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BNNアーカイブ 復讐

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復讐

投稿日:2002年1月7日


全シャード
ミーア(Meer)の軍隊が第二の夜明けのように光り輝きながら、ジュカ(Juka)の都市を見下ろす形で現れた。山の頂上を幾つも越えて、彼らは目映い魔法の後光を纏いながら、複雑に入り組んだこの土地まで膨大な数で静かに、そして確実にやって来た。隆起線から彼らは眼下にある谷を覗った。そこには巨大な要塞に囲まれたグレーの屋根が幾つも見えた。ミーアの集団の輝きの中で、それらの建物は随分と小さく見えた。吹く風は、この夜行性の侵略者に萎縮し、その谷を陰気で静粛な物へと変えた。

しかし、暗黒の軍隊も又、山脈の基地へと集結していた。軍勢に於いてジュカはミーアの六倍あり、それが険しく、高くそびえ立った崖を通る山道に押し寄せながら、都市と斜面との間にある平地に集結していた。無数の盾と槍は戦闘準備を完了していた。カタパルトが弓矢部隊の中心に据えられた。軍旗がジュカの戦いへの飢えの証として、朝日の中で誇らしげに輝いた。

谷の静粛さは、ジュカの軍が囁き、声を出し、そして攻撃開始の前に躊躇っている臆病なミーアに対する苛立ちの怒声をあげるにつれて消え去っていった。

ダーシャ(Dasha)は頂上から、彼らの戦闘意欲の旺盛さに薄笑いを浮かべた。ジュカはその生来の野蛮な性質を越える理由で戦いをした事などなかった。彼らの熱意は子供っぽさと言う点に於いて惹きつけるものがある。しかし、子供と同じで、彼らはその敵を自分達が作り出した事を理解しないのだった。ミーアは光り輝く嵐のようにして彼らを悩ます事になるであろう。復讐は満足をもたらすであろう。同様に陰鬱な気分ももたらすであろう。彼女は罪の無いジュカの死を嘆く事になるであろう。しかし、彼らはミーアからより大切な何かを奪ったのだ。彼らは自分達自身に嵐を呼び込んだのだ。

彼らは黒幕の手先であるに過ぎなく、彼ら種族の滅亡を意味しない事をダーシャは祈った。エクソダス(Exodus)こそミーアの真の敵だった。今日、彼女はそれを戦火の中で証明するつもりだった。

彼女はジュカが戦闘配置についた事を確認すると、腕を上げ呪文を放った。金色の光線が空に撃ち込まれた。それは、ミーアの第一陣への合図だった。

永きに渡り山々はミーアの本当の親友として数え入れられてきた。天上の先祖達は他の世界からは隠された水晶の秘密を共有してきたのだ。ジュカがダーシャの故郷である森を破壊した時、歓迎してくれる大地の下へ避難したのだった。そして今、彼らはその古代からの同盟をもう一度求めた。山々は岩の唸りを以ってそれに応えた。

崖が揺れた時、ジュカは静まり返った。そして、巨大な厚い岩の板が山道の上の方で崩れる音がした。巨岩や瓦礫が頭上に打ちつけられる。彼らは引く潮のように逃げた。巨大な岩の柱が山の側面から剥がれ落ち、雷鳴のハンマーのように崩れ落ちた。土埃の雲がジュカを包み込み、その攻撃はこだまの中へと消えていった。

彼女はその土埃が納まるまで静かに見ていた。ジュカの軍勢が地滑りの後の隅に集まった。その数は四分の一ほど削られていた。

猛烈な怒りと共に、彼らは再びミーアに挑むべく向かって来た。

攻撃の第二波は最初のそれよりも大きな物になった。大地はジュカの足元でそれが隆起する度に大きな音を立てた。崖も崩壊の音をたてていた。一瞬にして地震が巨大な池の波紋の様に谷底全体を揺るがした。深い裂け目が大地を切り裂き、ジュカやその建物を飲み込んだ。都市の断片は埃と瓦礫の渦の中へ消えていった。ジュカの編隊の遺物は混沌と死の中にまき散らかされていた。

そして、崩れた大地の裂け目から、谷間中を満たしていく多くの黒い雲が吹き出した。余りの自らの有利さに、ダーシャはたじろぐ程だった。今までの攻撃の中で最も凄惨なものだった。長老達は針を持つ昆虫の群れを召喚した。その毒液は毒矢の様な効力を発揮した。それらもまた森から避難してきた者であり、それ故に怒りも倍して凄まじいものだった。ダーシャはジュカが一人としてそれらの怒りから逃れる事は出来ないと知った。

彼女は廃墟となった街から叫び声や煙がたち上がって来た時、目を閉じた。

しかし、彼女は深呼吸をして心構えを新たにした。ジュカの街に進軍し、その朝の仕事を終わらせる時がやって来たのだ。都市とその砦はすぐに陥落するであろう。彼女がその巨大な要塞に目を遣った時、要塞の壁に殆どダメージがない事に気が付いた。呪術が地震からそれを守った事は明らかだった。目を細め、彼女は思った。そこに居るのだな、エクソダス。

彼女の周りでは、ミーアの軍勢が山の斜面を駆け降りていた。彼らの歩みはとても静かな物だったので、不安定な足場も危険ではなかった。高く積まれた瓦礫の傾斜の向こうから、荒涼とした戦場への侵入路を作りながら地滑りが起った。戦士の使う魔法の輝きが谷全体を魔法の輝きに浸した。昆虫の軍勢もやって来る光にたじろいだ。

血まみれで混乱をきたし、毒に侵され破滅寸前のジュカの戦士達は侵略者達を不屈の獰猛さで迎えた。両軍が戦争の叫びの混沌とした中で衝突した。その一日が終わる前に大地はより多くの血に浸される事になるであろう。

しかし、ダーシャは仲間の前進に加わらなかった。彼らの目的は都市の中心に至る道を確保する事だった。一旦それが完了すれば、長老達が谷に入り、とどめの一撃を放つであろう。師アドラナス(Adranath)はジュカの敗北を決定づける古代の儀式を準備していた。それが実行されればミーアへの脅威は終わるだろうと、年老いた魔術師は請負った。

ダーシャはアドラナスが考えるよりも、ジュカに希望を持っていた。彼女はどうしてもジュカが永遠に葬り去られる事を望んではいなかった。少し前に彼女は、彼が岩だなから戦いを見ている時に、彼女のその申し立てをその魔術師の前で明らかにした。一礼し、彼女は小さな声で言った。『敬愛する我が師よ、お願いです。私がエクソダスに辿り着くまで、あなたの呪文を延期してください。もし、我々が奴の影響を取り除く事が出来れば、私はジュカが彼らの正しい役割に立ち返ると確信を持っています。』

その老人はうめくように呟いた。『今日、ジュカの終焉を目撃する事になるじゃろう。』

『彼らは既に罰されています。自らを癒し省みる為、エクソダスの支配から解放されるには十分な程だと思います。種族間の均衡は・・・』

『我々は多くの民を失った!古からの均衡はその存在を終えたのじゃ。残ったのは復讐だけじゃ。』

彼女は声の調子を下げ言った。『恐れながら、私は絶対に同意できません。』

アドラナスは顔をしかめ、それは彼女に冷水を浴びせた。『お前の目がお前の先入観を物語っておる。私の思考は乱れ、年齢が私の智慧を奪ってしまったと思っているのじゃろう。しかしな、キャプテン・ダーシャよ、私に年を経る事の理と言う物を語らせてくれ。智慧と言う物は経験の産物じゃ。智慧は変化の必然性を重んじる。しかし、若者は築き上げられた秩序や習慣しか知らず、それ故お前は変化を受け入れる事を躊躇っておるのじゃ。これこそ、若い者が転生の輪に取り込まれてしまう理由なのじゃ。お前の魂はまだ、自身に恃むだけの自信は持ち合わせていないのじゃ。』彼は否定を表す様に溜め息をつき、彼女を見つめた。『過去への執着を捨てよ。ジュカはかつてのジュカではない。我々もまた然り。今、古の秩序は終わるのじゃ。』

彼女は己の確信は捨てていなかったが、その年老いた魔術師に何も言えなかった。ジュカは望みが無い状態ではない。もし、彼女が単に若輩で頑固なだけならば、先祖達は彼女を然るべく評価したに違いない。彼女はアドラナスの凝視に耐え得る力を呼び起こし、言った。『何か他の命令をなさらないのであれば、私はエクソダスの下へ参ります。もしアドラナス様が呪文を唱える前でなければならないなら、どうか私の思う様にやらせて下さい。』

そのグレーの獣毛を身に纏った長老は耳を細かに動かした。そして、眉をひそめて呟いた。『我が子よ、為さねばならぬ事を為すが良い。お前の魂の行く道は実に悲しいものとなるであろう。お前は、いつかは偉大なリーダーとなったじゃろうに。』

『やがてはそうなりましょう、我が師よ。』

アドラナスは重々しい表情で彼女の強気な言葉を無視した。ダーシャは高尚な先祖達に祈りながら山腹を駆け下りた。:彼の地に根差した魂は憂鬱さに支配されてしまいました。ですから、師アドラナスを貴方達の列にすぐにでもお迎えください。来世において、クリスタルの尖塔が彼の活力を回復できるかも知れません。

彼女は傾斜地にある基地で、五十人ほどのジュカ戦士の一団に出くわした。彼女はジュカの都市が1時間前にそうだったような騒々しい恐怖の中へと彼らを叩き込んだ。大地は所々隆起し、亀裂が入り、建物は燃えながら倒壊し、刺の立った昆虫の被害者は腫れ上がるその痛みに泣き叫んでいた。それでもジュカの戦士は戦い続けた。彼女の遭遇した戦いは、速く、残忍な物だった。彼女が要塞の壁に到着する前に、彼女の通ってきた道には二百人のジュカ戦士が動かぬ者となって横たわっていた。彼女の仲間の一団も同様に倒れていった。

それらの前に巨大な要塞がぼんやりと見えてきた。その石垣はその日の悲惨な出来事の面影を殆ど残していなかった。彼女はその高い壁を上る為に戦士を集めた。彼らの魔法は胸壁の守備に就いているジュカの矢を振り払いながら、戦乱の煙の中で今だ光り輝いていた。ミーアが登り始めると、他の光が出現した。ダーシャはその呪文が何なのか解らなかった。エクソダスよ彼女はにやりと笑った。その中だな!だが、何を仕掛けている?その光は谷全体を包み込むかの様だった。彼女は背骨に何かが刺すような痛みを感じ、その魔法がもたらすかも知れない効果に身構えた。谷が光り輝いているのではなかった。彼女だった。その呪文は直接ダーシャに向けられたのだった。

そしてしばらく経って、彼女は要塞の中ではないかと思われる部屋の中に立っていた。ジュカ戦士の輪が、槍で彼女を床の中心に閉じ込めながら、彼女を取り囲んでいた。彼らはその中にいる最大の戦士を除いては、地震や昆虫の被害を受けている様には見えなかった。ウォーロード・ケイバー(Warlord Kabur)は前線からここに戻って来たに違いなかった。彼の鎧は地滑りの土埃から色褪せていた。彼のエメラルドの肌は怒りの刺激からかつての色彩を欠いていた。血が彼の強健な体格を彩っていた。ダーシャはそれがジュカの血でない事を知っていた。

『ここまでやって来るとは気でも狂ったのであろうな。』その巨大戦士は怒鳴るように言った。

『お前の名誉の為にここにいるのだ。』彼女は応えた。『お前が洞窟で私に武器を残していっただろう。お前が私に命を与えてくれた事には感謝する。それに、おまえがこの部屋へ私を引き込む魔法を放ったのではない。お前の主人エクソダスはどこだ?用があるのは彼だ。』

『私はここにいるぞ。』重厚な声が轟いた。それは奥の部屋の影から聞こえてきた。ダーシャは数個のジェムストーンの火花を除いて、その暗闇の中を覗う事は出来なかった。『非礼な招待をお詫びする、キャプテン・ダーシャよ。しかしどうも今日は忙しくてな。』

『お前はきっと私がここに来た理由を知っているであろう。お前がジュカを侵食した。私は我々と、そしてジュカとの間の古からの均衡を回復させるつもりだ。』

『ふむ、お前はジュカを救わねばならぬのであろうが、お前の欲している標的は私ではないぞ。お前の師であるアドラナスの手によって空前絶後の裏切りが進行中なのだぞ。彼も同様に均衡の回復を希求している。彼が実行しようとしている儀式は、イルシェナーからジュカを消し去るであろう。そしてキャプテン・ダーシャよ、ミーアもそれと同じく滅びるのだ。アドラナスは双方の種族にとっての忘却と言う安定を求めているのだ。我々全てにとって時間と言うものは短いものだな。』

彼女は、エクソダスがアドラナスの絶望の本質を言い当てたので、彼が真実を語っていると思った。そして今、知識の師の言葉を理解した。残されたのは復讐あるのみじゃ。彼女は体全体が凍りつくような狼狽に襲われた。老魔術師は本当に気が変になっていたのだ。そして、彼女が彼を止められる唯一のミーアだった。

彼女の口調は鋭く低かった。『畜生、魔術師め、こんな事を押し付けやがって!だけど私には助けが要るんだ。来い、ウォーロード・ケイバー。ミーアの長老に立ち向かう勇気があればの話だがな。』

そのジュカはしかめ面と笑い顔との間で態度を決めかねているように思えたが、彼は略式の礼を以って血のついた槍を手にとり応えた。









8:03 2017/05/27

by horibaka | 2017-05-11 08:02 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 野獣

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野獣

投稿日:2001年12月24日


全シャード
心の中で声がした。起きよ、大地の子よ。その時が来た。

ダーシャ(Dasha)を再び立ち上がらせようとする先祖の声である事は分かっていた。だが、傷の酷さは全く動けない状態である事を示していた。彼女は忘れ去られた洞窟の床の上で、闇に住む捕食者に飲み込まれようとしている、無抵抗な餌として横たわっているだけだった。巨大な獣が、すぐ近くで舌なめずりをしているのが分かる。

彼女が目を開けると、蝋燭の火が暖かな金色に輝いていた。その火は、鏡の様に光る鱗に反射して、より輝きを増していた。その光が鋸の様に並んだ二列の歯に反射する。これこそ、不名誉と言う悲劇に侵された種族の偉大な戦士である、ウォーロード・ケイバー(Warlord Kabur)の言う彼女の運命だった。ジュカ(Juka)は再び、野蛮に身を落としたのだ。彼女の嫌悪は、その獣の不快な息を聞く度に増していき、心の中で燻っていった。

妄想はお前を救いはせぬ、と心の中で声がした。

それはケイバーが去った時の、最後の言葉だった。

その獣は闇の中から大きな音を立てて近づいて来る。その背は低く、巨大で、その尾を引きずり、爪で洞窟の石の床を引掻いていた。ダーシャの体は硬直した。力は残されていなかった。彼女は自分をヒール出来る状態ではなく、戦える状態でもなく、弱りきっていた。だが、その場から逃げ出すくらいの力は残されている様だった。獣の住処の中で、彼女はこのまま死ぬ事と感じていたのだが、ほんの僅かではあるが、希望が見えてきた。先祖達が彼女に生きる為の少しの時間を与えたのだ。彼女はその贈り物に感謝した。

彼女は立ち上がる為に、手を床につきながら体を起こした。そのモンスターは驚いて暗がりに一歩退き、蒸気のような蒸し暑い息を吐き出した。ダーシャは何とか起き上がり、半分屈み込む様な姿勢で立ち上がった。モンスターの背後に出口の光が見える。脱出できるかどうかは、彼女の最初の動き一つにかかっていた。

彼女の後ろで何かが炎に照らして光った。後ろを振り向くと、瓦礫に長尺の武器が横たわっていた。それはケイバーのハルバードだった。彼女の血がその鋼鉄の刃に付いていた。

あのジュカが、彼女が身を守れる様に武器を残しておいたのだ。

心臓の鼓動が高鳴った。彼女には素手で戦うだけの力は残されていなかったが、ハルバードは、その爬虫類を退ける可能性をもたらした。一歩下がり、その矛を手に入れた。モンスターは大きく口を開け、腹這いに進み、悪臭を放つ警戒音は攻撃の意志を示している。ダーシャはハルバードの柄を手に取り、その重量を確かめ、獣の細長い舌に向け一撃を放った。耳を打つような物凄い唸り声が、洞窟に響き渡った。

その長い胴体の生物を飛び越えようとしてつまずいた。固い尾が彼女に向けて打ちつけられる。ダーシャはひざまずき、ハルバードの必死の打撃でその肉を裂いた。獣は唸り声をあげながら、辺りをぐるぐると回っていた。ダーシャはハルバードの尖端を爬虫類の口に突き刺し、外皮より柔らかいその肉を切り裂いた。彼女は最後の力を振り絞ってハルバードをより奥へと押し込んだ。ダーシャはとびすさった。モンスターは彼女の後ろでのたうち回っていた。

傷の痛みは始終彼女をふらつかせた。暗闇の中を、彼女は前方にある出口めがけ、手探りしながら進んでいった。捕食者が追って来なくなった時、歩調を緩めはしなかったものの、彼女に安堵の感がどっと押し寄せた。ただ一つの考えが彼女の心に浮かぶ:ケイバーは私を殺そうと置き去りにしたのではない。私が間違っている事を分からせる為、生かしておいたのだ。奴の中に名誉がまだ残されている事は分かったが、あの狡猾な蛇め!

彼女は、全ての方向の感覚が無くなるまで、岩に囲まれた薄暗がりの中を前へ前へとよろめきながら進んで行った。すると、黒い石が光が瞬くクリスタルに変わったかと思うと、ミーア(Meer)のヒーラー達に抱えられていた。彼らはダーシャを、行く場所を失ったミーア達が避難した山間の窪地、遠い昔先祖達の住んだ、澄みきった奥地へと連れて来たのだった。光り輝くホールの中で、ヒーラー達は彼女の傷を治療した。そして彼女を師アドラナス(Adranath)のいるエメラルドの謁見室へと案内した。ダーシャはその場で、大賢の魔術師に自分の体験を詳しく報告し、彼は憂いに沈む溜息で答えた。『ジュカが名誉を知ると?それはさして重要な事ではない、我が子よ。奴らの主人エクソダス(Exodus)は、覆しがたい、致命的な嵐をイルシェナー中に吹かせたのだ。人々は途方に暮れ、冬は間近だ。我々はジュカに罪を償わせるべく、奴らを打ち倒さねばならんのだ。』

『しかしながら、我が主よ、彼らは全く救いが無い訳でもありません。以前より野蛮の度を増しはしましたが、それ程酷くもありません。エクソダスが道を誤らせているのです。エクソダスを屠り、ジュカを元の状態に立ち戻らせましょう。古代からのバランスを過去の物にしてしまう必要はありません。』

『ダーシャよ、お前が実行責任者だ。すべきと思う様に為すが良い。ただ、我々の呪文と兵は準備が出来ている。明日、我らの敵はいにしえの秩序を見くびった代価が如何なるものか知る事になろう。』

クリスタルと炎の瞬くこの神殿では、朝日がかき消されていた。彼女は殆どの時間、復讐に飢えた装甲兵達の軍勢を見て歩き、兵達と過ごした。これ程までに巨大に組織されたミーア軍を見るのは初めてだった。行動開始となった時、彼らは完璧な統率の内に進み始めた。魔法が彼らを包み、星の如く輝いた。ミーア軍の見事な姿に、彼女の心はどす黒い喜びで満たされた。全くの所、戦闘が始まったなら、ジュカ達は彼らの行いを後悔する事になるだあろう。

それでも、ジュカが真の敵なのではない。彼女の先祖達それこそが、彼女にそう学びとらせた。エクソダスと呼ばれるものが世界にこの悪夢をもたらし、そして奴こそダーシャが真の敵と考えている存在だった。ミーア軍が出陣する時、ダーシャは彼女の不満の思いをジュカの謎多き主の下までもたらすだろう。その時恐らく、真の正義がこの混沌の中から生まれるだろう。そしてその時恐らく、彼女の心の中で未だ燻り火花を散らす残り火が鎮まる事だろう。








10:02 2017/05/26

by horibaka | 2017-05-10 10:01 | その他 | Comments(0)
哭きの竜




2017年5月9日(火)










          ◆ 桜シャード ◆




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23:44 2017/05/11

by horibaka | 2017-05-09 23:42 | 桜日記 | Comments(0)
ときには星の下で眠る




2017年5月9日(火)





          ◆ 桜シャード ◆



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23:39 2017/05/09

by horibaka | 2017-05-09 23:40 | 桜日記 | Comments(0)
BNNアーカイブ 闇の激突

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闇の激突

投稿日:2001年12月15日


全シャード
真鍮色に輝く蝋燭の灯火に囲まれて、そのミーア(Meer)とジュカ(Juka)は動物的な激情の叫びを上げながら、激しく戦っていた。怒り狂う戦いの音のみが、忘れ去られた洞窟の濃密な暗闇にこだました。

ミーアの伝統に則ってダーシャ(Dasha)はケイバー(Kabur)に素手で対峙した。情け容赦ない打撃の連続でそのウォーロードを突き砕き、雹の嵐の様に彼をなぎ倒した。その衝撃が洞窟の暗闇に反響する。強烈なキックを浴びせる度に、腹の中の怒りがどんどん込み上げて来た。パンチを浴びせる度に、ケイバーが破壊した故郷の凄惨さを思い起こした。アドレナリンの刺激が感じられて、彼女はジュカの血の強い匂いを振り払った。戦闘の衝撃が彼女の体を貫いて行く。それが繰り返される度に、彼女の中で復讐への渇望を満たす、本能的で魅惑的な感覚が育っていった。

彼女は心の何処かで祈った。『ご先祖様、未熟な私をお許し下さい!』

しかし、ウォーロードの装甲は、まるでミーア独特の攻撃に備えてデザインされているかの様に、彼女の攻撃を撥ねつけた。彼女が彼の兵士達を倒したような、ジュカの弱点を狙った攻撃も功を奏さなかった。彼の強固な体は、いとも簡単に彼女の攻撃を吸収した。お返しと言わんばかりに、彼は素早く熟練した手捌きでハルバードを振りまわすのだった。彼女はそのハルバードの必殺の一振りを、テラサンがオフィーディアンの攻撃をかわすかの様に、ギリギリのところで避けた。途切れない攻撃は彼女の俊敏さを要求した。たった一つのミスでその戦いは終わるところだった。

立ち位置を間違えたと思った瞬間、全身に寒気が走った。

ハルバードの刃が彼女の背中に向かってくる。彼女は弧を描くように跳び避けたが、尻に深手を受けた。そのジュカ戦士から離れる為、宙返りをする途中でケイバーの顔を片足で蹴りつけた。彼女は岩の多い地面に倒れこみ、そしてうずくまった。体の右側に激痛が走る。

ケイバーは血反吐を吐き、息継ぎをして吼えるようにして言った。『洞窟の出口はどこなんだ!?』

ダーシャは辛うじて目を開けながら言った。『デュエルを放棄するのか?』

『あと一撃もあればお前は終わりだ。そんな事より、この暗闇をさまよって時間を無駄にしてはおれんのだ。』

彼女は不平がましく埃を振り払い立ち上がった。呪文の柔かな光りが彼女の傷から痛みを消し去って行く。ヒールの魔法特有の、微かな刺激が全身を駆け抜けた。その少しの間に先祖の魂は、抑えきれない怒りの衝動を鎮めてくれるのであった。突然訪れた冷静さの中で、彼女は今一度ウォーロード・ケイバーを見つめた。全身に汗と血が流れていた為、彼は金色の蝋燭の灯火の揺らめきの中で、何かの化物のようにも見えたし、同時に巨大で底の知れない、何物にも屈しないと言うような尊大さも垣間見えた。彼が犯した罪にも関わらず、ダーシャは彼の戦士としての自尊心に感服した。ジュカは粗暴な生物ではあったが、彼らの性格は誇り高く、高潔な物であった。そのような性格により、彼らは原始的な起源を超え、高度に発達した技術や工業を発展させる事が出来たのだ。勿論、彼らはミーアとは全く異質のものだが、ダーシャのように一部のミーアは、彼らの知的な素養の真価を理解していた。ジュカはミーアとこの世界を分け合いながら、その高度な文明を形成した。

その種族間の古代からの均衡は脆くも崩れ去った。邪悪な何かがジュカを誇り無き姿へと引きずり込んだのだ。ミーアの知識の長であった師アドラナス(Adranath)は、不可解な魔術師エクソダス(Exodus)がここ10年の間にジュカを蝕んだのだと主張していた。ダーシャもその劇的な変化はエクソダスの呪法によってのみ説明できると思った。彼女はジュカのミーアに対する熾烈な攻撃への報復を練る為に、ウォーロード・ケイバーから直接、その変化がどのようにして起ったのか問い質す為にここまでやって来たのだ。

彼女は込み上げる怒りを飲み込み、呼吸を落ち着かせて言った。『教えてくれケイバーよ。エクソダスはどのようにしてジュカの営みを葬ったのだ。』

彼はハルバードを振り下ろし、苦い顔をして言った。『ミーアの知った事ではない。』

『お前の新しい主人は、お前達を奴隷にしてしまうような呪文を掛けたのか?それ以外、ジュカと誇りとを切り離す手立てなど無いはずだ。』

『ジュカの誇りは未だ存在する!尤も、エクソダス様がいらして若干変わりはしたがな。』嘲りさえ含ませて、彼は目を細めた。『お前達の種族には革命という考えが無いのだろう?お前達には歴史が不動のものだと思っている節があるな。』

彼女は苦々しく笑みを浮かべた。『ブラック・デュエル(Black Duel)を待ち伏せの罠に使っておきながら、よくそんな事が言えるな。』

『お前が個人的な会話の道具としようとしたのと同じ事だ。ブラック・デュエルは廃れた。もはや原始時代の遺物なのだ。お前の知るやり方は滅んだのだ。共に間もなく、ミーアも終焉を迎えるのだ。』

彼女は頭を振って応えた。『エクソダスはお前達を罠に掛けた。だが、ひょっとしたらその侵食は完了していないのかもしれない。』

『お前と話す事は無い。』そのジュカは大声で唸る様に言った。『その妄想を墓まで持っていくがいい!』

彼は最後の一撃を加えるべくハルバードを振り上げた。ダーシャは身を屈めた。次の瞬間、暗い洞窟に雷鳴が轟いた。戦っている双方が凍りついた。何か巨大な、獣のようなものが二人の近くにある通路部分を通り過ぎた。顔をしかめながら彼女は考えた。ここに居るのは人間だけではなさそうだ。

ケイバーのハルバードが彼女の前に素早く振り落とされた。後ろに退くのが遅すぎた。その刃は胸の鎧を切り裂き、その下の肉をも切り裂いた。血が流れ出す度に、蝋燭に照らされて煌いた。彼女はその痛みに叫び声を上げた。そして、とんぼ返りをしようとしたが、傷は彼女の片手を使い物にならなくしていた。彼女はその場に崩れ落ちる。そのジュカの次の一撃は、彼女の肩に向け地滑りの様に撃ちつけられた。それと同時に彼女は、固い地面へと叩きつけられた。激しい苦痛のみが彼女の体を支配する。手足は凍り付き、動く事を拒んだ。

はらわたの中で激しい怒りが猛り狂うが、傷が思うようにさせてくれない。血が滴り落ちる度に自分の体の不自由を呪った。彼女は心の中で叫んだ。ご先祖様、貴方達のせいで…!それと反対の事こそ真実とは解りながら。

彼女の頭上にウォーロード・ケイバーがぼんやりと見えた。彼の武器はまさに最後の一撃を加えようとしているところであった。殆ど頭を動かす事は出来なかったが、最後の力を振り絞り、そのエメラルドの皮膚をした巨人を侮蔑した。『ジュカが成し遂げてきた事も、お前のせいで台無しだな!』

その将軍の目に怒りが充満した。『私は未来を守ろうとしているのだ!だが、ミーアは来るべき危機に思いを寄せるには、余りにも自己の事のみ考えすぎるのだ。お前達の言う”2種族間の均衡”なるものは、要するに停滞以外の何物でもない。我々は終わる事のない対立の為に何世代も費やしてしまった。その間に、ガーゴイルや人間共はより知恵をつけ、勢力を拡大していった。しばらくすれば我々の脅威となるだろう。ダーシャよ、この世界は変わりつつあるのだ。ジュカもそれに合わせねばならん。さもなければ滅亡あるのみだ。それこそ我々がかつてのやり方を捨てた理由であり、ミーアを滅ぼす理由でもあるのだ。生き抜く為に我々は支配せねばならん。これこそエクソダス様が授けてくださった御智慧なのだ。』

『不名誉は高貴な羽を身に纏う。』彼女はケイバーを苛立たせるかの様に言った。『が、賢者はそれに惑わされない。』

ケイバーは鼻息を荒立たせて怒った。一瞬で彼女の首に向けてハルバードを振り上げた。その時彼は手を止め、その尖った耳を澄ました。重苦しい響きが暗闇の中を移動している。洞窟の中の獣が、その音を響かせながら近くまで来ていた。

『勝手に判断するがいい。』そのウォーロードは雷のように叫んだ。『その妄想はお前達を救いはせぬ。』

そしてすぐ、彼は闇の中へと消えて行った。彼女は彼の足音が遠のいていくのを感じたが、それに代わって巨大な何かが近づいてくるのを感じた。その生物は漆黒の闇の中、辺りの臭いを嗅いでいた。鋭い爪が繰り返し石に擦れる音がした。

彼女にはヒールの呪文を唱える力は残されていなかった。防御すらままならなかった。ほんの僅かの間、そのモンスターを近寄らせないようにする為に、精々蝋燭の輪の中心に這って行く事しか出来なかった。しかしその努力の意味も疑わしかった。彼女の使命は失敗したのだ。エクソダスは、ジュカを強力に束縛していたのだ。ケイバーは充分エクソダスに侵されている。それが為に彼はダーシャに潔い死すら与えず、獣に貪り食わせる為に彼女を残していったのだ。

どのような形なのかは彼女にも分からなかったが、勿論の事転生が彼女を待っていた。ケイバーの殺戮が効を奏すならば、ミーアとしてではないであろう。師アドラナスは確信していたようだった。しかしダーシャはそれほど悲観的ではなかった。その答えはすぐに消え去ってしまった。蝋燭の灯火がその生物の鱗を映し出した時、彼女の唇からは不満気なため息が漏れた。正面を向いて、黒曜石の様な目を閉じた。







5:28 2017/05/25

by horibaka | 2017-05-08 05:27 | その他 | Comments(0)
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挑戦

投稿日:2001年12月12日


全シャード
険しい崖から独りジュカの要塞を見下ろしながら、ダーシャ(Dasha)は気に入っている皮の鎧を脱ぎ、その金属部分を磨いていた。暖かい風が彼女の斑模様の毛皮を撫でるように吹いた。その黒曜石の様な目は、炎の合図を確認しつつ、目の前に広がる谷を捉えていた。

彼女の背に広がる夕焼けは、空を広大かつ豪華な劇場へと変えていた。しかし、谷の下から空を見上げる者に高く、隆起した岩山の間にある彼女のシルエットを捉える事は出来なかった。彼女は要塞の壁の上で警備に当たっていたり、要塞の周りを取り囲むように建っている家に住んでいるような、個人としてのジュカを理解出来ずにいた。町から窺える唯一の動きといえば、ランタンの灯火を点けている事くらいであった。調理の際の火が羽状の煙となって空に立ち昇っていく。夕刻の風は、秋がやがて来る冬を拒絶しているかの如く、穏やかな微風となって谷間を吹き抜けて行った。

そのミーア戦士は、先端が平坦になっている巨礫の上に、鎧を整理しながら腰掛けた。その時は鎧を必要とはしていなかった。ジュカの警備兵がこの岩の多い坂をよじ登って来る事は無かった。これらの乾いた山々の唯一の住人は、訳の解らぬ言語を用いる人間の一種族であり、彼らの荒い造りの武器は、彼女にとって恐怖でも何でもなかった。風の中で鎧を着た時、重要なその一夜を導いてくれる偉大な先祖の魂を呼び出した。ジュカがトーチに火を灯し、二つの種族の試練が始まろうとしている。

腹の辺りに僅かばかりの刺激を感じ、彼女は魂の到着を悟った。その感覚は手足や顔に広がっていき、やがて全身に力と冷静さがみなぎっていった。彼女は魂の到着を歓迎した。先祖達はミーアの叡智を構成していた。そして長く、充実した人生を送り、後により純粋な存在になっていくのであった。クリスタルの尖塔にある天上の都市から、彼らは大地と木々とを駆け抜ける若い魂に手助けしながら、下劣な王国を覗っていた。ダーシャは彼らの助けに感謝した。彼女は尊敬を受ける戦士であり将校であったが、彼女の生命は二百回の夏至を迎えるには及ばない物であった。彼女はまだ光明を見出すには若すぎた。もし、彼女が今日死ぬのならば、彼女の魂は若いミーアの体に宿り、物質的な存在における戦闘や交渉といった事について教えることになるだろう。そして、彼女の高い功績から、数世紀の経過だけで、彼女は来世にある聖なる尖塔に住む高尚な先祖の列に加わる事になるだろう。

もちろん、今夜死ぬ訳には行かなかった。彼女は屈強のジュカ戦士に対面し、彼から説明を求めねばならなかった。ジュカの軍はミーアの故郷である森林を破壊した。彼女は敵が名誉の伝統を破ってまでそういった事をした理由を知りたかった。古来からのジュカとミーアの均衡は、その回答にかかっていると言っても過言ではなかった。新たな光が街の中で光った。一点の星のような炎が石壁の要塞にある高いタワーの頂上に現れた。鼓動が高鳴るのがわかる。それこそ合図であった。ウォーロード・ケイバー(Warlord Kabur)が彼女の提案に応じ、1時間以内に現れるというサインであった。

永遠の存在である先祖達の導きによって加護されながら、彼女は肩に掛けた鞄の中に装備を詰め込み、薄暮の中へと進んで行った。

かつてダーシャが古の森に住んでいた頃、夕暮れはゆっくりと眠りにつく前の瞬きのようにしてやって来るものであった。彼女はその安らぎを覚える光景を目にする事は無くなった。この辺りの山々では、夜は石や雑木林を飲み込みながらやって来る黒い影が押し寄せるようにして訪れるのであった。彼女は迷宮の薄暗がりを音も無くそっと歩いた。彼女の目的地は、二つの鋭い角を持った岩に挟まれた洞窟であった。そしてそこでは安らかな風が吹いていた。地上で洞窟の扉が開くまで、彼女はクロスボウの矢を装填していた。そして彼女は冷たく暗い入り口に歩み寄り、装備を付け始めた。そのような事をしつつ、彼女は一世紀の間に渡って戦ってきた敵に関する知識を思い起こしていた。

ジュカは強固な肉体と意志とを持った粗暴な種族であった。高度な技術と文化がありながらも、それらは生きている事の究極の実感を彼らにもたらす事は無かった。この荘厳なまでの喜びへの衝動が戦いへの強い欲望に変わるのは至極当然の事であった。ジュカの氏族たちは情け容赦ない熱情を以ってお互いに戦った。そして、ある一つの氏族がやって来て、他を支配するようになると、その結合したジュカ全体が、今度は隣人であるミーア社会へと攻撃対象を変えてきた。二つの種族間の戦争は伝説と歴史とを通じて知れ渡る事になった。

更に、ミーアと違って、ジュカは生命の再来という事に重きを置かなかった。これらの翡翠色の肌をした戦士達は、一回限りの人生を送った。その死に名声を伴えば名誉の大聖堂へ、不名誉な死であれば忘却の彼方へと送られるのであった。その様な事から、ジュカは躍起になって栄光と名誉とを追求するのであった。彼らの社会の中核には、揺ぎ無い徳、勇気と率直さ、そして敵への敬意という伝統が根付いていた。彼らの魂は、それらの掟と言ってもいい物への忠実な厳守を基盤としていた。ジュカはその事を道(the Way)と呼んだ。まるで、それ以外の物は存在しないかの如く。

ジュカの軍はミーアの森を焼き尽くした段階で、彼ら自身の道を踏み躙った。彼らの謎多き、新たな支配者であり、奇妙な名前のエクソダス(Exodus)がそうするように命じたのだ。しかしダーシャは、ジュカが不名誉に繋がるような事を説得されても強要されても決してしないという事を知っていた。薄汚れた呪法。それのみが、この劇的な変化を説明する事が出来た。彼女はウォーロード・ケイバー自身に問い掛ける事で、その真偽を確認しようとしていた。それを知ることによってのみ、ミーアが復讐を果たす術を知る事が出来るのだ。

先祖達はダーシャの心に平静をもたらしてくれた。それは、ミーアの古来からの故郷を破壊し尽くした将軍に会って逆上してしまいそうな彼女にとっては、ありがたい物であった。

中から見ると、洞窟の入り口は目立たないようにした逆茂木のようであった。巨大な影が、その隙間を埋めた時、光が消えた。ダーシャはたじろいだ。とても低い声が轟いた。『お前が私のようにしても、私は驚いたりはせぬがな。お前に残されている勝利への希望はただ一つ。戦う事であろう。』

ウォーロード・ケイバーは洞窟にランタンを持ってやって来た。もう一方の手にはクロスボウを持っていた。彼の手に比べると、それは小さく見えた。ケイバーは大柄なジュカの中でも巨人戦士と呼ぶに相応しい体格をしていた。強固な鋼の鎧と金のすね当てが、彼の大きさをより強調していた。全てのジュカと同様に、彼もまた彼女にとっては気難しく思われた。鼻はなく、爬虫類のような目をしており、その口は小さく、そして硬かった。しかし、ケイバーの表情はそれ以上の何か他のものを明らかにしているようであった。何かは解らないが、その何かが彼の視線をより険しいものにした。彼女は自らも睨みつける事で対抗しなければならないような気がした。

『私に会いに来たのだろう。』彼女は言った。『ブラック・デュエル(Black Duel)の儀式に則って。私はお前が為した不名誉な行いの説明と贖いを求めにやって来たのだ。』

将軍は低く唸るような声で言った。『お前の残していった通牒とシルクのスカーフは確かに受け取った。ジュカの習慣について、よく知っているようだな。』

『私はお前の祖父が生まれる前から、お前達ジュカと戦ってきているのだ。ジュカはいつでも道を尊んできた事も知っている。だからこそ、お前はブラック・デュエルを尊重し、秘密裏に私に会いに来たのだろう?』

ケイバーのエメラルドの唇がねじれて作り笑いとなった。『私はお前達の故郷である森を焼き尽くした。それなのにお前は私がまだ古い掟などに囚われているとでも思うのか?』

『お前の祖父や父は名誉の決闘を重んじてきた。お前の一門への名望がお前に同じ事をさせるはずだ。』

『私は新しい価値を創造しようとしているのだ。勝利という名の価値が私を手招きしているのだ。』彼は狭い入り口から、より天井の高い洞窟の奥深くへと入って来た。洞窟の外からは多くの足音が金属音を伴って鳴っているのが聞こえてくる。彼女は目を細めて言った。『邪魔するなら、外のものは全て消す。』

『邪魔するべきブラック・デュエルなどありはしない。ここに来たのはお前をエクソダス様の御前に連れてゆく為。一族の中でも多くの事が変わったのだ。尤も、ミーアに解って貰おうとは思わぬがな。』

その時、彼女は生命の危機にある事を理解していた。ケイバーは道を捨てたのだ。彼は一対一の決闘を彼女を捕らえる策略として受け入れたのだ。すぐに突入してくるジュカの戦士の嵐のような足音で洞窟中が満たされる事になった。槍の先端がケイバーのランタンの灯りを受けて光った。

全てのミーア戦士と同じく、彼女の武器無しでの戦闘の技術はジュカの戦士のぎこちない戦斧の振りを圧倒していた。霧の如く彼らの周りや、その間を動き回って彼らの皮のような体の継ぎ目を撃ち、彼らの鎧自体を武器にしてしまうかのように、鋼の鎧を血管や骨に当たるように打ち当てた。戦士達が一山の塊となった時、彼女は洞窟の闇を破るような光を放つ呪文を素早く唱え、彼らを蹴散らした。数秒後には岩肌のあちらこちらで無残な死体が散らばっていた。

外では他の戦士達が叫んでいた。ダーシャは深呼吸した。全軍を壊滅させる事は不可能だ。しかし、目標は目の前にあるのだ。ウォーロード・ケイバーに斬り込む直線位置に障害となるジュカはいなかった。彼女はその巨大な戦士のもとに跳んだ。彼は彼女が飛び掛ってくるのを見て大声をあげ、彼女の方向に向けて倒れた戦士のハルバードを振り回した。彼女はその必殺の一撃をかわし、その武器の長い柄を掴んだ。光のような速さで動き、彼女は地面に倒れた。それと同時にケイバーは洞窟の奥へと投げ飛ばされた。

彼はダーシャが洞窟の床で唱えたルーンを通り越すと同時に消え去った。

彼女も素早く後を追った。魔法の呪文は彼女を光で包む。彼女は山のより深い場所にある他の洞窟の中に現れた。彼女は足元にある同じルーンを他のジュカがやって来ないようにブーツでかき消した。そして、装備を付け直し、驚いているウォーロードを目の当たりにしながら、自らの高貴さを取り戻した。

彼らは決闘の場所として設けられた輪状に並べられた蝋燭の中にいた。巨大で暗い窪みが彼らの周りに浮かんでいた。来世のような凝縮された静けさの中で、ダーシャは腕を組み呟いた。『ブラック・デュエルに訴え出たのは邪魔なしで話ができると思ったからです。後でどうなっても構いませんから、どうか暫くこのままで。』

揺らめく蝋燭の火がジュカの目の中の憤激を明らかにした。彼はハルバードの柄を二つの拳で互いに握り直していた。『お前が戦いによって私を説得しようというのなら、ダーシャよ、お前はもう成功していると言っていいだろう。偉大な母の名にかけて、ミーアの森をそうしたように、お前も切り刻んでやろう!』

嵐のように彼は彼女がわからない位の連続した攻撃を浴びせてきた。彼女は彼のハルバードによる打撃を避けるため、宙返りして後方に押されざるを得なかった。その隙に、彼は次の攻撃の用意をした。ほんの暫くの間、ダーシャは再びウォーロード・ケイバーについての判断を誤っていないのだろうかと考えた。高貴な先祖達は彼女の中にいた。しかし、彼らですら不名誉なジュカなどに遭遇した事はないのだ。古の叡智はこの奇妙なジュカの軍の暗黒の復活に打ち勝つ事が出来るのであろうか?

ダーシャは自分自身に向かってぼやいた。まず戦おう、それから尋問すればいい。もし誤りの弁解よりも死を選ぶのならば、私が殺したも同然だ。それはそれでいいだろう!そして彼女は図体の大きいウォーロードと同じ位に猛然と攻撃を開始した。彼女の目は復讐への強い欲求に燃え立っていた。








5:22 2017/05/24

by horibaka | 2017-05-07 05:21 | その他 | Comments(0)
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はじまり

投稿日:2001年11月27日


全シャード
偉大さは時間により泡沫へと帰すが、栄光は忘れられる事は無い。古き時代の風は、とても静かに過去を歌う。
―ミーア(Meer)の諺

ダーシャ(Dasha)は木の枝に腰掛け、黒の軍勢が彼女に向かってくるのを眺めながら、微笑んでいた。手元には小さなクロスボウがあったのだが、急いで矢を装填しようなどと慌てる事も無かった。森が厄災から彼女を守ってくれる盾となってくれる事を、彼女は知っていた。故に、その様な事は百年の間繰り返され、そしてこれからも続く事だろう。

谷の隆起した部分に朝日が差し掛かると、まるでダムが崩壊したかの様に、黒い軍勢がスロープからなだれ込んで来た。太陽の光で照らされたヘルメットと矢じりが鈍く光る。その場の空気が、無数の軍靴の音で揺れ動いた。しかし、谷底の背の高い入り組んだ森は、断崖が波を押し返すかの様に彼らの前進を妨げた。木の障害は丹念に織られた織物のようで、軍の陣形は単なる一列の縦隊にさせられてしまうのだった。軍の流れは、森の内部の暗い一本の紐の様にして消え失せてしまうのだった。

立ち並ぶ木の端に身を隠されて、ダーシャは彼女を支えていた丈夫な枝の下で起き上がり、足を組んだ。朝日のベールが彼女の頬を包んだ。彼女はその暖かさに微笑んだ。銅色の光が、上等な毛皮のコートに照り返した。長身で活動的な彼女の体格とは対照的に、細やかな班模様が入っていた。若いミーア人の女にしては、ダーシャは特に危険な女に見えた。彼女はドレスを着る事も無かったし、スカーフを巻く事も無かった。むしろ、一見して戦士とわかる様な、金属や皮を凝らした装備を好んで身に付けるのだった。薔薇色の髪の毛が、彼女の肩に血を散らすかの様に広がっていた。朝の風を受けて、彼女の高く尖った耳は、引っ張られるかの様に立っていた。

また始まった、と彼女は苦笑いを噛み殺し、そう思った。ジュカ(Juka)は攻撃し、私たちはそれを追い払い、永遠の均衡と言う物がまた新たに明らかとなるのだ。何世紀にも渡る失敗で、ジュカ達が懲りなかったのか、と思うかもしれない。それでも、彼らは攻撃の手を緩めようとはしない。戦闘こそ彼らの本能なのだ。先祖は遙か昔にそんな事を記している。

どこか遠くで、金切り声を上げて騒いでいるのが聞こえて来た。彼女は苦も無く、今いる枝から頭上にある非常に高い枝まで飛び上がった。森の天蓋を破り、木の海とも言える森全体を見渡した時、その騒動の元を見つけた。すると、葉の間から、北へ向かって深紅の何かが飛び出した。大きく、赤い羽根が空にはためく旗の様に広がっていた。それは森から逃げようとしているガーゴイルの部族だった。侵略者達は、それらを追い払おうとしている。しばらくの間ダーシャは、その野蛮な生き物が低く浮かんでいる朝の雲の中へ、滑り込む様にして行くのを眺めていた。それは、彼女が不本意にも魅入ってしまう様な、野性的な美しさと言えるものを持っていた。

葉の間から何かが立ち昇って来た。それは風に揺らされながら立ち昇る煙の柱だった。しばらくすると、遠くの緑樹の方に黒とグレーのカーテンが出来上がっていた。何かの燃え殻の臭いがした。耳を澄ましてみる。野営の場所を確保しているのだろうと彼女は思った。今回、ジュカは長期戦を練っているに違いない。それはそれで私の望むところ。森は秋の喜びに満ちている。ジュカの執拗な包囲攻撃は、秋と言うその喜びの季節へのスパイスの様なもの。思いっきり楽しんでやろうじゃない。ウォーロード・ケイバー(Warlord Kabur)には、足をへし折って追い返す前に、お礼を言っておかなくちゃ。

長老達は、彼女の報告した事態の進展に興味を持っていた。報告が終わると、彼女は音も無く木々の間に潜り込み、森の奥深くへと潜行していった。眺めていると目が回りそうな、膨大な枝のもつれは暗い海の様だったが、ダーシャにとっては束縛から解放される場所だった。その中で彼女は何物も追いつけない、班模様付きの稲妻となるのだった。鋭敏なミーアの特性とはその様なものであり、彼らは自然と古くからの盟友だった。どこに住もうと、その土地と友となり、風のスピードで大地を駆け抜けた。

ミーアの堅牢な要塞は、森の中心に位置する孤島の如くそびえ建っていた。その塔や胸壁は魔法建築の不思議さと言う物を体現する物だった。その巨大建造物を構成する石の一つ一つが、力の流れを魔法のそれと同じくしているルーンによってマークされているのだった。過去に稀ではあったが、ジュカの軍がやっとの思いでその魔術の要塞に辿り着いた事があった。しかし決して彼らの衝角は、その呪文のかかった壁に穴を開ける事は出来なかった。その城は不屈のミーア文明の象徴であり、彼らの古代文化の中心だった。

グレーの獣毛を身にまとう長老達は、城の中のそれぞれの豪奢な部屋の中に居た。彼らは古の知識の守護者であり、上質で光り輝くシルクのローブと、黄金を縫い込んだかの様なマントで自らを優美に覆っていた。魔導師アドラナス(Adranath)は、彼らの中でも最も偉大な長老だった。銀色の獣毛に身を包む彼は長身で威厳に満ちており、彼は人々の永い歴史を通して、何世紀にも渡る伝説を漂わせつつ、堂々と歩くのだった。アドラナスは知識を司る者の中で最年長であり、要塞の半分くらいの年齢を重ねていた。その年齢が彼に不思議な雰囲気を与えていた。彼の心構え、手法は、世界が人々に苦痛を与える場でしか無かったとき、その時代を生きた人々に知れ渡る事となった。

時々、彼がダーシャの方を向いていない時、彼女は年月がその老人の感覚を鈍らせているのかと思う事がある。そんな事を考える自分に嫌悪を覚えながら。今、彼女は謁見の間で報告を提出していた。そこは影と香りの支配する厳粛な場所だった。飾り気のない壁は彼女が話すのを聞いているかの様だった。

アドラナスがその知らせを聞いたとき、憂鬱さが溜め息をより深くした。彼の年老いた目は暗くなった。『我が子よ、何とも悲運な前兆を運んで来たものだな。我々の要塞の魔術は森の活力に依存している。それ無しでは、要塞の壁は脆くも崩れる事だろう。ジュカが木々を焼き払えば、我々の力も弱まってしまうのだ。』

ダーシャは頭を垂れた。『偉大なる我が主に、恐れながら申し上げます。彼らにしてみれば、要塞の壁を役に立たなくする為に、全ての森林を焼き尽くさなくてはならなかった事でしょう。彼らは今までその様な卑怯な行いをした事がありません。』

『して、ジュカ達がそれをせぬと言い切れるのか。』

『彼らは確かに好戦的、攻撃的です。が、彼らは確固たる名誉の伝統を守っています。彼らは自らの徳を裏切る様な種族ではありません。私はそんな彼らと何世代にも渡って戦って来たのです。』彼女は成し遂げた事を誇るかの様に、顔を上に向けた。

アドラナスは背もたれの高い椅子にもたれ掛かり、唸る様に言った。『お前は姿を見せない彼らの主を見くびっているのだ。彼はここ10年の間に、ジュカに大きな変化をもたらしたのだぞ。』

『彼らがエクソダス(Exodus)と呼ぶ存在の事ですか?顔を見せる事すら恐れる者など、脅威でもありません。』

『彼はジュカに魔術を教えた。』

彼女は眉をひそめた。『治癒とちゃちな魅了の術ですよ。ジュカがどれほど頑張ったって、私の方がまだまともな魔法使いです。偉大なる我が主よ、私にはあなたの不安が理解できません。ジュカとミーアの間にある古よりの均衡は、今まで揺らいだ事がありません。今回の攻撃の何が危険だと言うのですか?』

『エクソダスが危険であるのだ。』魔術師は低く唸る様に言った。『彼は、言わばこの世界にあってはならぬ存在。私は、奴が古よりの均衡を忌まわしく思うだろう事を恐れているのだ。厳しい冬は間近だ、我が子よ、ジュカが我々を打ち倒せば、我々は破滅に直面するだろう。我々は恐らく生き残れないだろうと、私は危惧しておるのだ。』

その一言を聞いた瞬間、ダーシャはアドラナスの重ねた年齢が、彼を弱気にしているのだろうと考えた。伝説ですら時が経つにつれて色褪せていく運命にあるのだ。妖しい優雅さを纏いつつ、彼女は老魔術師の部屋を辞して、森へ戻っていった。そこでは彼女の同志達が、彼らの魔法の故郷を守る為に集まりつつあった。彼女は、アドラナスの予言を忘れようとした。それは老いぼれた頭の生んだ妄想に過ぎないと。

遥か昔に先祖達は、年輩の者の忠告を無視してはならないと、子孫達に警告を残していった。しかし、ダーシャや同志の戦士達には、その教訓が故郷を滅ぼすものにしか思えなかった。

恐怖は故郷に迫り来る火の壁である。防衛戦を戦っている間、ミーア達は同時に二つの敵と戦っていた。ジュカの戦士の執拗な猛攻撃と、彼らが放った怒り狂う炎だ。ジュカの軍は、地獄の大火を消そうとするミーア勢の、全ての努力を退けた。太陽は黒い煙の嵐の向こうに見えなくなった。ダーシャは恐怖を覚えながら、起こっている事を把握した。攻撃目標は城ではないのだ。ジュカの指導者であるウォーロード・ケイバーは古代の森その物を焼き払おうとしていたのだ。それはダーシャが知るジュカの誇りを大きく傷つける禁忌だった。

敗北は、灼熱の赤い炎と灰や燃え殻の吹雪の姿を取りやって来た。ミーアが崩壊した要塞を放棄すると、ジュカの軍勢が煙の中から現われ、ミーアをまるで朽ちかけた木を切り倒す様に打ち倒していった。ダーシャは、大虐殺が青々と茂る森の大地を蹂躙する中、生存者と共に逃げ出した。その森は百年の間、彼女の故郷だった。それは一週間たらずの内に消滅したのだ。

彼女と同志の戦士達は、長老達の救出に成功した。この様な状態になってさえ、魔法での復讐をと考える者もいた。しかし、ダーシャは違った怒りを抱いていた。目眩がする様な憂鬱さを感じた途端、彼女の黒曜石の様に黒い目が鋭さを増した。何を為すべきかを知ったのだ。

アドラナスは正しかった。彼はエクソダスが想像もつかない様な魔術によって、ジュカ達を蝕んで行ったと言っていた。敵に対抗する作戦を練る為には、ジュカに何が起こったのか知る必要があった。それは彼女が、ジュカの指導者であるウォーロード・ケイバー自身に問い質すべき事だった。顔を突き合わせて、説明を求めるだろう。もし、満足行く回答を得なければ、剣を突き合わせる事になるであろう。

そうなれば、自分は満足できると彼女は知っていた。そして長老達は、今度はジュカの上に虐殺を降り注ぎ、永遠の均衡はまた新たに明らかにされるだろう。それが、脇道にそれ得ない歴史の正しい道筋という物だ。それを祖先達は、はるかな世代の昔から予見していた。ここにおいて、それを為す以外の選択肢がないのなら、ダーシャが迷うことは何も無かった。








5:27 2017/05/23

by horibaka | 2017-05-06 05:26 | その他 | Comments(0)
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到来

投稿日:2001年11月5日


全シャード
パワークリスタルの鈍い輝きが、ニスタル(Nystul)の薄暗い研究室中に光を散りばめ、様々なガラスの実験器具がその光を映し出している。研究室の窓から入る月の明かりが彼を優しく包みこんでいるかのようであった。その年老いたメイジが気だるそうに腰掛けると、パワークリスタルの微かな紫の明かりは、彼の顔の心労から来るしわを、より深くしていくようにも見えた。かなりの時が経過したようだった。彼の助手をある会議を召集するために遣わしたのだが…。太陽がとっくに暮れてもその姿を見せることなく、蝋燭はすでに捏ねた蝋の塊と化していた。その間ずっと、彼はクリスタルを眺めながら、研究室のテーブルを殆ど離れてはいなかった。

この世界は力を持った指導者を必要としている、と彼は思ったが、だからといって、彼の信念を曲げるわけにはいかなかった。紫の光がしばらくの間、彼の目に映っていた。そして、少し目を細めてそれを見ていた。王はいつの日か、これがブリタニアにやってくる事を知っていたに違いない。姿だけを変える不死の邪悪…。その邪悪が地を這うようにしてこの地に再びやってくる事はない、と考えていた自らの愚かさに恥じ入っていた。もっと長く、彼をこの地に留めておくべきだったのだ。彼は行かねばならなかった。それは分かる。しかし、この地は彼の不在により苦しんでいるのだ。私は民衆が彼が居なくとも、この邪悪を追い返せること願うのみだ…。

軽く肩を叩かれたことで、ニスタルは目線を上へとやった。彼の実習生であるクレイニン(Clainin)は目が合うと、少しばかり驚いた。自分の師匠の邪魔をしたのではないかと、その実習生は不安げだった。ニスタルはすぐに振りかえり、またクリスタルを眺め始めた。

『申し訳ございません。あの・・・、お邪魔するつもりはなかったのですが・・・、。よろしいでしょうか?』クレイニンは年老いた師匠と彼の友人の陰鬱な表情を気に掛けながら、ゆっくりと話した。『こんな暗い研究室、先生、お好きでなかったでしょう。蝋燭をつけましょうか』

『放っておいてくれ、クレイニンよ。余計な事をするな。年を取ったのじゃろう・・・、お前が近づくのに気付かなかったのじゃよ』彼はゆっくりと立ち上がったが、その視線はクリスタルに注がれたままであった。『皆、集まったのか?』

『はい、ニスタル先生。皆、玉座の間に集合しております。彼らを集めるのに手間取り申し訳ございませんでした。クレット(Krett)に至っては、作業場から連れ出すのに、もう少しの所でフレームストライクを使うところでした。クリスタルが手に入って以来、彼は昼夜問わず、ゴーレムを作り続けているのです』

『クレイニンよ、お前にはよく説明できたじゃろうか?』ニスタルは突然振り向いて、彼の目前の弟子を見た。

『何でございましたでしょうか?』クレイニンは困惑した。その時、彼は師匠の顔に、今まで見た事のない不安げな表情を見たのだ。

『お前への訓練は十分じゃたろうか?私はお前に自らと一体となれる魔法の知識を授けたじゃろうか?それらはエーテルの謎を自らの力で切り拓いていけるものじゃろうか?それらはまた、この国を守るべく、本当にお前に全ての魔法を駆使させる事が出来るものなのじゃろうか?』

『私は…、私が思いますに、才能という点であなたの力と比較する以前に、私は何年という間、あなたの下で修行してまいりました』クレイニンは彼の師の様子をうかがいつつ、戸惑っていた。『今まで受けてきた教えの中で,あなたからの教え以上のものは受けた事がありません。あなたが城を留守にしているとき、研究室を整理整頓しておく事だって出来ます。あの…、スライムと魅惑の魔法で少しへまをやらかしましたが、階段の酸で解けたところはきちんとカーペットで隠しておきましたし…』

『お前はずっと従順で献身的な私の弟子じゃ、クレイニン』ニスタルはそのメイジの肩に手を置いた。『いつの日か素晴らしい魔導師になるじゃろう』

クレイニンは少しばかり不満げであった。『あの…、私に期待してくださっているのは、とても光栄なのですが…、一体どうなさったのですか?』

ニスタルは悲しげに微笑んだ。『また、次の機会に話そう』彼はクレイニンをドアのほうへと導いた。『まさに今、ブリタニアが我々の智慧を必要としているのじゃ』





城の玉座の間は静まり返っていた。ただ、クレッツが床一面にクロックワーク=アッセンブリー(clockwork assembly)を散らかして作業する時のカチカチという音を除けば。シャミノ(Shamino)は椅子にもたれかけ、容易そうにダガーを宙に投げては、それを器用に掴んでいた。玉座の側にはデュプレ(Dupre)が立っていた。その戦士の体格は広間を照らし出す蝋燭の明かりの中でより威厳を増していた。彼はまるで彼の主君がまだそこに座っているかのように、王の席のすぐ横でそれを守護するかの如く立っているかに見えた。

クレイニンが歩いて行き、集まっている者達に静かに一礼した。彼らは頷きで彼を迎え入れ、そしてニスタルが部屋の入口の二人の衛兵に話し掛ける間、それを待っていた。衛兵は広間から出て行くと、ニスタルの後ろで扉を閉めた。彼は集まった者達より、一段高い場所に立ち、そこにいる者の興味を引くかのように、周りを見渡した。『皆、ご多忙の中、万事多難を排し、お集まりくださった事、恐れ入ります』

シャミノはダガーを掴み、音をたてずにそれをベルトに収めると、もたれかかるのを止め、背筋を伸ばして座り直した。『クレイニンがせかすので、出来る限り早くやってきました。彼が言うには、ニスタル殿、あなたが何か発見したとの事でしたが?』

ニスタルは頷いた。『その通り。そして、ここにいる皆に、それがよい知らせであったならばと思う…』

『やけに恐ろしい顔つきだな、旧友よ』デュプレが玉座の脇から言った。『あなたが見つけたという物が、一体全体どのような物なのか、我々に教えてくれ。我々は共にそれと対峙しようではないか』

その年老いたメイジは溜め息をつき、彼の前に集まった人々を見渡した。『クレットとシャミノが見つけてきたクリスタルを念入りに調べたのじゃ。ここ数日というもの、イルシェナーで見つかったものと併せて、その秘密を解くべく時間を費やしてきた。今から説明する事は…、本当に恐ろしい知らせになるじゃろう。しかし、今、目前に迫っている危機がどれほど深刻なものであるか理解する為にも、どうしても聞かせておかなければならんのじゃ…』

彼は話しながら、床をゆっくりと歩いた。その間、彼の影は蝋燭の明かりに照らされて、それが集まった者達の上で揺らめいた。『ここにいる皆が知っての通り、魔術はそれを使うメイジ個人と、とても密接な関係を持っている。魔法のエーテルが呪文を唱えるものによって使われるという現象は、その者の声や表情と殆ど同じくらい、その個人に密接に関連するのじゃ。このクリスタルは…』彼はその人工的な物をローブから取り出して言った。『…魔法により作られており、そして作成者のエナジーを宿している。発しているこの力を感じられる方もいるのではなかろうか』

『そうすると…、そのクリスタルを作った人物を…、えーと、あなたはご存知なのですか?ゴーレムの背後に…、えーと、誰がいるのかもご存知なのでしょうか?』クレットが興奮気味に尋ねた。

『残念じゃが、攻撃者がどのような者であるか、いまだ謎のままじゃ。‘エクソダス’という言葉が、仮に意味を持っているとしたら、それが何を意味しているのか、今のところ不明じゃ。しかし、いま知らせしたいのはそんな事ではない。ブリタニアに攻撃を仕掛けてきている者は皆、共通した魔法の力を持っている。そして、それは私の人生で、以前ある他者にそれを見出した事があるということなのじゃ…』ニスタルは立ち止まり、集まった者たちの注目が彼一身に集まっているのを確認しながら、彼らの方へと振り向いた。『私の言う他者とは、ミナックス(Minax)の事じゃ』

シャミノ、デュプレ、そしてクレットは驚きを共有しているかのような感覚に陥った。

『ミナックスはゴーレムを作り出す元となる物を持ってはいない。そしてゴーレムはフェルッカで、彼女のために派閥戦争を戦っているとは思えないが』デュプレは言った。その声は信じられないという事からか、雲がかかったような声だった。

シャミノが素早く立ち上がって言った。『すると…、モンデイン(Mondain)…?』

『いや、モンデインではない』ニスタルは即座に応えた。『遥か昔に死んでいる。いや、この魔法の力は奴らに通じる物はあるが、幾分違うところもあるのじゃ。ではあるが、私はこの脅威を深刻な物として恐れずにはいられないのじゃ』

『えーと…、あの…、質問、よろしいでしょうか?』クレットが言った。その声はその場の緊張感からか、小刻みに震えていた。『モンデインとかミナックスとか…、えーと…、どうして私がここにいるのでしょうか?私はただの細工師ですよ。腕には自信ありますが…、あの…、そんな大それた邪悪に立ち向かうなんてとても…』

『クレット、君の知識が必要なのじゃ』ニスタルは言った。『敵はこうしている間にも姿を隠している。魔法のサインを発しているクリスタルが、奴らの居場所がどうやって隠されているのか、その詳細について幾つか興味深い事を教えてくれたのじゃ。クレットよ、君はクリスタルとゴレームとがどういう関係にあるのか、ゴーレムがどうやってクリスタルの力を使うのかを理解している。その知識が必要なのじゃよ』

『実際には、何をするのですか?』シャミノが尋ねた。

『クレットと私は敵の居場所を特定する装置を作る予定じゃ。イルシェナーからの情報を総合すると、ピラミッド型の建造物が敵の潜伏場所へのある種の出入口なのではないかと思っている。それが発見されて以来、相当な量のエーテル=エネルギーを用いた呪文で封印されているのじゃ』ニスタルはクリスタルを高く掲げた。彼の顔にやわらかな光の影が出来た。『これのお陰で、エネルギーがどこからやってくるのか知る事が出来る』

『お話を聞いて不思議に思うのですが、』クレイニンが言った。『そんなにも強力なバリアを維持していく魔法エネルギーでしたら…、それは…、あの…、世界中から集めなければならないのではないでしょうか…』

『その通りじゃ、クレイニン』落ちこんでいるその場の雰囲気に反して、ニスタルは弟子に対して微笑みかけた。『そして実際に、イルシェナーに魔法を唱える者は、ピラミッドを閉じこめておくために必要な量を越えてしまっているのじゃ。その事が何か他の下劣な目的に利用されていなければいいのじゃが』

『それがどういう結果を生む事になるのでしょうか?私達はブリタニア中に調査隊を派遣してきました。そして、その様な膨大な魔力に繋がる手掛かりを何一つ見つけられないでいます』クレイニンは部屋をゆっくりと行ったり来たりしながら言った。『エネルギーを集めようとする者なら誰しも…』彼は立ち止まった。その顔は紅潮していた。『そのエネルギーは魔法で隠しておかなければならない…!?』

『その通りじゃ』ニスタルは実習生の肩に手を遣った。『私は何がこのエネルギーを集めているのか知る為に、様々な魔法を使った。今のところ、その魔法はトランメル、フェルッカ両面のあらゆる場所から引き出されている事位しか私には分からぬ。そこでクレット、私が君の助けを借りて作ろうとしている装置は,敵の力の根源を暴き出すための物なのじゃ。いったん見つけたとなれば、あとはそれがどのような物であっても破壊するのみじゃ。ピラミッドはきっと開く。ガーゴイルを奴隷としている者の正体も分かるかもしれない』

『そうなったらもっと多くの事が分かるかもしれませんね…』クレットは夢でも見ているように、宙を見上げていた。彼以外の人が、僅かばかりの好奇心を伴って彼を注目している事に気付くと、現実に押し戻された。『それはそうと…、私達が…、ああ…、私達はあなたの言うその装置を、まず最初に作らなければならないのですか?』クレットが尋ねた。

『そうじゃ。第一段階としてな。』ニスタルは溜め息をついた。『容易な事ではないことは分かっている。恐らく我々が集められる以上の、膨大な量の素材を必要とするじゃろう。クレイニン、全ブリタニア市民に告知してくれ。我々は素材収集の為、相当な助力を必要とする。城の中庭にその装置を作ることになろう。全市民がそこに必要な物を持ってくる事が求められているのじゃ』

『あなた方がその装置の作成を終えたら、私はトランメル中を偵察して回りましょう』シャミノが言った。『魔法を収集している敵の正体が暴かれたなら、それを出来る限り早く発見し、破壊せねば。デュプレよ、あなた方にはフェルッカをお任せできますか?』

『わかった』重装甲のパラディンは答えた。『だが、他の派閥の連中が、事を複雑にせねば良いのだが。フェルッカでその魔法収集の何かしらを見つけたとしても、恐らくはミナックスの連中や、或いはシャドーロード(Shadowlord)の連中ですら、我々がそれを破壊するのを食い止めようと、手薬煉引いて待ち構えているかも知れぬ。奴らが本気で事を構えようとしているなら、我々に勝ち目は無いぞ』

『その様な状況が発生すれば、メイジ評議会(Council of Mages)の助力を得ることが出来ます。』クレイニンが言った。『リーダーの中に、影響力がある友人が数人いるのですよ』

ニスタルは部屋の中央まで歩き、集まった者一人一人の顔を見つめた。『これで、各人のなすべき事が御分かり頂けたはずじゃ。友よ…、今回の新しい脅威が全ソーサリアにとって、どれほど致命的な物になるかなどと言っている場合ではない。全世界がこの邪悪を根絶するべく、ブリタニアに住む全ての人々を頼みにしているのじゃ。さぁ、仕事に取り掛かってくれ。やる事は山ほどあるぞ』

そこに集まった彼らは、各々の仕事に向かうのに先だって、立ちあがり、お互い軽い別れの挨拶をした。ニスタルは無言で彼らを見つめ、そして自らも振りかえり、その場を立ち去った。

私には確信がある。彼ら、そして私は‘エクソダス’が何であったとしても、それを食い止めて見せる。ただ望むとすれば、私が王の下に行ったとしても、彼らが私なしで戦い抜いてくれる事だ。ニスタルはそんな風に思っていた。








5:15 2017/05/22

by horibaka | 2017-05-05 05:14 | その他 | Comments(0)
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真意

投稿日:2001年11月3日


全シャード
揺らぐ松明の炎だけを微かに響かせ、マントに身を包んだ男が静かに暗い廊下を歩いていた。男がその廊下の終わりに近づくと、石と金属とがきしみ合うような音を立て、扉が重々しく開いた。一歩中に入ると、男は片方の手でわずかな仕草を取った。その瞬間、扉は彼の後ろで、耳をつんざくばかりの雷鳴と共に一瞬にして閉じていた。

『エクソダス(Exodus)』彼は低い声で話し始めた。『あなたには人間どもがこの計画の遂行全体を台無しにしてしまうかも知れぬ、という認識が薄いのではないか?』突然、金属の手が飛び出し、矢のような速さで部屋の中を横切ると、反対側の小さな像を打ち砕いた。遠くの壁の小さな光は、宝石を通して見た火の光のように輝いていた。

『落ちつきなさい。人間どもはまだ我々の秘密の方策に気付いてさえいない』その声は、鳴り続く虫の羽の音のように、淡々と続いた。『Ver Lor Regは私の完全な支配下にあり、働き手たちは増員された監督官の下で建設を始めたところ。制御装置はきっちりと守られている』

『今朝方、スパイの一人がブリテインからやっとの思いで私に報告を持ち込んできた。それによれば、王の古くからの腰巾着のニスタルがパワークリスタルの一つを手に入れ、こうして我々が話している間にも、それを調査しているとの事』彼がゆっくりと動き始めると、それに合わせてマントも微かに動いていた。

エクソダスは一時言葉を失った。しばらくの間、その光は揺らめいていた。『しかし、あの魔道師は我々がブリタニア中にばらまいた装置の秘密をつかむことはできなかったはず』

『ああ。だが、奴は今ごろ十分なことを知っているだろう!エクソダス、あなたはいかなる局面においても人間を過小評価し過ぎるのだ!』彼は振り返り、光の壁に面した。彼が話すにつれて、その距離は短くなっていった。『私はこの男が災いとなるであろう事を以前にも警告し、あなたはそれを無視した。そして人間どもが我々の居場所を見つけるかも知れぬと警告した時も、あなたは再び無視をした。今となっては、この忌々しい魔導師が研究所にパワークリスタルを持っているだけでなく、今は亡き者となった、奴の派遣した調査隊が我々を見つけ出し、そして、まさにあなたの名前が全ての人間の間で囁かれているのですぞ!』

『我々が…失敗するとでも…?』

『私はあなたより人間について良く知っているつもりだ』彼は再びゆっくりと歩み始めた。『私のこの世界への理解、そして知識こそ、あなたが私に近づいてきた理由ではなかったのか?』『その通り。そして、あなたがかつて人間であったことも理由に入りましょうか。この世界を支配しようとするその意志が、私のそれと通ずるものがある。また、今、玉座にある王の知恵より優れた物を持つ人間、それらこそ、私があなたに力を授けた理由に他ならない。私は時が経ち過ぎたといえる程、ブリタニアを離れていたのだから』

『あなたには、我々が征服しようとしている世界を過小評価することなく、この地に慣れて欲しいと願っている。私はサベージとオークの混乱を作り出すよう頼んだ覚えなど無いし、このままでは一体のゴーレムを完成させる間もなく、人間どもはあなたの存在が見つけ出されていただろう!』その影はエクソダスの声の元となるものへ、怒りを込めながら指差した。『我々はガーゴイルの奴隷とゴーレムを失う危機にある!そうなったらどうするのです?あなたに助力を始めて以来、どのようにこのブリタニアを軍隊なしで征服するのか、あなたの口から聞いた試しがない!』

『この件についてお考えのことがあるようですな』エクソダスは静かに返事をした。

その影は腕を下ろし、落ち着きを取り戻した『あなたが提供してくれた今回の記録を調査しておこう。きっと他にも選択肢があると信ずる。でなければ、ガーゴイルシティーを失うのみだ』その暗い影は光の元を離れ、扉の方へと向かっていった。『やらねばならぬことがある。戻ってきたらまた話をしよう』

『お気の召すままに』

マントを身にまとったその影が手を動かすと、重たい扉がゆっくりと開いた。彼はエクソダスのほうに振り向くと告げた。『以前にも言ったと思うが、勝利が完全なものでない限り、私は満足することはない』

『あなたのブリタニアへの復讐は果たされるはず』エクソダスは言った。『しばらくの後には、全人類があなたをソーサリアの支配者、ロード・ブラックソーン(Lord Blackthorn)として知ることになるだろう』

ブラックソーンが振り向きその部屋を出るとき、彼は不敵な笑みを浮べずにはいられなかった。








8:34 2017/05/21

by horibaka | 2017-05-04 08:32 | その他 | Comments(0)
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ブリテイン市長、西部ガードを発令

投稿日:2001年11月1日

Morlice Johnson, BNN Reporter
全日本シャード
フィニガン(Finnigan)市長は今日未明、「西部農業地区の緊急保護措置(西部ガード)」適用を決定した。即日実施される見通し。


西部ガードとは
・他都市からの該当製品の積極輸入(市民有志による)
・市民有志による食料供与(今回は西部農家への収穫物寄付)
からなる保護措置である。


「被害は深刻だべや」ラムゼイ(Ramsay)さん(35才、農業)は畑の土を手に取りながらそうつぶやいた。
「土地開発の影響がここまでとはさ・・・」ブリテイン西に広がる畑地帯は、その立地条件の良さから、催し物や集会に頻繁に利用されてきた。それらの活動がブリテインの商業を支えてきた事は確かだが、畑本来の姿である、農業に深刻な打撃を与えている。
「昔は畑全部、キャベツやかぼちゃで土が見えないほどだったさ。」ラムゼイさんは昔を思い出したのか、遠くを見つめ語った。
「それが今じゃ、岩とねずみ以外なんも無いから、どうしょうもないしょ。」ラムゼイさんはしゃがみ込んで、荒れ果てた畑を見つめた。ラムゼイさんを始め、西部の農家は畑の再生に努め、収穫を維持しようと必死に努力したが、荒れた畑を整え、新しい苗を植えた頃には次の催し物が開催された。その繰り返しに農家は疲弊しきったのだった。
西部農業地区の調査報告を受けたフィニガン市長は、
「この一帯からの食料供給はブリテインにとって不可欠だ。急ぎ西部ガードの実施を検討する。市民の善意ある協力に期待したい。」と真剣な面持ちでコメントした。

また、西部ガードが実を結び、冬を越えるに十分な収穫物が集められた時は、「畑に優しい収穫祭」を計画中である事も明らかにした。しかし、その市長が企てた数々の催しに恨みを持つラムゼイさん達農家は、
「西部ガードなんて名前から格好悪いしょ」と懐疑的で、鍛冶屋憎けりゃバシネットまで憎い勢いだ。「収穫祭どころか、月末にはタロイモのへたすら無く、ブリテインを飢饉が襲うだろう」と一部ではささやかれている。初の適用となる西部ガード、その真価は月末に問われる事になる。
市民からの食料供与は、市設営の西の畑貯蔵テントで受付けている。








0:19 2017/05/20

by horibaka | 2017-05-03 00:17 | その他 | Comments(0)