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八雲のスローライフUO
by horibaka
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レクイエム【9】


・・・◆ 9/9 ◆・・・


十年後。
異形の外交使節団がブリタニアを訪れた。
ブリテインの王城はつい最近、新たな主(あるじ)を迎えたばかり
だった。
就任して間もないブリタニアの若き女王にとって、ガーゴイル族の
女王との会見が最初の公式行事となった。
大陸と島々のすべての都市が、会談の行方を固唾を飲んで見守った。
どの街角でも連日のように、タウンクライヤーのまわりには不安な
面持ちの人垣が出来ていた。
やがてヒューマンとガーゴイルの間には国交が結ばれ、ブリタニア
と、テルマーのロイヤルシティはムーンゲートで繋がった。
各地で開通を祝う祭典が催された。

わたしは何年かぶりにムーングロウを訪れてみた。
クラシックな雰囲気だった古い街並みは、多くの建物が斬新なパー
ツや派手な色使いの新しい建物に建て替わっていた。
よく晴れた秋の陽光の下、郊外には昔と同じように森や田畑や牧場
がのどかに続いていたが、それらもまた記憶の中にある風景とはど
こか違っていて、馴染みなく感じられた。
もしかしたら変わってしまったのは自分の方かもしれなかった。
どこへ行くというあてもなく、島のあちこちに足を伸ばしたあと、
わたしは自分の気持ちに嘘をつくのをやめて〈望遠鏡〉に足を運ん
だ。
その大きな機械仕掛けの建造物は、十年前と少しも変わらぬ偉容で
海辺の同じ場所に建っていた。
だが老学士はすでに他界しており、そこは観光名所になっていた。

街や村の家々には、ブリタニア王室の紋章とガーゴイル族の紋章が
並んで掲揚されていた。
ライキュームの中庭は、お祭り騒ぎの人混みで賑わっていた。
木のテーブルや丸椅子が並べられて、行商たちが景気のいい声で飲
み物や菓子を振舞っている。黒装束のパイ売りの前には、山のよう
にミートパイが積み上げられていた。
あちこちで花火ワンドから色とりどりの閃光が上がり、雪玉が飛び
交い、玩具の翼や角をつけた人間の子供達が走り回ってはしゃいで
いた。
中庭の噴水の前では、思い思いの楽器を手にした楽師たちが延々と
演奏を続けていた。
その曲は「Stones」だった。
島の有志や旅の楽師たちが自然と集まって演奏しているようだった。
異国風の紋様のローブをまとったガーゴイル族の楽師の姿もあった。
彼(または彼女)が手にしているのはアウド=チャーと呼ばれる弦
楽器で、ブリタニアではそれまで馴染みのないものだったが、その
音色はごく自然に人間の楽師たちの演奏と調和して、きれいなハー
モニーをあたりに放っていた。
だが、なぜ「Stones」なのだろう?
いい曲ではあったが、静かな物悲しいメロディは鎮魂歌(レクイエ
ム)のようで、中庭の賑わいからは浮いていた。
お祭りにお似合いの軽快な曲がほかにたくさんあるだろうに。
しかしその曲は、まるで地下を流れる水脈のように、騒がしい周囲
の空気の底を静かに流れ、一度それに気づいた者の耳を捉えて離さ
なかった。
その楽師たちの中に、わたしはエマの姿を見つけた。
指揮者もいない素人楽隊の中で、ひときわ高く美しい音色で切ない
旋律を響かせているのが彼女だった。
見つめていると、彼女の方でもわたしに気がついた。
わたしたちは中庭の喧騒を離れ、小道を並んで歩きながら話をした。
彼女が肩にかけているカバンには見覚えがあったので、わたしは思
わず微笑んだ。
すっかり背が伸びた彼女には、使い込まれたそのカバンもちょうど
いい大きさになっていた。
レクイエムがわたしたちを追うように、耳の中にいつまでもいつま
でも残った。

エマもいまでは、幼い日に出会った翼人がガーゴイル族だったこと
は理解しているようだった。
遠いあの日、森の奥で倒れているのを捜索隊に発見された彼女が、
背の高い異邦人のことを尋ねても答えは返ってこなかった。アンデ
ィがブリタニアに存在した痕跡はどこにも残っていなかった。
十年前にテルマー系ガーゴイルがムーングロウを訪れたという公式
な記録はない。
昔日の出来事はすべて厳重に歴史の闇に葬られており、老学士がロ
イヤルガードに送った警報も、森で見つかった爆発孔のことも、エ
マが知るよしはなかった。
だがそれでも、記録には残らない旅行者もいたに違いないと、エマ
は確信していた。
早すぎた旅人。
そのガーゴイルの旅行者はどうやってかアビス(深淵)を越えて人
間の土地を訪れ、また帰っていったに違いない、と。
十年の歳月はたくさんのものを変えてしまったが、遠くを見るよう
な目で思いを語るエマの姿に、わたしは幼い頃の彼女の面影をたし
かに見た。
遠かった。
すべてはあまりに遠く感じられた。
そのときわたしは彼女が旅装なのに気づいた。
そのことを聞くと、彼女はためらいのない言葉で説明した。
ガーゴイルの土地へ、彼を探しに行くの。
何年かかるかわからないけど、いつか必ず見つけ出すつもりよ。

エマの足が止まった。
そこはムーンゲートの前だった。
楽器のケースを肩に担ぎなおした彼女にわたしは、なぜ?と聞いた。
彼女は微笑んで答えた。

「友達だから」

曇りのない、陽だまりのような笑顔だった。
一度だけ振り返って手を振ると、水色の髪をなびかせて彼女の姿は
ムーンゲートの輝きの中に消えていった。


あなたがもしテルマーに行くことがあったなら、いまでもどこかで、
翼のある旅人の行方を尋ねて歩く娘の姿を見ることがあるかもしれ
ない。







(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


by horibaka | 2010-12-31 13:02 | その他 | Comments(0)
レクイエム【8】


・・・◆ 8/9 ◆・・・


森の中に夜の帳が降りはじめていた。
エマとアンディは大きな木の根元に腰を降ろして、しばし足を休め
た。エマはランタンに明かりを灯した。兵隊に見つかるかもしれな
かったが、夜の森の中で明かり無しでいる方が危険だった。
彼女はカバンの中を漁ってキャンディステッキの最後の一本を取り
り出すと、アンディに差し出した。赤と白の縞模様の菓子を受け取
ると、彼はそれを二つに折って半分をエマに返した。
「ともらちは、わけはうのよ」
小さな菓子の欠片を口いっぱいに頬張りながら、エマは思った。こ
の森のどこかにアンディの国への道があるのだろう。彼が話して聞
かせてくれた翼のある人たちの国テルマーと、その都ロイヤルシテ
ィへ通じる道が。祖父に別れを言えなかったのが気がかりだったが、
引き返すつもりはなかった。エマの心は自分でも気付かないうちに
この異邦人の友達に強く依存するようになっていた。
疲れたエマがうとうとしはじめる様子をアンディは黙って見つめて
いた。人間の姿に変身しているその顔には、焦燥の色を読むことが
できた。この幼い人間の子供を連れていてはとても間に合わない。
事態は分秒を争うだろう。過ぎていく一秒一秒が破滅に向かってカ
ウントダウンしているように感じられた。
だが自分が間に合わなければ、結局はこの地も戦火の渦中に飲まれ
るのだ。この子を連れてどこか他のファセットに逃げようかという
考えが一瞬よぎった。
どの道を選択するにしても、決断に時間はかけられなかった。

エマが気付いたとき、そばにアンディの姿はなかった。
慌てて辺りを見回すと、木々の間を歩き去っていく背の高いターバ
ン頭の人影がわずかに見えた。
「待ってよ!」エマは叫んで後を追ったが、アンディは聞こえない
のか立ち止まろうとしなかった。二人の距離はさらに開いていった。
見慣れた姿が、夜の中に遠ざかっていく。
(アンディが行っちゃう!)
必死で後を追ううちに、ずっとつかえていたものが外れて、止まっ
ていた何かが流れはじめるような気がした。小さな胸の中で急速に
大きくなっていくもの。置いていかれる不安。親しい誰かがいなく
なる不安。それは原初の感情だった。
すでに姿の見えなくなったアンディの名を叫びながら、エマは暗い
森の中を走った。走りながら目頭が熱くなり、たまっていた涙が堰
を切ったように溢れだして頬にこぼれた。
暗さと涙で前が見えなかった。下草に足をとられて転倒した場所は、
谷に突きだした高い崖の上だった。
彼女は悲鳴をあげて、真っ暗な谷底に頭から墜ちていった。

次にエマが目覚めたとき、自分が誰かの腕に抱きかかえられている
のが分かった。それはとても懐かしい感覚だった。
人間の変身を解き、本来の姿に戻ったアンディは、ガーゴイルの黒
い翼を大きく広げて羽ばたいていた。明るい二つの月を背景にして、
人間の少女を抱えたガーゴイルのシルエットが夜空を横切った。
エマは安心したように、再び意識を失った。


篝火の明かりの下で、女隊長は伝令からの報告を聞いた。
包囲網は完成し、各部隊は配置を終えた。女隊長は夜空を仰いで、
二つの月を見上げた。「夜明けとともに進軍を開始する」


二つの月の明かりの下で、黒いゲートは漆黒の光を発して揺らめい
て見えた。
それは異世界への門だった。門がこの大きさに開くまでには月齢が
ひと巡りするほどの時間がかかった。これを固定しておくためには
人間がまだ知らない強力な魔法が使われていた。
ゲートのそばには二人のガーゴイルがいた。外見からは異種族のシ
ルエットを見分けるのは難しかったが、片方のガーゴイルは将軍の
そばにいた若い文官に似ていた。二人の様子は上官と部下のようで
もあり、また父と子のようでもあった。
彼らの周囲の空間には、記録水晶から投影されたたくさんの小さな
映像がきらきらと輝きながら動いていた。
人間の土地、人間の家、人間の都市、人間の図書館、人間の港。そ
こに暮らす無数の人間たち。男、女、老人、子供…。水色の髪の少
女のたくさんの映像が、走り、止まり、話しかけ、海を見つめ、タ
ーバンを巻き、絵本を読み、首をかしげ、腕組をし、大きすぎるカ
バンを引きずり、水筒を差しだした。
もしこの場にガーゴイル語がわかる者がいたら、二人の会話はこん
な風に聞こえただろう。
「あなたのこの調査報告と勧告は、陛下も承認されました。将軍は
更迭され、テルマー国軍はすでに撤収をはじめています」
「間に合ってよかった」
「将軍は立派な武人でした。同胞思いの憂国の士でした」
「わかっている。この接触は早すぎたのだ。あと十年も経てば、ガ
ーゴイルもヒューマンも、もっと異文化への寛容さを学ぶだろう」
「ヒューマンはいずれ、ガーゴイルのよき隣人になるでしょう」
「だが、ゲートをこのままにはしておけない。ロイヤルシティの城
壁の外には、住む家を失った難民が日毎に増えている。政情はなお
不安定だ。他のファセットの土地を奪おうなどという暴挙が再び起
きないとも限らない。この門は破壊しなければならない」

短い抱擁が交わされたあと、片方の人影がゲートの中に消えて行っ
た。どちらが戻り、どちらが残ったのかは定かではなかった。
残った一人はしばらく佇んだあと、長い呪文(スペル)を詠唱し、
最後に印を結んだ。
黒いゲートを繋ぎ止めていた強大なエネルギーが解放される前触れ
に、夜明け前の空気がびりびりと震えはじめた。
「友達ダカラ…」
人間の言葉でつぶやいたその声を、聞いている者はいなかった。


早朝の朝もやに煙る森の奥で、ロイヤルガードたちは木々が広い範
囲にわたって同心円状に倒れている場所を発見した。
その中心には真新しい深い爆発孔が口を開けていた。
それは未明に轟いて島を震わせた爆発の現場に違いなかった。
激しい爆発だったことは、誰の目にも明らかだった。何者もこの付
近にいては難を逃れ得なかっただろう。
女隊長は長いこと現場を見つめていたが、やがて撤収命令を出した。
爆発孔の中には、何も残っていなかった。
何も。







(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


by horibaka | 2010-12-30 12:59 | その他 | Comments(0)
レクイエム【7】


・・・◆ 7/9 ◆・・・


ライキュームの敷地の中には兵士があふれていた。高位の学士や魔
道士たちが詰め寄って声高に抗議している場面もあったが、剣と甲
冑の前ではその声は無力だった。兵士たちは号令とともに回廊から
回廊へ進み、教室をひとつひとつ検分していった。そこかしこで物
が落ち何かが割れる音が響いた。大きなブリタニア儀が床に落ちて
壊れ、砕けた破片が宝玉のように辺りに飛び散った。
けたたましく足音と人声が交差する階上の物音を聞きながら、エマ
たちは地下の隠し書庫に身を潜めていた。若い見習いの学士や魔道
士たちは、二人を囲んで押し殺した声で早口に言葉を交わした。
「外へ通じるテレポーターはだめだ。みんな封鎖された」
「とにかく脱出しないと。ここもいずれ見つかる」
二人を救う理由を問う者はいなかった。少女と異邦人の危難を救え
るかどうかは、若者たちにとっては名誉の問題だった。
誰かが取り出したルーンが、見習い魔道士の手に渡された。
「村外れの墓地の裏だ。ゲートを出せ」
「む、無理だよ。第7サークルの魔法なんて!」
彼らは口々に、大丈夫だ、お前ならできると励まし、はやくやれ、
時間がないと急かした。そして自分たちのアクセを外すと、強引に
見習い魔道士に装備させた。許容量以上の魔法力の高まりに、彼は
顔を紅潮させ、震える声で呪文(スペル)を詠唱し印を結んだ。
地下の部屋に青いゲートが開いた。
見習い魔道士は鼻血を出して卒倒し、仲間たちはそれを支えながら
叫んだ。「エマ、いけっ!」


ロイヤルシティの城門の上を、ガーゴイルの編隊が低空で飛び過ぎ
て行った。もう一隊。そしてもう一隊。
遠目にも重武装しているとわかるその黒い編隊が城壁を超えて旋回
するとき、ゴーグルが陽光をきらりと反射した。
ガーゴイルの将軍はその様子を目で追った。戦端が開かれたときに
はまずあれらが出撃して、弓矢も届かない高空から人間たちの都市
を焼夷弾で空爆する手筈になっていた。
宮殿前の広場は、無数のガーゴイルの兵士で黒く埋め尽くされてい
た。その間を何頭ものボウラが低く唸りながら曳く大きな臼砲の列
が、ゆっくりと動いていた。
「命令はまだか」将軍の声は苛立っていた。「この期に及んで、陛
下は何を待っているのだ」
「最後の公聴会が開かれるのを待っておられるのでしょう」
傍らの若いガーゴイルの文官が答えた。
「ヒューマンは、練成も神秘魔法も知らぬ。所詮はただ地上を這う
だけの遅れた種族ではないか」苦いものを吐き出すように将軍は言
った。将軍は、この若い文官が嫌いだった。「国軍の精鋭はすでに
集結を終えた。あとは陛下の命令を待つだけなのだ」
「恐れながら閣下。相手が異種族なら何をしても良いという法はな
いのですよ」
「では聞くが」将軍は不機嫌そうに目を細めた。「ヒューマンは、
彼らの世界に同居する動物やモンスをどのように扱っているのだ? 
自分らの都合だけでそれらを殺生してはいないのか? 自分らこそ
が地上で最も高等な種族であり、他の生き物の生命を利用しても許
されると思い上がってはいないのか?」
若いガーゴイルは黙していた。彼には答え得ようもなかった。
「より高度な文明が、下位の種族の命運を左右してもかまわないの
だとヒューマンが考えているのなら、ガーゴイル族(われわれ)が
いま彼らの土地へ軍を進めるのにどんな躊躇がいるというのだ」


ムーングロウの街や主だった村には物々しい軍装のオスタードや軍
馬に騎乗した騎士や兵士たちが慌ただしく行き来していた。
彼らは街道や橋に検問を設け、市街に入る門を閉ざした。テレポー
ターやムーンゲートの周囲は特に厳重に封鎖線が敷かれ、軍用ヘル
ハウンドを連れた兵士たちが不審者の痕跡を探して巡回していた。

エマとアンディは街道を避けて、村の外れの木立を通り、畑の灌木
の影に隠れて走った。
牧場の傍の農家まで来たとき、テラスの揺り椅子に老女の姿見えた。
「いったい、どうしたんだい」老女は視力の衰えた目で、テラスに
上がってきた二人を見据えた。
そのとき、遠くでオスタードの鳴き声が聞こえた。
牧場の丘の向こうの小道を、騎士を乗せたオスタードが何頭かこち
らの方に向かってくるのが小さく見えた。
その姿はみるみる大きくなった。
騎士たちは農家の裏手でオスタードを降りた。ガチャガチャと鎧や
剣の金属が鳴る音がして、井戸や納屋を調べているのがわかった。
やがてその音は、テラスの方に近づいてきた。
重い足音に階段を軋ませて、騎士たちはテラスに上がってきた。
そこには揺り椅子に座った老女がいるだけだった。
「ご苦労さまでございます」老女は呆けたような声で言った。
騎士たちは老女を無視して、剣先で植木鉢の影を調べ、樽を叩いた。
家の中を調べていた騎士が出てきて首を振ると、彼らはオスタード
に騎乗し、来たときと同様に騒々しく去って行った。
その姿が見えなくなると、老女は小声で鋭く「もういいわ」と言っ
た。飾り樽のピンクの帽子が持ち上がって、樽の中からエマが顔を
出した。テラスの床下からはアンディが這い出してきた。
「あなたが何者かは聞かないわ」老女の声は静かだった。「信じた
道をお行きなさい。たとえそれが険しい道でも」

村外れの農道をガマンに曳かれた運搬車がゴトゴトと通っていた。
「とまれーっ」長槍を構えた兵士たちの検問が、運搬車を止めた。
「王立動物園のウィルソンだ」教授は御者台の上から通行手形をか
ざした。「いったい何事かね、この騒ぎは」
兵士はそれには答えず、横柄な声で行き先を問い質した。
「こいつらを森に帰しに行くのさ。おっと、手を出すと危ないよ」
荷台のケージを覗こうとしていた一人が、慌てて身体を離した。ケ
ージの中は暗くてよく見えなかったが、たくさんのモンバットがひ
しめいているようだった。森は立ち入り禁止だと兵士は告げた。
「森に入るわけじゃない。近くでリリースするだけだよ」
兵士たちは槍を収めて、運搬車を通した。
検問から十分に遠ざかると教授は運搬車を止めて、荷台に向かって
言った。「ここまで来れば大丈夫だろう」
ケージの戸が内側から開き、エマとアンディが顔を出して外の様子
をうかがった。モンバットたちはゴロゴロと喉を鳴らして二人に身
体をすりよせてきて餌をねだった。
森へ急ぐ二人の姿が見えなくなるまで、教授は黙って見送った。
長かった一日も暮れようとしていた。夕暮れが迫っていた。






(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)

by horibaka | 2010-12-29 12:56 | その他 | Comments(0)
レクイエム【6】


・・・◆ 6/9 ◆・・・


外の空き地では、メイジ評議会から派遣された魔法使いたちが、せ
わしなくリコールを繰り返し、現れたり消えたりしていた。マナレ
ベルが低下して移動魔法が使えないエリアの大きさを測量している
のだった。誤ってリコブロックしないように、マークポイントの脇
には目印の旗(フラッグ)が立てられていた。
「よくメイジ評議会が動いたな」
「この世界が外部からの侵略の危機にあるときは、体制も反体制も
ないわ。すべての派閥は政争を停止して団結するの。彼らもブリタ
ニアンなのよ」
それは怪しいなとわたしは思ったが、口には出さなかった。
「見つけやしたぜ」ネクロマンサーが低い声で言った。
テーブルの上の大きな水盤の水面には、森の中の光景が映っていた。
「あの木の根元でさあ。不可視の結界を張って隠しているが、空間
の歪みまでは隠せねえ」
「結界に入って」
「探知されますぜ」
「かまわないわ。やって」
映像がちょこちょこと動いて視点が前進した。それはネクロマンサ
ーが森に送り込んだ使い魔の眼を通した映像だった。生き物の死骸
から作り出された使い魔は、それ自身の体内に強いマナ源があるの
で、自然のマナが少ない場所でも活動できるのだった。
視点が進むと、水盤の水面には不気味に鈍く光る黒いものが現れた。
それは黒色のゲートだった。
「あいつですぜ。あれが、このあたりのマナをずっと吸い続けて成
長していたに違いねえ」
「ゲートの中へ」女隊長は水盤の映像から目を離さずに言った。
視点はさらに前進して、ゲートの向こうの世界を映し出した。
映像は滲んだように不鮮明だった。
どこともしれない場所に、たくさんの異形の人影が整列していた。
蝙蝠のような黒い翼、頭頂には二本ないし三本の角、そして鋭い鉤
爪。異形の人影はどれも同じような装束をまとい、サッシュをかけ、
見間違えようもなく武装していた。それは異形の軍隊だった。
「探知されやした」
「使い魔との接続を切りなさい」
「残念ながら」老学士は太い嘆息とともに言った。「今回も誤報で
はなかったようだな」
「通信兵!」女隊長が命令すると、兵士の一人が背負っていた箱を
テーブルの上に置いた。蓋を開けると、中は幾つにも仕切られてお
り、そのひとつひとつにはラベルを貼られたコミュニケーションク
リスタルが収まっていた。
「ブリテイン。王都防衛師団本部を」
兵士はクリスタルのひとつを手にとった。それに向かって何度か呼
びかけると、雑音の向こうから応答する声が聞こえてきた。
「師団本部、出ました」
女隊長はクリスタルを受け取ると、その場にいる者たちにも聞こえ
るように大きな声で言葉短く命令を下した。
「警報”赤”。繰り返す、警報”赤”」
騎士や兵士たちの間に緊張が走るのがわかった。
ブリタニア全土は、いま、戦争状態に入ったのだった。
命令を繰り返す伝令たちの声が、木霊(こだま)のように辺りに広
がっていった。〈望遠鏡〉の内部も、外も、にわかに騒然さの度を
増した。魔法使いたちは外の空き地に一列に並ぶと、一斉にゲート
魔法を詠唱した。開いた青いゲートのそれぞれからは、ブリタニア
の各地で待機していた兵団が次々とゲートアウトしてきた。
トリンシックのオスタード騎士団、ユー方面師団の旗印を掲げた装
甲沼ドラ騎兵、ジェロームの傭兵たち。
ずしんずしんと重々しい地響きをたててブリタニア最強の兵器が通
り過ぎて行った。厚い鱗に覆われた巨体を揺すって闊歩していくグ
レータードラゴンの群れだった。彼らの吐く強力なブレスに焼かれ
た土地は、十年は草木も生えないだろうと言われていた。
国庫の窮状を知らぬでもないわたしには、会計係の泣き顔が見える
ようだった。これだけの費用を捻出した後では、サー・ジョフリー
の軍用金庫にはゴミしか残らないだろう。
「何をしているの。はやく接続を切りなさい!」
女隊長の鋭い声が響いた。ネクロマンサーは先ほどから、何度も何
度も同じ印を結んでいた。その顔には汗が噴き出ていた。
「だめだ、切れねえ! 向こう側から掴まれて…」言いかけて、ネ
クロマンサーは恐ろしい悲鳴をあげて弾かれたように椅子から立ち
上がった。大きく見開いたその眼は、虚ろなレンズのようだった。
彼の硬直した身体は機械人形のようにぎくしゃくとした動きで部屋
の中を見回した。そして開け放たれたままのドアの外に展開されて
いる光景に顔を向けた。
鈍い音がして、ネクロマンサーの身体は床に崩れた。
女隊長はその背から抜き取った血の滴る剣を、傍らの兵士に返した。
「見られたわ。彼らも気づいた」彼女は冷徹な声で、全軍に出撃準
備の命令を伝達するよう伝令に命じた。
そのとき、老学士がはじめて気づいたようにわたしに言った。
「エマは?」


森の中の廃屋の扉が蹴り破られた。
床の上の、ページを開いたままの読みかけの絵本を、泥のついた軍
靴がいくつもいくつも踏んでいった。砂時計が割れて、砂が床に飛
び散った。ブリタニアのロイヤルガードたちは、手に持ったランタ
ンで薄暗い小屋の中を隈なく照らした。
小屋の中には、誰もいなかった。

このところアンディはライキュームに入り浸りだった。ライキュー
ムには、彼の調査の答えがあったからだ。そこはブリタニアの学問
の総本山であり、学術と魔法の研究所であり、学府だった。その図
書館に収められている膨大な蔵書からは、ブリタニアの文化と歴史、
人間(ヒューマン)の社会や思想、科学と魔法のレベル、そして軍
事力と兵法などを知ることが出来た。
今日も図書館の閲覧席で分厚い書籍のページをめくるアンディのそ
ばで、そろそろエマが待つのに飽きはじめていた。
そのとき、一人の若い学士見習いが慌ただしく駆け込んできた。
司書が鋭く「しぃーっ!」と注意するのも気にせず、彼はローブを
翻してエマに駆け寄った。
「表にガードがたくさん来ている」息を切らせて彼は言った。「旅
行者や外国人を片っ端から逮捕している。すぐにここにも来る」
言わんとすることは、エマにもわかった。誰が怪しいと言って、ア
ンディほど怪しい人物はいないだろう。
どうしよう、とエマが言うその言葉も半ばに、「こっちだ」学士見
習いは二人を急きたてて、一方の扉から外の回廊に出た。






(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)

by horibaka | 2010-12-28 12:53 | その他 | Comments(0)
レクイエム【5】


・・・◆ 5/9 ◆・・・


わたしがムーングロウを訪れたのは、ちょうどその頃だった。
老学士とは歳は離れていたが、古い友人だった。投宿先のスカラブ
レイの酒場に届いた彼の手紙には、なにか急を告げるものがあった。
あとから思えば、このタイミングがもう少し早くても、遅くても、
わたしがこの物語のことをわずかでも知る機会はなかっただろう。

島に一つだけのムーンゲートから出たとき、時差で少し目眩がした。
スカラではまだ宵の口だったが、ムーングロウは早朝だった。
島のゲートは海抜の高い場所にあるので、気圧の差で耳が鳴った。
いったん徒歩で市街に入り、そこからテレポーターを乗り継いで、
島の南端近くに飛ぶ。あたりの景色はようやく朝日に照らされはじ
めた。綿畑の綿花が一斉に開花して、一面に白く輝いて見える。
朝もやに霞む田畑の中の小道を足早にくだっていくと森の外れの、
海を臨む岬の上に、大きくて複雑な外観の金属製の建造物がその見
上げる上部に朝日を反射して輝いているのが見えた。
それが〈望遠鏡〉だった。
母屋の戸を叩こうとしたわたしの目の前でドアが勢いよく開いて、
女の子が飛び出してきた。
「おはよう、エマ。おじいさんは起きてるかい?」
「おはようございますっ」顔見知りの少女は息を弾ませて答えた。
「おじいさんはまだ〈望遠鏡〉の中だお」
それからふと、何か思いついたように、急に声をひそめて言った。
「ねね、八雲さん。背中に羽根がある人のこと、知ってる?」
何の話だい?と聞き返そうとしたとき、
「今度の友達は、羽根があるのかい」声が頭上から降ってきた。
見上げると〈望遠鏡〉の上部の点検用の小窓から老学士が顔を覗か
せていた。少女は祖父の言葉には答えず、小道をパタパタと駆けて
行ってしまった。


〈望遠鏡〉というのは、この世界(ファセット)の空間の歪みや亀
裂を観測する巨大な機械装置で、その動作原理は半分は科学的、も
う半分は魔法的なものだった。もともとは学術目的で建てられたも
のかも知れなかったが、いまではここはブリタニアの早期警戒網の
一端となり、老学士の一族が代々世襲で任についていた。
ここはかつて、ブリタニアの誰よりもはやくミナクスの襲来を探知
した場所だった。オフディアン侵攻の最初の警報もここから発信さ
れたのだった。
内部の観測室は薄暗いが、かなり広い。わたしはテーブルの上の指
しかけのチェスボードに手を伸ばして、自分の駒を1つ動かした。
年に何回かこの場所を訪れるたびに数手づつ進めている勝負は、も
う何年越しになるだろうか。
「いい子なんだがね、同じ年頃の友達が出来なくてね」老学士の声
には、疲労の色が濃かった。「それでいつも、想像で友達をつくっ
て一人遊びをしてるんだ」
「まだ治らないのかい?」その問いに、老学士からの返事はなかっ
た。返事がないことが、答えだった。
数年前、流行病(はやりやまい)がこの地方で猛威をふるい、たく
さんの火葬の煙が空に立ち上った年以来、エマは笑うことも泣くこ
ともなくなった。何年たっても、幼い顔立ちは人形のように無表情
なままだった。
老学士は分厚い観測日誌をテーブルの上に開いて、ページをめくり
ながら話しはじめた。
「どんな魔法もそれが発動する時には、目に見えない痕跡を空間に
残す。魔法の発動にはマナを消費するからだ。そしてその痕跡は、
魔法の種類によって異なる」
老学士の指が、開いたページの図表や数字を追っていった。
「四週間前、きわめて強力な魔法の発動が観測された。投射型リコ
ールというのを聞いたことがあるかね?」
わたしは首を振った。老学士は続けた。「マークされたルーンを使
わずに、詠唱者を別の世界に直接投射する魔法だ。もちろん、いま
の人間にはそんな魔法はないが、エルフ族の古い文献に出てくる呪
文(スペル)と観測結果が一致した」その意味はわたしにも分かっ
た。何者かが未知のファセットからブリタニアに侵入したのだ。
老学士はテーブルの上にブリタニアの地図を広げた。
「ケンダル山とマジンシアの測候所からも、同様な報告があった。
三点観測で、おおよその場所を特定することができた」
「どこなんだ?」
「この島だよ! ムーングロウのどこかだ。これを見てくれ」
老学士は、さらにムーングロウの地図を広げた。「ここ数週間、島
の中央部の森林地帯のマナレベルがどんどん下がっている。そのエ
リア内では通常の魔法はもう使えないし、エリア上を移動魔法で通
過することも出来ない」
老学士の様子はすっかり憔悴しているように見えた。
「何が進行しているのか、もはや魔法的手段で観測することも出来
ないが、想像するに難くない」老学士の声は乾いていた。「まず尖
兵を派遣し、のちに本隊が上陸する。それは侵略の基本だ」
そのとき、にわかに騒々しい人声が建物の外であがった。

部屋のドアが乱暴に開いて、帯剣した騎士たちがどやどやと中に入
ってきた。ロイヤルガードだった。
開け放されたドアからは、外の様子が垣間見えた。建物の前の空き
地には青いゲートが開かれており、さらに人影を吐き出している。
「遅くなってごめんなさいね」騎士に続いて入ってきた女が言った。
彼女が動くと、長いブロンドの髪が締まった腰の上で揺れた。
「いままで何をしていたんだ!」老学士は声を荒げた。
「警報を送ったのは、四週間も前なんだぞ。いったい…」
「〈望遠鏡〉から警報が来るのは久しぶりだったのでね」女は悪び
れる様子もなかった。「それに、誤報も多いようだし」
後年に知ったことだが、老学士が送った警報は、彼女の元に届くま
での官僚的なステップのどこかでずっと滞留していたのだった。
わたしは彼女を個人的にも知っていた。国王不在のいま、ロイヤル
ガードの全指揮権はこの女隊長が預かっているのだった。
「警報”黄”の警戒態勢を発令してきたわ。今頃はブリタニアの主
要都市の部隊は、派兵準備を完了して待機しているはずよ」
豊かな胸の上で腕組をして、女隊長はぞんざいな口調で言った。
「今回も誤報であることを祈っているわ」
その視線が一瞬わたしの顔に止まったような気がした。思い出すよ
うな何かがあったとしても、もう何年も前のことだ。
建物の内外で、点呼をとる声や指示を叫ぶ声が交差していた。
兵士たちは日誌やチェスボードを無造作に床に払い落して、テーブ
ルの上になみなみと水の入った大きな水盤をのせた。
一人の魔道士が大股で入ってきて、その前の席に腰を降ろした。
その男は死霊魔道士(ネクロマンサー)だった。







(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)

by horibaka | 2010-12-27 12:50 | その他 | Comments(0)
レクイエム【4】


・・・◆ 4/9 ◆・・・


エマとアンディが連れだって散策する姿は、島のあちこちで見かけ
られるようになった。いつしかそれはムーングロウの日常の風景に
なった。元来おおらか人々は、この背が高く頭におかしな布を巻い
た”おじいさんのお客さん”を受け入れた。
皮肉なことに当の老学士本人はそんなことは露知らず、一日中〈望
遠鏡〉の観測室に引き籠って誰にも会わなかった。

ある日、エマはアンディを連れて、牧場の傍の農家で一人暮らしを
している老女を見舞いに行った。
老女はテラスの揺り椅子に座っていた。二人が行ったとき、近所の
娘が刈ったばかりの羊毛を届けにきたところだった。
「紡ぐのは、腰が良くなってからでいいんだからね」青い帽子を被
った小柄な村娘は、無理はしないでねと念を押し、エマたちに陽気
に手を振ると、ラマに乗って帰っていった。
アンディはテラスの隅に置いてある樽が気になって仕方がないよう
だった。それは樽を使ったオブジェで、ピンクのフロッピーハット
がのせてある、ブリタニアではどこにでもある飾り樽だった。
「わたしの息子も」老女は衰えた目でアンディを見上げた。「派閥
戦争がなければ、あんたくらいの歳になっていたろうかね。むかし
は大きな戦争が幾度もあったけど、それで大勢死んだけど、いまは
ずいぶん平和になったよ」
それからエマを振り返って言った。
「エマや。裏の井戸で水を汲んできておくれ」
エマの姿が見えなくなると、老女は静かな声で言った。
「あなた、人間じゃないわね」アンディは急いで自分の身体を調べ
たが、人間の変身は解けていなかった。「目が不自由な分、わたし
にはいろんなことが分かるのよ。どんな種族なのかは大事なことじ
ゃないわ。大事なのは相手を思いやる気持ちよ。それを忘れないよ
うに。エマと仲良くしてあげてね」

別の日、二人が王立動物園に行くと、そこにはガマンに曳かれた運
搬車が止まっていた。荷台には鉄製の大きなケージが積まれていた。
中は暗くてよく見えなかったが、何か生き物がいる気配がした。
「手を出したら危ないよ」
ウィルソン教授に注意されて、エマは伸ばしかけた手を引っ込めた。
そっと近付いてケージを覗くと、中にはたくさんのモンバットがひ
しめいていた。
「この子たちをどうするの?」
「どうもしないよ。モンバットじゃ、客は来ないからね」
教授はそう言うと、ケージの中に餌を撒いた。
「生態系に異変が起きているようなんだ。森に住むモンバットが、
このところ里に出てきてね。田畑を荒らして困るので、猟友会に頼
んで捕獲してもらったんだよ」
「森で何が起きているの?」
「知っての通り、どんなモンスも基本的には魔法の力に依存してい
る生き物だ。マナの少ない土地では、モンスは生きられない。何か
の原因で、あの一帯のマナレベルが低くなっているのだろう」
餌の残りをエマに手渡して、教授は優しく言った。「なあに、こう
いうことは自然界では時々起ることだ。生態系が十分に回復したら、
また森に帰してやるさ」

ライキュームの学舎の中庭は、ちょっとした庭園になっていた。石
造りの古い建物に囲まれて、そこだけはよく手入れされた花壇や果
樹の緑が目に和む憩いの場所だった。
アンディは噴水の縁に腰を下ろして、図書館から借り出してきた分
厚い書籍に熱心に目を走らせていた。エマはその横に座って、辛抱
強く待っていた。
「エマ、魔法は上達したかい?」
通りがかった数人の若い学士や魔道士の見習いたちが声をかけてき
た。まだ新しいローブを粋に着こなした若者たちは、手に手に学術
本や呪文本(スペルブック)を抱えて、教室を移動する途中だった。
「ぜーんぜん」エマが素っ気なく答えると、彼らは屈託のない声で
笑い、口々に、がんばれよ、ぼくが個人授業してやろう、お前じゃ
無理だ、などと勝手なことを言い合った。
「エマのじいさんは、魔法嫌いだからな」
「ムーングロウは学術と魔法の都だ。魔法と科学は車の両輪なんだ」
「その台詞、昨日の授業で聞いたなw」
彼らはすぐに、自分達の会話に夢中になった。
「魔法が科学の発達を阻害していると主張する学士は、意外に多い
んだよ。例えばブリタニアの医学や薬学は、回復魔法に頼りきって
いるせいで遅れている。だから、既成の回復魔法が効かない疫病が
流行するたびに…」
「おい!」
調子に乗って長口舌をふるいはじめた一人を、他の者が肘で小突い
た。小突かれた方は、はっと気づいてばつが悪そうな声で本当にす
まなそうに言った。
「ごめんよ、エマ。気を悪くしたかい?」
「ぜーんぜん」

ライキュームからの帰り道は、眺めの良い小高い丘を通る道だった。
気持ちのいい風が吹きすぎて、道端の草花を揺らした。
「アレハ、ナニ?」アンディはびっくりしたような声をあげた。
彼が指さした先は、港だった。防波堤の内側の桟橋にはたくさんの
帆船が停泊し、入港する船と出港する船の航跡が交差していた。
「あれは船だお。アンディの国には、お船はないの?」
「アンナニ大キナノハ、ハジメテ見タ」
「アンディの国には、湖や海はないの?」
「アルヨ。デモ、ワタシタチハ、飛ベルカラ。船トイウモノハ、ア
マリ発達シナカッタンダ」
エマはじっと彼を見つめた。
「旅人は、いつか国に帰るんだよね」
「ソウダネ」
「あたし、アンディの国を見てみたいな。練成ができるフォージや、
ロイヤルシティの宮殿や博物館や、でっかいもふもふの羊を見てみ
たい。お願い、アンディが帰るとき一緒に連れて行って」
アンディはそれには答えず、エマの頭をただ優しく撫でた。
「友達は、見捨てないのよ」
「友達ダカラ」


月は欠け、また満ちていった。
ブリタニアの時間は、あっと言う間に過ぎていった。アンディは何
事か考え込み、無口になることが多くなった。別れのときが近づい
ているのを、エマの幼い心は敏感に感じ取っていた。






(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


by horibaka | 2010-12-26 12:46 | その他 | Comments(0)
レクイエム【3】


・・・◆ 3/9 ◆・・・


アンディは本好きだった。
絵本のページを開いては、次々とエマに質問した。
「コレハ、ナニ?」
そのページには、二人の子供が遊んでいる絵が描いてあった。
「それは、子供と子供。二人は友達なの」
「友達トハ、ナニ?」
「よく分からないわ」無表情ながらも、声はさすがに飽きていた。
「仲良し、ってことかな」
アンディはしばらく考え込むように黙っていた。それからゆっくり
と、試すような口調で言った。
「ワタシト、エマ。友達?」
「そうねえ。友達かなあ」
「ワタシ、エマノ友達」
「うんうん」エマの表情が少し明るくなったように見えたのは、窓
から斜めにさす午後の陽射しの加減のせいだったのかも知れない。
「友達はね、助けあうのよ」
「友達ダカラ」

アンディは人間の文字も容易に覚えてしまった。エマの持ってきた
絵本はすぐに読み尽くして、他の本を読みたがった。
ある日、祖父が手紙を出してくると言って珍しく外出している隙に、
エマは〈望遠鏡〉の地下の書庫への階段を下りて行った。
ランタンをかざすと書庫の入口の上に刻まれたロイヤルガードの紋
章が見えた。ここがライキュームの施設ではなく、実は軍の施設で
あることを知っている者は少なかった。
エマは書庫の棚から歴史や文化に関係ありそうなタイトルを探して
いつも引きずっている大人用の大きなカバンに入れていった。
書庫の壁にはたくさんの肖像画がかけられていた。そこに描かれて
いるのは、どれも祖父と同じように学士のローブを着て、同じよう
に高齢な老人たちばかりだった。一枚をのぞいて。
いちばん端のその絵には、まだ若い男が描かれていた。普段着姿で、
優しそうな顔に水色の髪。腕には小さい女の子を抱いている。
すでに世を去った代々の肖像たちが見守る中、エマは黙々と本を物
色していった。


身体が回復して歩けるようになると、アンディは外に出たがった。
森の外れまで来ると、彼はエマに、見ていろというようにウィンク
をして、ポリモーフの魔法の呪文(スペル)を詠唱した。
ぼんっ!という音がして、ガーゴイルは人間の姿に変身した。
「ドウダ? ワタシ、人間ニ見エルカ?」
変身は、ある一点を除いて完璧だった。
人間の姿に変身したガーゴイルには頭髪がなく、2本の角が残った
ままだった。エマはアンディの頭に布を巻いてターバンにした。
エマが先に立って、二人はのどかな村の道を歩いた。
人の姿に変身していても、背の高いアンディのターバン姿は田舎の
路上ではかなり目立った。だが港に近いこのあたりには外国の旅行
者が訪問することも多く、二人を見咎める者はいなかった。
彼女は少し大胆になり、アンディを連れて村の魔法屋に入った。
顔見知りの魔法職人の親方は「やあ、エマ」と言ったあと、入口に
頭をぶつけたアンディに目をやった。「そのでかいのは誰だい?」
「ワタシ、友達ダカラ」
「おじいさんのお客さんなの」挨拶をしようとするアンディを遮っ
て、エマは話題を変えた。「商売はどう?」
「ぼちぼちだな。さっきも、うちで買ったアクセが不良品じゃない
かって文句を言いに来た客がいてな。リコールを唱えたのに、何も
起きなかったんだと言いやがる」
「それで?」
「ここでもう一回やらせてみたら、問題なくどっかへ飛んで行って
それっきりさ。どうせ何かがブロックしてたんだろうよ」
「ねね。今日は、いいものある?」
「いつもの箱の。好きなのを持っていっていいよ」
店内には高価なアクセの陳列ケースや、魔道ワンド、秘薬セットの
袋などが所狭しと置かれていた。その隅に”いつもの箱”があった。
中に入っているのは売り物にならない半端なプロパティのアクセ類
だった。どれもゴミ同然の代物だが、エマが魔法の練習で使うくら
いの用には足りた。彼女が親方を真似て、ひとつひとつ手にとって
は片目をつぶって透かし見て品定めする様子を、親方は仕事の手を
休めて笑いながら見ていた。
「ワタシ、練成デキルヨ」アンディが得意そうに言いだした。
「ソウルフォージハ、ドコデスカ」
「なんだい、そりゃ」親方は疑わしげな目つきでアンディを見た。
「フォージなら鍛冶屋にあるだろ。ここは魔法屋だぜ」
アンディがなおも何か言いかけたので、エマは彼の足を踏みつけた。
もう帰らなくちゃと言って、アンディの背中を押して店の外に押し
出した。

夜、エマが家に帰っている間、森の中の小屋でアンディは手のひら
にのせた小さな水晶球を見つめていた。
それは彼がローブの中の隠しポケットに入れてこの世界に持ってき
た道具のひとつだった。
水晶球の中では、森で彼が眼を覚ましてからの出来事が小さな映像
になって早送りされていた。彼は時々映像を止めて、水晶に向かっ
て小声で注釈を吹き込んだ。魔法屋のシーンでは、彼はガーゴイル
族の言葉でこう言った。「人間ハ、マダ練成ヲ知ラナイ」
映像がエマのアップになって停止した。人形のように整った顔立ち、
だがその顔にはどんな表情も浮かんでいない。
アンディは、しばらくの間その映像を見つめ続けた。
それから彼が手を握り、また開くと水晶球は別の映像を映した。
それはガーゴイルの子供のポートレートだった。まだ幼いガーゴイ
ルが無邪気な表情で見る者に笑いかけている。
アンディは、エマが置いていった絵本の一冊を手にとった。
開いたページには、珍妙な帽子を被った道化師がおかしなポーズで
人々を笑わせている絵があった。

次の日、小屋に戻ったエマは戸口を入ったところで立ち止まった。
アンディは、夜の間にありあわせのものでつくった道化帽らしきも
のを頭にのせ、絵本の道化師と同じポーズで立っていた。
小屋の中にしばし、恐ろしい沈黙が流れた。
「もしかして、あたしを笑わせようとしてる?」
ガーゴイルは道化のポーズのまま、こくこくと頷いた。
「友達ダカラ」
「ありがとう、すっごく面白いお」
いつもと同じ無表情な棒読みの声でエマが言った。






(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)

by horibaka | 2010-12-25 12:42 | その他 | Comments(0)
レクイエム【2】


・・・◆ 2/9 ◆・・・


森の奥の、石造りの小さな廃屋がエマの秘密の場所だった。
ブリタニアの治安がいまほどよくなかった時代、ムーングロウにも
しばしば戦火が及んだことがあった。また海賊が横行した時代には、
上陸した海賊団が村を焼き払っていったこともあった。
そんなとき人々は森に逃げ込んで難を逃れた。そのため森の奥深く
には、幾つもの隠れ里があったのだが、時代が下り、総じて世の中
が平和になるにつれてその存在は久しく忘れ去られてしまっていた。
その小屋も、そうした古い時代の名残だった。
小屋の中はそれなりに片付いていて、いままでエマが少しずつ家か
ら運んできた雑貨や人形などがちまちまと並べられている。
そしてシーツをかけたベッドの上には、あの有翼の異邦人が寝かさ
れていた。

エマが小屋に入ると、ガーゴイルは目を覚ましていて、ひどく警戒
した様子を見せたが、彼女が一人なのがわかると差し出された果物
を受け取って食べた。
その様子を見つめるエマの顔には恐れもなかったが、感慨もなかっ
た。人形のように整った顔立ちは、まるで無表情だった。
「あなたの名前はなんと言うの?」
エマが聞いた。
「ナマエ?」
ガーゴイルはエマの言葉を繰り返した。
エマは自分の胸に手を当てて「エマ」と言い、そしてガーゴイルを
手でさして待った。
ガーゴイルはその仕草を真似て自分を手でさし「エマ」と言った。
「ちなうよ、エマはあたし」
ガーゴイルは間違いに気づいて、自分を指さして何か言ったが、そ
の音節は人間の可聴範囲を超えていた。森の中の何処か遠くで犬が
激しく吠えた。
「わかんないよ」
ガーゴイルは少し考えてから、ゆっくりと言い直した。
「ワタシ、旅ヲスル者」
「旅人さんね」
「ワタシ、旅人」そして彼女を指さして「エマ」
エマは頷いた。“旅人“は名前ではないが、話が通じたのは進歩だ
った。次の質問を考えていると、ガーゴイルの方から聞いてきた。
「ナゼ、タスケル?」
「おじいさんがいつも言ってるから。困ってる人は助けてあげなさ
いって。人は助け合わなきゃいけないって」
「人ジャナイ」
「見ればわかるよ、そのくらい」
「怖クナイノカ?」
「怖いって、わからないから」
そう話す彼女の声は、淡々としていて起伏がなかった。
「あたし病気なの。そういうの、わからないんだ。嬉しいとか、悲
しいとか、怖いとか」
「人間ハ、ミンナ、ソウカ?」
「あたしだけだよ。心の病気なんだって」
ガーゴイルは瞳のない目でエマを見つめた。
「だからあなたのことも怖くない。困ってるなら助けてあげるよ」
「他ノ人間、キット怖ガル。ワタシ、ココイル、ヒミツ」
ガーゴイルが人間の言葉を覚える速さは、尋常ではなかった。
エマがもう何歳か年長だったら、彼に念話の能力があることに気づ
いたかもしれない。
「とにかく、呼び名がないのは不便だから」エマは腕組をして、首
をかしげた。「何か名前をつけてあげなくちゃね」
「ワタシノ名前、エマ、ツケル」
「木の下に倒れていたから、あなたの名前は“アンダーツリー“」
「長イヨ」
「それじゃ、縮めてアンディね」


それから毎日、エマはせっせと森の奥の小屋に通った。
祖父はエマの行動に気づいた様子もなく、ほとんど一日中〈望遠鏡〉
の観測室に籠っていた。
たまに母屋に戻ると、台所の方から「エマ、フライパンを見なかっ
たか?」などと姿も見せずに声だけかけてきた。
「知らないよお」
エマは大きな声で返事をすると、カバンからはみ出ているフライパ
ンの柄を押さえながら、森への小道をパタパタと駆けていった。

エマは祖父の食糧庫から持ち出した肉や魚をフライパンで調理しよ
うとしたが、何度詠唱しても発火の魔法は失敗した。
「おかしいなあ。簡単な魔法なのになあ」
アンディと呼ばれることになったガーゴイルは、何か小さな器具で
火を起こすと、エマからフライパンを受け取り、器用に調理した。
「アンディって、お料理上手だね」
「旅人ダカラ」
エマは他に何冊も絵本を持ってきていた。アンディが字の読み方を
教えてほしいと頼んだからだった。小屋の中にはその他にも、彼の
興味を引く物がいろいろあった。
「コレハ?」
アンディは水晶球を指さして聞いた。
「街水晶だよ。それはミノックの風景」
水晶の中には、どこかの街の画像がおぼろに浮かんで見えた。
「コレハ?」
「アワーグラスだよ」
それは魔法を使った砂時計の玩具で、ブリタニアでは珍しいもので
はなかった。上の砂が落ちきると、魔法で上下が回転してまた砂が
落ちはじめ、延々とそれを繰り返すというものだった。
だが、いまそれは動いていなかった。
「おかしいなあ。壊れちゃったのかな」
エマは砂時計をひっくり返してみたが、上の砂が落ちきるとそれで
終わりだった。
「コレハ?」
アンディは別の物を指さした。
「それは楽器。吟遊詩人さんみたいになりたいんだ」
エマはそう言うと、子供用の弦楽器を手にとって構えた。
「一人で練習しても、すぐに飽きちゃう。聴いてくれる人がいない
んだ。アンディ、聴いてみる?」
「ナントイウ曲?」
「ストーンズっていう曲だお」
エマが楽器を弾きはじめると、なぜ聴き手がいないのかが明らかに
なった。小屋の中に耐え難い不協和音が鳴り響いた。






(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


by horibaka | 2010-12-24 12:39 | その他 | Comments(0)
レクイエム【1】


・・・◆ 1/9 ◆・・・


深夜。
風のない夜空には、明るい二つの月がかかっていた。それはまるで
島を見降ろす二つの目のようにも見えた。
月はすでに中天からだいぶ傾き、街や村の家々は灯りを消して寝静
まっていた。港には出入りする船の灯火はなく、停泊している大型
船もみな灯りを落とし、帆をたたんでひっそりとしていた。単調な
波の音だけがただ寄せては返していた。
日中は人通りの多いライキュームの寄宿舎や講堂も、この時間は出
歩く者の姿もなかった。
王立動物園では、夜行性のモンスだけが光る目で檻の中をうろつき
ながら、時折低い唸り声を漏らしていた。
月の光(ムーングロウ)の名前をいただくこの島も、いまは草木も
息をひそめ、深い静寂が支配していた。

島の南端近く、岬の崖の上に建つ大きな建造物の中では、一人の老
学士がまだ起きていた。
天文台に似た外観をしていることから〈望遠鏡〉と呼ばれるその建
造物の内部はどこも薄暗く、びっしりと並んだ機械装置のランプの
明かりが浮かび上がって見えた。大小さまざまな歯車(ギア)がカ
タカタ、カチカチと音をたてている。
老学士の傍の大きなテーブルには、分厚い日誌や書籍がいまにも崩
れそうなほど積み上げられており、その隅には指しかけのチェスボ
ードがのっていた。
老学士は機械装置のひとつを覗きこみながら、観測記録の日誌にペ
ンを走らせていた。
そのとき、装置のひとつにランプが点灯した。錆びた鐘のような警
報の音が鳴った。老学士は怪訝そうに眉根を寄せ、ゆっくりとそち
らを振り返った。その表情が険しくなった。
それはもう何年も鳴ったことがない音だった。


ムーングロウの〈望遠鏡〉で観測された警報は、魔法的な力によっ
て、ほぼ同時刻に、遥か遠く離れたブリタニア大陸本土の某所にも
送られた。


島の中央部を覆う広大な森の奥深く。
ふいに強い風が巻き起こって、木々の枝がざわめいた。
何か強い力が作用しているのか、何もない空中に放電の火花が激し
く走った。大きな破裂音が響いて、高さ3メートルほどの空中に黒
い人影が出現した。
人影はそのまま地上に落下して鈍い音をさせて弾んだあと、動かな
くなった。


翌朝。
〈望遠鏡〉に隣接する母屋の台所で、エマは自分で作った朝食を一
人で食べ終えた。未明まで観測をしていた祖父を起こさないように、
そっと母屋から出て行こうとすると、
「森には入っちゃいかんぞ」
寝室の中から老学士が声だけかけてきた。
「はあい」
エマは大きな声で返事をした。元気のいい声だったが、その声には
まるで抑揚というものがなかった。母屋を出ると、彼女は真っ直ぐ
森への小道をパタパタと駆けて行った。

高い木々の梢が頭上を覆い、森の中は日中でも薄暗かった。井戸の
底から見上げるように、空はときおりわずかに見えるだけだった。
エマは、厚く積もった落ち葉を足で掻き分けるようにして歩いた。
肩から下げたカバンは大人用で、彼女の小さな身体には大きすぎて
半ば地面を引きずっている。
エマは数えで八歳。
まだ幼い顔立ちを、長く伸ばした水色の髪が半分隠していた。
斜めにさす木漏れ日が、その髪を輝かせた。
いつもと同じように、一人で秘薬拾いをしてまわる早朝。
森の奥は広く深く、普段でも立ち入る者はなく、いままで誰の姿も
見かけたことがなかった。
その朝までは。

エマが見つけたとき、その男は気を失っているようだった。
空を支える柱廊のように林立する巨木の根元、厚い落ち葉に半ば埋
もれるように男は身動きもしないで横たわっていた。
「どうしたの?」
彼女は声をかけた。
着ているローブには見たことのない異国風の模様があり、頭に被っ
たフードが表情を隠していた。
「お腹が減っているの?」
相手を気遣う言葉だったが、その声には感情がなく芝居の台詞の棒
読みのようだった。
男の頭がわずかに動き、フードの奥の目が見上げた。
吸い込まれそうな深い青色の眼だった。
だがその眼には瞳がなかった。
男は身体を起こそうとして、呻き声を出した。
「怪我をしているの?」
男はどうにか半身を起こした。
エマはカバンから水筒を取り出して差し出した。
「お水」
男は戸惑ったようだが、それでも水筒を受け取った。
その指の数は人間とは異なっていた。
エマが頷いて飲む仕草をして見せると、男も手にした水筒に口をつ
けて飲みはじめた。フードが後ろに落ちて、男の青黒い頭部が露わ
になった。その額には短い二本の突起がついていた。
男が人間(ヒューマン)でないことは明らかだった。
しかし、エマの顔には驚きも恐れもなかった。
無表情なままで男の容姿を上から下へ観察した。蝙蝠のような黒い
大きな翼、靴を履いていない足には鉤爪。
人に似た姿をしていて、背中に翼があるものは何だろう?
エマは考えたが、思いつかなかった。

彼女が分からないのも無理はなかった。
その頃、まだブリタニアではこの有翼の種族のことは知られていな
かった。ブリタニアとテルマーの間にムーンゲートが開通して、ガ
ーゴイル族が人間の土地を自由に往き来するようになるのは、それ
からまだ十年後のことだった。







(この物語はフィクションです。登場するキャラは架空のもので、
 物語の設定は実際のUOの設定には必ずしも準拠していません)


by horibaka | 2010-12-23 12:30 | その他 | Comments(0)
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by horibaka | 2010-12-23 12:01 | その他 | Comments(0)