼に優しく話し掛けるのに十分な位置にまで近づく事を許した。私は彼と同じくらい獰猛な生物を静めた言葉を囁いた。数分後、彼に触れてもいい位にまで近づく事を許してくれた。調教されたファイアスティードは驚くほど聡明で、私の命令に機敏に反応した。彼は私の強力な盟友となるだろう。その事から、彼をブレイズ(Blaze)と名付けた。

私はブレイズに跨り、2頭目のスティードの調教に取り掛かった。2頭同時に命令できるかは分らなかったが、最初と同じ位の注意を以って2頭目に近づいた。ブレイズを調教する時に多くを学んだとはいえ、この暴れ馬を調教する事はやはり同じ位に難しかった。再び、自分自身とブレイズとを治癒しながら、格闘は1時間近くに及んだ。が、ついに、私はその生物を調教する事が出来た。同時に2頭のファイアスティードを操る事は可能であった。ロード・オークスはこの知らせに非常な興味を示す事だろう。私はこの二頭目をインフェルノ(Inferno)と命名してついて来させた。ロード・オークスは直に彼らを見たがる事だろう。

丁度我々がファイアダンジョンの出口に差しかかった時、こちらに向かってくるデーモンの足音が聞こえてきた。そしてそれは、我々の行く道を塞いでいるのだと分かった。私はブレイズから降りて、そのデーモンを視界に捉えるまで待機した。それを視界に捉えてすぐに、ブレイズとインフェルノの両方にキル命令を出した。個別に其々のスティードと闘ったので、どういう闘い方をするのかは大体想像が出来た。だが、私は驚かされた。ブレイズとインフェルノは共同して勇猛果敢に、かつて彼らが受けた責め苦を越えるダメージを与えながらデーモンに立ち向った。私は他の動物でこの種の集団本能を見かけた事はあるが、ユニコーンや馬では初めて見る、とても興味深い光景だった。

同時に印象深かったのは、彼ら自身は呪文を発しないにも関らず、ブレイズとインフェルノの両方ともデーモンのぶつけてくる呪文に対する異常なまでに高い耐性を持っているように思われた事だ。そこで気が付いたのだが、インフェルノの持っている耐久力は、人間で言うとフルプレート装備に相当していた。一方で、ブレイズのそれはリングメイルに近いものがあった。この違いから、私はインフェルノより、ブレイズの方をより多く治癒した。しかし、それは本当に僅かな治癒を施すだけであったのだが。しかし、私の獣医学のスキルも、そのデーモンが毒殺の魔法をブレイズに放った時には、殆ど使い物にならなくなっていた。私の関心は完全にブレイズに奪われた。私がブレイズに気を取られている間に、インフェルノが最後の一撃をデーモンに向けて放った。そしてデーモンの体は地に沈んでいった。安心した私は、ブレイズへの介抱を素早く終わらせて再び跨った。そしてまたインフェルノを付き従えた。

森の支配者(Lord of the Forest)のいるイルシェナーへ向かおうとムーンゲートに向かっている時に、私が見つけ出したものについて改めて考えてみた。ファイアスティード、美しく、同時に凶暴なその存在は、彼らを調教できる者にとって頼りがいのある盟友になる事だろう。ロード・オークスはこの知らせを聞いて驚く事だろう。何と言っても、私は証拠も携えているのだから。ファイアダンジョンにはもっと多くのファイアスティードがいると思うが、また次の機会の為に残しておこうと思う。

「この広大な世界は何とも不思議な物を持っているものだ」

Anwyn Brenna
Dryad of Haven







7:28 2017/06/11

by horibaka | 2017-05-26 07:27 | その他 | Comments(0)
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エピローグ

投稿日:2002年6月3日


全シャード
夜明け光がユーの闇を洗い流す。古びた小屋が陽光に温められ、小さな軋み音を立てている。その向こう側には、かつてはがっちりと家を守っていた木の柵が、巨大生物の背骨の化石のように、列を乱し、一部分だけを見せて泥に埋まっていた。小屋自体は真っ直ぐに泥の中に沈みこんでいる。その形は、小さな生物が住む御殿のようだ。壁に貼りついたつる草は、この家をさらに深く泥の中に引きずり込もうとする骨ばった亡者の手に見えた。

ドーン(Dawn)は、人生の大半を過ごしてきた家の成れの果てを静かに見つめていた。両親を亡くした時の事は、まだ幼かったのでほとんど憶えていない。しかし、両親を失った時の悲しみは、深く心に刻み込まれている。すっかり変わり果ててはいるが、この場所にあった温かさと安らぎは、困惑した心の中に、今でも感じられる。おじいさんは、よく大きな焚き火をして、王様に仕えていた頃の冒険の話を聞かせてくれた。小屋の屋根は、どんな嵐の時でも、雨漏りひとつしなかった。庭で飼っていた羊は、オークを驚かせて追い払うのが上手だった。少なくとも、そうおじいさんは話してくれた。

彼女は、ジュカ(Juka)との戦争が終わったら、ここに帰ってきて普段の生活に戻ろうと決めていた。しかし、この小屋を修理して住めるようにするのは、かなり難しそうだ。

「お気の毒に。ここ、あなたのおうちだったんでしょ」背後から歩み寄りながらダーシャ(Dasha)が言った。

「ええ」ドーンの声は沈んでいた。彼女は身動きひとつしなかった。彼女の視線は、小屋のずっと向こうを見ているようだった。ダーシャは彼女の脇に立ち、家を観察した。

「私も家を失くしたわ」ダーシャは言った。「アドラナス(Adranath)とすべてのミーア(Meer)を救うために、私たちの故郷は、ずっと昔に消えて無くなったの。彼らは全員で大いなる眠りについて、夢の世界に移り住んだのよ。自分達の故郷はもうこの世に無い。でも、いつか新しい故郷が見つかる。そう納得できるようになるまでには、何百年も何千年もかかったわ」彼女はその場にしゃがみ込み、小さなキノコの群生を見つめた。「私は、時間を飛び越えて、ジュカと一緒にこの世界に連れてこらたの。だから、ほかのミーア達とは違って、故郷を失ったのは、私にはほんの数週間前の出来事なのよ」

ダーシャは立ち上がり、陽光の中を歩き始めた。「ジュカに破壊される前の私たちの国の森は、あなた方の世界のものとは比べようもないほど立派なものだったわ。見渡すかぎり梢が続く森の海。私は一番高い枝の上に立って、朝の風を体に浴びるのが好きだった。木の葉は優しい風に揺れて、太陽の光を反射させるの。まるで黄金のように輝いて。ご先祖様のお力が、世界を祝福して新しく生まれ変わらせているような、そんな感じを受けたものよ。その眺めほど感動的な光景を、私は見た事が無いわ。この世界はいつまでも決して変わらない。そんな大きな安心感を与えてくれる眺めだったわ」

ドーンは、泥に沈んだ家から目を離さず、悲しげに微笑んだ。「それに比べれば、私が失ったものなんて、大した事無いわね。小さな粗末な建物ひとつだけなんだから」

「たしかに」ダーシャな小屋を見つめながら言った。「大きさから言えば、あの大森林に比べて、この建物はずっと小さいし、単純なものかもしれないわ。この程度の建造物なら、建てようと思えば何日もかからないでしょう。新しい家は、いつでも手に入るわ」彼女はドーンに向き直った。「でも、あなたにとってのこの場所の意味は、私が森に対して持っていたものと同じよ。そうじゃなくて?」

ドーンはやっと小屋から目を離し、ダーシャの顔を見た。「これは……、私の全てだったの。私の家だったのよ」

「私たちは2人とも、自分の世界を失ったのね」

「ドーン!」アドラナスが近づきながら彼女に声をかけた。「すまない。すっかり待たせてしまって、ダーシャも、すまん。治療が効いた木の事を、もう一度確かめておきたくてな」

「それほど待ちませんでしたわ、アドラナス様」ドーンは自分の荷物の中に手を入れ、小さな袋を取り出した。「クレイニン(Clainin)から預かってきた植物の標本があります」

「ありがたい。よろしく伝えておいてくれ。それで、クレイニン君の研究の方は進んでいるのかね」

「何でもかんでも植物の標本を持ち込むものだから、彼の研究室では身動きが出来ないほどで」ドーンは答えた。「ずっと研究ばかりしているから、衛兵から食事をとるように注意されているぐらいです」

「よい結果が得られる事を願うばかりじゃ」アドラナスは、荒れ果てた光景を見回しながら、悲しそうな声で言った。「腐敗の呪文がこれほどの荒廃をもたらすとは、全く予測がつかなかった。この世界は、あまりにも長い間、強い悪気に冒されてきた。その中でもがき苦しんできた自然は、形が歪められて、腐敗を受け入れてしまう体質に変化してしまったのじゃ。出来る事なら、我等ミーア族は、もう一度、自然系魔法を勉強し直す必要がある。こんな恐ろしい事を、二度と起こさない為にな」

「あなたはジュカを止めようとしてくれたのです。ユーを救おうとなさった上での事です。アドラナス様」ドーンは言った。「誰もあなたを責めたりはしません。これからも、私達はずっと仲間です」

アドラナスは微笑んだ。「あなた方のような高潔で誠実な種族と同盟を組む事が出来て、ミーアは誇りに思っておりますぞ。さて、ワシはちょっと用事が……おや、なんじゃ。君達も感じるかね、この振動を」

ドーンとダーシャは互いに顔を見合わせて、首を横に振った。

「どんな振動ですか」ドーンが訊ねた。

「足元の地中で何かが低く唸っているような感じじゃ」アドラナスは足元を見た。「おそらく、大地が腐敗の影響から解放されて、安定に向かいつつあるのじゃろう。ともかく、ワシは行かねばならん。ドーン、いろいろとありがとう」

「私のほうこそ、ありがとうございました、アドラナス様」ドーンは答えた。

「ダーシャ、それじゃ、行こうか」アドラナスはダーシャに出発を促した。

「すぐに参りますわ、先生。その前に、もう少しドーンと話しておきたい事がありますので」ダーシャは言った。

「よかろう。それでは、またな、ドーン」アドラナスは微笑み、ムーンゲートの中へ歩いていった。

「さようなら」ドーンも別れの挨拶を贈った。

ダーシャは朝の光を浴びて、ゆっくりと歩きながら言った。「この短い時間で、みごとに腐敗を食い止めたあなた方の技術には、感心するばかりよ」

「危機を目の前にして、みんながひとつになれたからだわ」ドーンが答えた。

「それよ。さっきも言ったけど、私達はどちらも自分の世界を失った。もう二度と、あの世界は戻らないわ。だけど、あなた方が必死になってこの世界を救ったり腐敗を治療する姿を見ているうちに、私もここで、新しい自分の世界を発見出来るって思えるようになったの。きっと、あなたも」

ドーンはダーシャに微笑み、ミーア式握手だとドーンが気付き始めたあの方法で、2人は手を握り合った。2人は互いにさよならを言い、それぞれの道へ分かれていった。互いに、未来への確信を抱きながら。






「エクソダス!」

壁を震わさんばかりのブラックソンの怒号が部屋に響いた。ほとんど叫びに近い、喉が潰れるほどの大声で、彼はエクソダスを呼び出そうとした。ジュカと竜騎兵の撤退を知らされたブラックソンは、エクソダスから説明を聞く為に駆けつけたのだが、もうあの不気味な相棒の気配は無かった。

部屋の重い扉を押し開け、ケイバーが静かに入ってきた。ブラックソンは振り返り、そのジュカ戦士の巨体を大きな鋼鉄の爪で指差し、言った。「何処へ行っていた!撤退の理由を今すぐ説明しろ、この汚らしい豚野郎!エクソダスは何処だ。何故返事をせん!」

「存じません。ブラックソン閣下。自分はただ……命令に従ったまでで」ケイバーは、石のように固い表情の下で、ブラックソンが取り乱す姿にほくそ笑んでいた。

「命令に従っただと?エクソダスが貴様に命令したのか?はいはいと素直に聞き入れたわけではあるまいな。今すぐ説明しろ。これは命令だ、ケイバー!」ブラックソンの機械化されたほうの目玉が、激しい怒りにぎらぎらと光った。

ケイバーは体を硬直させて答えた。「ただ命令に従ったまでです」

「ケダモノの分際で、オレを怒らせたいのか!」ブラックソンは大きな鉄の爪を装着した腕を頭上に振り上げ、重厚な作戦用テーブルの上に力任せに振り下ろした。埃が舞い上がり、テーブルの破片が辺りに飛び散った。その瞬間、ブラックソンの顔から怒りの表情が消え、凍りついた。

ケイバーはブラックソンの表情を読み取ろうとしたが、人間の顔は見慣れていない為、よく判らなかった。顔の一部が機械化されている事も、表情をさらに読みにくくする一因になっていた。困った事になったのか、恐ろしい事でも思い出したのか、せいぜい苦しむがよい、とケイバーは願った。激しい怒りが、ブラックソンの機械の体に、何か仰天するようなものをもたらしたのだ。

「下がれ、今すぐだ!」ブラックソンは唸るように言った。

ケイバーはきびすを返すと、静かに部屋から退出し、後ろ手に扉を閉めた。扉が閉まるや、彼は表情を崩し、冷たい笑いを満面に浮かべた。








8:37 2017/06/10

by horibaka | 2017-05-25 08:36 | その他 | Comments(0)
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蔓延する絶望

投稿日:2002年5月18日


全シャード
アドラナス(Adranath)は、すでに湿地と化したユーの泥の中へ足を滑らせた。周囲には、脈打つような腐敗の毒気が自分自身をも貪りながら、ゆっくりと、しかし手当たり次第に生命を飲み込んで行く様子が肌で感じられた。身の毛もよだつようなその強い感覚は、自然の力を操る者にとれば、感じ取ろうと精神を集中させるまでもなく否応なく伝わってくる。その地域一帯には、重苦しい砂埃のように疫病の胞子が舞っていた。歩くと、体の周りの空気が渦巻くのが見えた。アドラナスはクレイニン(Clainin)の研究所を思い出した。そこには、何百という書類や古書が整然と書棚に並んでいたが、どれも塵ひとつ被っていなかった。

長い時間をかけて、彼はようやく目的地に到達した。そこには天を突くような瘤(こぶ)だらけの大木が、病に冒された黒い枝を四方に広げて立っていた。全体が腐った灰色の木肌に覆われ、枝のあちらこちらに口を開けた大きな虚(うろ)からは、得体の知れない緑色の光が漏れている。その根元には、ぶくぶくと泡立つ汚泥が静かに流れ、胞子嚢(ほうしのう)からは、風に乗り、ゆっくりと胞子が流れ出ていた。

アドラナス観察人は、小さな巾着袋を開くと同時に激しい咳の発作に襲われた。発作はあまりに激しく、そのまま体が動かなくなってしまうほどだった。この付近の同じ病に冒された商店主たちが、彼ほど重症に陥っていなければよいがと祈ったが、同時に、それがいかに虫の良い願いである事かをアドラナスは知っていた。

ひとつひとつ、彼は巾着袋から何かを取り出し、朽ちかけた大木の根元の、不気味な粘液を満たした穴に投げ込んだ。木はそれを貪るように吸収した。最後のひとつを袋から取り出すと、彼はそれをまじまじと見つめた。皮肉だ、と彼は思った。この災いから生まれた怪物が、その穢れた土地を癒す元になろうとは。すでに、あの怪物を一匹だって相手にできないほど力が弱くなっているアドラナスは、何匹もの怪物に対処してくれたクレイニンの力添えに感謝した。彼は手の中のそれを見つめ、静かに祈った。結果を出すために十分な数の怪物が捕まる事を。

仕上げに、彼は最後のひとつを木の穴に投げ入れ、同じように素早く吸収されてゆく様子を見守った。少しすると、木からかすかな振動が伝わってきた。木の腐敗が止まり毒気が弱まる感触が、体の内側から湧き上がってきた。目を閉じれば、今投げ入れた薬の効能を、木自身がなんとか取り込もうと戦っている様子が伺える。彼は確かな手ごたえを感じた。治療が効いたのだ。

またしても咳の発作で体の自由を奪われたアドラナスは、木から少しあとずさった。これで方針が決まった。だが、今この木に与えた薬の効果は微々たるものだ。この土地全体を完全に治療するには、相当な量の薬が必要になる。

一陣の風が沼の水面をかすめ、病んだ大木から放出される胞子が雲のように周囲に充満した。腐敗の進行は、どうにか食い止める事ができたが、治療を急がなければ、ユーは草一本生えない死の世界になってしまう。アドラナスはローブの下に手を入れ、クレイニンから預かった小さなコミュニケーションクリスタルを取り出した。それには、彼らの最後の望みを託されていた。あの言葉を遠くまで、そして素早く届ける事ができれば、手遅れになる前に、この土地を救う事ができるのだ。








6:08 2017/06/09

by horibaka | 2017-05-24 06:07 | その他 | Comments(0)
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その後のUMA調査隊

投稿日:2002年5月12日

Cheryl Brown
Mizuho
UMA調査隊代表の真の顔はUMAの力を吸収し、凶悪な進化を遂げた魔術師だった・・・ということは賢明な読者諸君はとっくにご存知のことだろう。この私、Cheryl Brownは代表との決戦で倒れ、今回復の途上にある。しかしあの悪夢について詳しく語るのはやめておこう。過去ではなく、現在のことを語るのがBNN記者としての私の役割なのだ。

代表が調査員と協力者達によって倒された後、組織の頭を失ったUMA調査隊は解散することになった。多くの人々が別れを告げる中、調査員達はそれぞれの道を歩んでいった。私は彼らの後を追ってみることにした。

本の好きな最年長の調査員はLycaeumで難解そうな本を読んでいた。彼は「私は冒険をやめるつもりはない。今は次へ向けての準備段階といったところだ」と言っていた。新しいUMAを見つけるために情報を集めているらしい。彼は今書きかけているというUMAについての本を少し読ませてくれた。いつの日かこの本もLycaeumに所蔵される日が来るのだろう。

年若い男性の調査員の家を訪ねると、彼は花束を抱えて家から出てくるところだった。同行の許可が下りたので追ってみると、彼の向かったのはMoonglow Royal Zooだった。「あいつには、Yewの花畑を見せてやれなかったからな」そして彼はそっと戦友の墓に花束と宝石を添えた。

うら若い女性の調査員はEvil Orc Helmで素顔を隠したまま、早朝のThe Blue Boarでケーキを頬張っていた。早朝が一番人が少なくて良いのだそうだ。最近は動物園でアルバイトをしているのだが、たまに観光客の鞄を覗いたりもすると照れ笑いをしながら語ってくれた。お金が貯まると休みをとってダンジョンへ行き、モンスターに突撃して骨になって来るのだという話を聞いていた時・・・。

「ここにいたのか!やれやれだぜ!」年若い男性の調査員が駆けこんできた。「新しいUMAを見たと報告してくれた人がいるのだ。まさに、棚からヒールポーションだな」最年長の調査員が遅れてやってきた。どうやら新しいUMAの発見報告があったらしい。今度はどこへ?と問いかけるとIlshenarだと彼らは微笑んだ。同じ色のBody Sashを身につけ、調査員達はそのまま早朝のBritainを旅立った。Ilshenarへ諸君が出かけたなら、彼らに会うことがあるかもしれない。その時はまた肩を並べて戦うこともあるだろう。彼らの前途に祝福あれ!








5:25 2017/06/08

by horibaka | 2017-05-23 05:24 | その他 | Comments(0)