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BNNアーカイブ 老婆イヌ 第一章 【1/2】

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老婆イヌ 第一章

投稿日:2006年5月24日

「ねえ、パパ?」

呼びかけられた父親は、少し離れた場所で橋の欄干にもたれながらこんこんと湧き出る水を覗き込んでいる自分の娘に目を向けた。
御影石の間から橋の下へと流れ落ちる湧き水を受けるその池は、禅都の象徴とも言えるものだ。禅都の外壁と内壁の間にある池の周辺には公園が設けられ、様々な木々や草花が咲き誇っている。少女とその父の横を、街の人々が通り抜けてゆく。

「なんだい、マヤ?」
「えーとね……」

少女は眉をひそめ、水面に目を凝らしながら続けた。

「このお水はどこから来るの?」

愛娘が滑り落ちないように注意しながら、少女の父親は彼女と一緒に欄干から身を乗り出し、池を眺めて少し考えると、

「井戸と同じじゃないかな。地面より深い、地下から来ているんだよ」

と答えた。返事を聞いてマヤは少し納得したようだが、再び湧き水が注がれている池に目を向けた。

「ねえ、パパ?」
「なんだい?」
「このお水は、ぜーんぶどこに行ってしまうの?」

少女の父は、そんなことを考えたこともなかった。放水される箇所も無いのに、池には常に湧き水が流れ込んでいるのだ。幸運なことに、少女の父は彼の母が言っていたことを思い出し、とっさに親らしく振舞った。

「それはね、魔法なんだよ」
「わぁ!」

少女の目はキラキラと輝いた。

「パパは魔法が使えるの?」

横を通り過ぎる若い女性が少女の熱心な様子に思わず笑みをこぼす。

「いやぁ、お父さんには水を……」

と話し始めたとたん、少女の父の話は突然の大声にさえぎられた。

「見よ!!」

公園にいた人々の目は全てその大声がした方に注がれた。凍りつくような静寂の中、禅都の内壁に葺かれている瓦の上を歩く音が聞こえた。逆光のために、その声が骨ばった中年の女性から発せられたものであるとわかるまで2、3秒を要した。彼女は立ち止まり、人々を指差しながら見下ろした。

「その日が来る! 何人たりとも逃れることはできない! 全て死に絶えるだろう!」

マヤの父が娘の肩を抱いて自分に引き寄せ、その場から離れようとしたとき、着物を粋に着こなした若い男 -建築士ヤツエの息子- が壁の上にいる女に向かって声をかけた。

「婆さん! そんなところに登って何をしてるんだ! 怪我する前に降りてこい!」

瓦の上に立つ人影は、その声に振り向くと同時に少し足を滑らせ、群集から叫び声が漏れた。

「黙れ、単細胞の小僧め! これは予言、わしが伝えるべき予言なのだ!」

その間、マヤはかろうじて父に尋ねる事が出来た。

「パパ、あの女の人は誰?」

しかし少女の父は、既に少女を橋から連れ出していた。

「来るんだ、マヤ」

と、口早に言いながら。

二人の背後から、先ほどの若者が罵声をあげているのが聞こえた。

「このくそばばあ! 引きずり下ろされる前にとっとと降りてきやがれ!」

群集の中からは同意する声も聞こえてきたが、老婆は全く意に介さずに続けた。

「恐ろしい、見慣れぬものたちが空を埋め尽くすだろう!」
「黙れ!」

誰かが向こうの方で叫んだ。

「目覚めたとき、お前たちは見知らぬ場所にいるだろう」

群集から離れるにつれて、老婆の声は徐々に小さくなっていった。公園の外に出た後、少女が先ほどの質問を繰り返す前に父は答えた。

「あの人は、お父さんとお母さんが知っている人だよ。さぁ、急いでお母さんのお店に行くんだ。いいね? 私もすぐに行くから」
「でも、もっと見……」
「マヤ、言われたとおりにしなさい」

少女の父は、娘がわがままをいわないよう、肩に手を置いて言った。
少女は母が働く店、『食事処こく』がある街の西へと向かった。少女の父は、娘が道具屋を過ぎるまで見送ると小さくため息をついた。

そして彼は振り返り、相変わらず群衆に向かって身振り手振りで話している人影を見つめると、何が起こるのかを見るために足早に戻っていった。

「気のふれた婆さんめ」

とつぶやきながら。





「マヤ!」

公園を散歩していた二人の少女は、橋の向こう側を走る若者のほうを振り向いた。

「おーい、マヤ!」

いきなり呼びかけられた彼女は、一緒に歩いていた友人のトモエが必死で笑いを抑えているのがわかった。マヤそれまで楽しげだった視線を冷ややかなものに変えて、近づいてきたケンに目を向けた。

「あら、ケン……」

マヤは迷惑そうな様子で彼に返事をした。

「あぁ! ごめんごめん! 別に大声を出すつもりは無かったんだけど、探しに探してようやくキミが見つかったからさ!」

トモエは居心地が悪そうなマヤを見てもう笑いをこらえきれなかったが、すばやくケンに背を向けて笑いを抑えた。

「な……」

ケンは一瞬、なぜ自分が笑われるのかわからなかったものの、すぐにマヤに向かって言った。

「ち、違うよ! 僕はただ、キミのお母さんから『こく』に戻るようにって言い付かっただけなんだ」

マヤの母は、様々な料理が自慢の『食事処こく』で働く料理人の一人だ。彼女は禅都に育つ大半の若者と同様に、早くから将来の道を決めて、10代になるとすぐに職業組合で見習いを始めた。しかし、母と違ってマヤは料理に興味を持つわけでもなく、自分自身何をしたいのか決めあぐねる毎日だった。

(私もケンと同じみたいだわ)

彼女の母親がどうやってケンをつかまえることが出来たのか、マヤは苦笑しながら考えた。ケンもマヤと同じく、何もせずにふらふらとしていたところをつかまったに違いない。

ちょっと間をおいてから、マヤは今後の迷惑ごとを避けるために、

「じゃあ行きましょう!」

とケンに返事をし、トモエには軽く目配せして、

「ごめんね!」

と声をかけた。トモエはもう一度くすっと笑うと、二人に向かって手を振って見送った。

数分後、マヤとケンは何かが焼けるいい匂いが漂う『食事処こく』の前にいた。
二人が店の中に入ったとき、マヤの母はちょうど石造りのオーブンから焼きたてのパンを取り出したところだった。彼女はパンを冷ますためにテーブルの上に滑らすと、二人に目を向けた。

「ケンタロウ! マヤを見つけてきてくれたのね!」

手から小麦粉を払いながら、マヤの母は言った。

「あなたたち二人に、ちょっとお使いを頼みたいんだけど?」
「ええ、お母様!」

マヤはとびきり元気よく返事をした。母親が自分の代わりにケンを送ったと確信していたが、それがマヤを困らせたことを悟らせるつもりは無かったからだ。

「いい子ね!」

マヤの母は微笑むと、はずしたエプロンを片手にマヤとケンをテーブルに呼んだ。

「これなんだけど」

テーブルの上で冷めてきたパンを指差しながら彼女は言った。

「イヌ婆に届けてきてくれないかしら? ここのところ音沙汰が無いのよ。元気かどうか見てきてほしいの」
「え、イヌ婆に?」

ケンは驚いた様子で言った。

「その、つまり、あの廃墟に住んでるお婆さんに?」
「そのとおり!」

マヤの母親は笑顔で言った。

「じゃあ、よろしく頼んだわよ!」





それから1時間後、焼け付くような太陽の下、砂漠を越えて行くケンとマヤの姿があった。ケンは家に伝わる大小の刀を背中にくくりつけていた。
マヤも脇差を腰に下げてはいたものの、面倒ごとにならなければと願っていた。目的の廃墟はデスウォッチビートルの幼生体だらけではあったが、扇動されでもしない限り安全だし、砂漠に棲むオークたちももっぱら砂漠の奥の方にいるのが常だった。

暑さに文句を言うことと冗談を言うことしかない、つまらないお使いだった。しばらくすると、イヌの家が見えてきた。暑さで空気が揺らぐ真っ昼間だったが、漆喰で出来たその建物はまごうことなく砂漠の上に建っていた。

「おかしいわね」

マヤはそう言い、開け放たれている家の玄関に足を進めた。

「ドアをつけてないことが?」

皮肉るケンをちらりと見るとマヤは続けた。

「違うの。お婆様のルーンビートルのクライがいないの。いつもこのあたりにいるはずなんだけど……」
「でも足跡が見つからないし、ここしばらくいないに違いないよ」

家の周りを見てケンが言った。

「イヌお婆様!」

マヤは家の中に入りながら大声で中へ呼びかけた。

「おいでですか? 入りますよ!」

しかし、家の中は完全に空だった。二人は窓がなく一階よりひんやりした二階の部屋に座り込み、少し休んだ後、これからどうしたらいいのかを話し合うことに決めた。

「ここでずっと待ってるわけには行かないよ」

とケンが言った。

「たしかにそうね。でもクライがいないなんて、本当に変だわ。いつもここを守ってるのに」
「ともかく、今はどうする? 帰った方がいいかな?」
「ええ。ただ、もう少しだけここにいましょうよ。居心地がいいし、休憩にはもってこいだわ」

ケンはうなずいて同意を示すと、床に落ちていた骨のかけらを拾い上げて言った。

「これ、イヌ婆の食べ残しかな? どう思う?」
「とんでもない! お婆様はただのお年寄りよ!」

マヤはケンに嫌悪の眼差しを向けた。
ケンは部屋中に散らばっている骨に目を向けると、嘲るように言った。

「どうかな」

マヤが反論しようとしたその時、階下で何か物音が聞こえた。ケンが階段から身を乗り出し階下を覗いて囁いた。

「マヤ、信じられないよ、ボーンメイジがいる。こんなところにいるはずないのに」
「無視しましょうよ!」

マヤは鋭く小声で返した。

「そのうちまた砂漠に戻っていくわよ!」
「そうだな……」

ケンはもっとよく見ようとさらに身を乗り出した。

「それにそんなに身を乗り出したら危ないわ! 落っこちちゃうわよ!」
「落ちやしないさ! 大体キミはさ……ああぁっ!?」

マヤへ文句を言おうとしたとたん、ケンはバランスを崩して一階へ落ちた。

「ケン!」

叫びながら大急ぎで階段を降りたマヤが見たのは、ボーンメイジが杖を振り下ろし、ケンにパラライズの魔法をかけるところだった。
しかし、その骨だらけのアンデッドは、ケンに魔法をかける代わりに杖をマヤの腹にめがけて振るい、彼女は壁に打ち飛ばされた。急に動きを変えたせいで杖を振るうスピードは遅く、大した痛みは負わなかったものの、彼女は一瞬動くことが出来なかった。

マヤは脇差を抜き、壁につたってバランスを取りながら立ち上がろうとしたが、ボーンメイジが既に呪文を唱えているのが目に入った。彼女がボーンメイジに向かって突進し、魔法攻撃を邪魔しようとした瞬間、ボーンメイジの頭の下から2本の刃が現れ、その頭骨をきれいにはねた。
ケンは刀を持つ手を震わせながらも魔法から立ち直ると、後ろによろめいた。マヤはボーンメイジをドアの方に押しやりながらその首とあばら骨に切りかかった。マヤの刃は骨の間に食い込んだが、ボーンメイジはもう動くこともなく、なんとかマヤは刀をそこからねじりとってケンの元へと急いだ。

「大丈夫?」
「ああ、少し驚いただけさ。パラライズの魔法を食らったんだけど、たいしたこと無かったよ。ちょっと腕が痛いんだけどね」
マヤは大きくあざが出来た腕を取り、精神を集中させた。そしてやわらかく呪文を唱えた。

「In Mani」

ケンの腕を柔らかな光が取り囲み、そして消えた。

「マヤ! なんだか良くなったみたいだよ!」

右腕を伸ばしながらケンが言った。

「一体どうやったんだい?」
「お父様が教えてくださったの。でも、私はあんまり上手じゃないのよ。ちょっとした回復魔法よ」
「包帯も使わないなんて」

ケンは驚きを隠そうともしなかった。マヤはうなずくとケンを立ち上がらせた。ケンはマヤがあまり嬉しそうな様子でないのに気づくと、話を変えるために言った。

「なぁ。なんでここに骨ばかりあるのか、これでわかったよ」

マヤはいぶかしげにケンを見ると、外に出た。





その夜、二人は禅都に戻ることができた。マヤは何が起こったかを話すために母の元へ、ケンは腕の具合を見せるためにヒーラーの元へとそれぞれ向かった。家の前まで来ると、母がマヤの帰りを待ち受けていた。

「マヤ! 無駄足を踏ませてしまってごめんなさいね! 居なかったでしょ?」

マヤは驚いて返事した。

「居なかったわ! でも、どうして知ってるの?」
「あなたたちが出かけて行ったあと、イヌ婆のルーンビートルのクライを街の西で見たって言う噂を聞いてね」
「驚いたから、ダイイチに聞いたのよ。ほら、ヤツエのとこのカッコいい息子さん。そうしたら、今朝早くイヌ婆を街の中で見たって言うじゃない!」
「え?」
「でも、ダイイチときたらイヌ婆をからかったらしいのよ」

マヤの母親は続けて言った。

「またイヌ婆が市場の近くで“説教してた”らしくて」
「ダイイチはいつもそうよ」
「とにかくね、ダイイチがいうには、イヌ婆はそれまでにも増してひどかったって言うの。そこにいた全員をムーンゲートに連れて行こうとしたっていうのよ! しかもイヌ婆はムーンゲートを通って行っちゃったのよ!」
「何も驚くことじゃないわ、誉島に行ったんじゃない?」
「それが違うのよ。イヌ婆がゲートを通る前に、ブリテインに行くって言ってたらしいの!」

マヤは驚いた。イヌ婆がこの小さな田舎町の外にまで騒ぎを広めるなどとは思ってもいなかったからだ。

「でもイヌお婆様は、そんなところに行ったことも無いんじゃない? 危ないわ!」
「そうなのよ……。こんなこと頼みたくはないんだけど……」

マヤの母はためらいがちに、自分の娘に目を向けた。

「だけど?」
「明日、ケンと一緒にイヌ婆を探しに行ってきてくれないかしら。心配なのよ。お父様だったら、絶対にイヌ婆を行かせやしなかったと思うの」

マヤはうなずきながらも、まだ見ぬブリタニアの首都へ行くことに興奮と不安を隠せないでいた。王国のどこにも行ったことは無かったし、その中でも一番の街とくればなおさらだ。禅都にときおり訪れる異国の商人たちと何度か顔を合わせるぐらいで、知り合いでさえ行ったことなどない場所だ。

「わかったわ、ケンに聞いてみる」

マヤの母は少しだけ微笑むと、

「明日はとびきりのお弁当を作るわ。ちゃんと連れて帰ってきてね?」
「わかったわ、お母様。約束します」

翌朝、マヤはケンに相談した。マヤの頼みごとは、常日頃から街の外に出たいと思っていたケンにとっては願ったり叶ったりな話で、程なくして二人はムーンゲートの前まで見送りに来たマヤの母とその友人たちと共にいた。

「忘れちゃだめよ! フェルッカじゃなくて、トランメルのファセットに行くのよ!」
「わかってますって」

二人は即答だった。

「彼女は、まだ私が10歳だと思ってるんだわ」

マヤはケンにそう耳打ちした。ケンは耳を傾けながらも、

「もし本当に10歳だと思ってるなら、こんなこと頼まれないのはわかってるだろ?」

と言ったのでマヤは赤面したが、すぐに気をとりなおした。

別れを告げると、マヤの母は二人に食べ物の入ったナップサックを渡した。ケンは、バックパックをベッドロールといっしょに抱えあげた。
そうして二人はムーンゲートのほうを振り向くと、一人、そしてもう一人とゲートをくぐった。(トランメル、ブリテインよ)マヤは心で念じた。一瞬全てが暗闇となり、そしてマヤの心はいろいろな音でいっぱいになった。気がつくと、マヤはどこかに着いていた。
マヤの母の隣に立っていた女性が、ムーンゲートを見ながらマヤの母に声をかけた。

「ナナコ、本当にあの二人にイヌ婆の後を追わせて大丈夫なの?」

マヤの母親は少し間をおいて言葉を返した。

「他に誰がいるというの? イヌ婆はマヤを知っているわ。それに、私には理解できない何かが起こっているのよ」
「だからこそよ! 危険かもしれないでしょ!」

マヤの母親は笑顔で来た道を戻り始めた。

「だからケンにも頼んだのよ!」





西ブリテインの銀行は街外れにある古い建物で、ブリテイン城の堀を越えたところにある。機能第一に作られた建物なので、街の他の建物のような装飾や優美さといったものはない。外壁は灰色のブロック、屋根には敷石が並べられている。背の低いずんぐりしたこの建物は、その見せ掛けに反して、実は、城を除けば街中で最も防御が固い堅牢な建物なのである。

しかし、目を惹いたのは銀行の前庭をそぞろ歩く人々である。皆、何かの仕事で訪れたり、ここから出かけて行こうとしていた。銀行の地味なたたずまいとは対照的に、マヤは行き交う人々や街に溢れるとりどりの色の中で右往左往していた。

身分が高いと思われる一人の夫人が、豪奢な白い上着を着て通り過ぎた。装甲をつけた馬に乗った男性が銀行の角に近づいたと思うと素早くその馬をランプポストにつなぎとめて馬から飛び降り、颯爽と銀行の中に入っていった。
そこかしこで、物を売る人々や仕事をもちかける人々の声がしていた。マヤはそのような奇妙な服装をした人々を見るのは初めてだった。ケンは様々な珍しい動物に乗るこれほど多くの人々を今までに見たことがなかった。

「マヤ、もしかしてあそこの人はビートルに乗ってるのかな」

彼が指差した先を見ると、そこにはたしかに、黄色と桃色というひどく派手な色合いの服に緑色のエプロンのようなものを身につけた男の人が、巨大な青いビートルに乗っていた。

「……少なくともクライほど大きくはないわね」

マヤはぐっと息を呑んだ。

二人の上に影が差したので振り返って見上げると、そこには巨大な青白いドラゴンの嘴があった。ケンはすかさずマヤを腕の中に抱えていた。すると、大きな翼の片側の陰から男の人が降りてきた。

「やぁ、こんにちは! 丈夫な力持ちの動物に興味がおありかな? たったの30万ゴールドですぞ!」

ケンはその快活な男性を見つめた。彼は、そのドラゴンの鱗と同じくらい白いシャツを着ており、おかしなことに道化師の帽子をかぶっていた。ケンが返答に詰まっているとマヤが言った。

「いいえ、結構です。私たちは友人を探しているんです」

雑踏の中なので、ほとんど叫ぶように話さねばならなかった。がっかりした様子も見せず、帽子を手にお辞儀をしながら彼は大きな声で言った。

「そうですか、うまくいくといいですな!」

そして、彼はドラゴンに乗りかかりざまに振り向いて、

「動物のご入用ならばジェスをごひいきに!」

と言った。
マヤは力なく手を振り、その男は群集に飲まれていった。低い唸り声を上げながら、人々が道を開ける間を悠々と歩いていく巨大なドラゴンは、あたかも人々の頭上に浮かんでいるようにも見えた。

「ねぇ、あっちへ行こうか」

ケンはマヤを道路脇へと導きながら言った。彼の指差す先には、銀行の向かいの小さな丘があり、人々が暇そうに座っていた。

「そうね!」

程なくして、彼らは丘の横の道を登り、古い松の木のふもとの空き地に着いた。二人は息を切らしながら腰を降ろし、これからについて思いをめぐらせた。

「こんなにたくさんの人の中で、どうやったら彼女を探せるのかしら」

マヤが苛立ったように群集を指差し、

「だって、これはこの街のたった一部分でしかないと思うの」
「うん、でも街の他の部分はこれほど混雑していないんじゃないかと思うんだ」

ケンはうなづいて言った。

「たぶん、ここが禅都みたいな商売の中心地だと思うんだ。あの人たちをごらんよ!」

すると、そこへいきなり話しかけてきた者がいた。





「ブリテインは初めて?」

彼らは振り向く必要もなかった。なぜなら彼らの間に少女が一人、ちょこんと座って後ろ手に反り返っていたからである。その女の子は、自分が突然現れたため二人をどれだけ驚かせたかわかっていない様子だったが、すぐに気づいて言った。

「あ! 驚かせるつもりはなかったのよ!」

彼女はシンプルなピンク色のドレスを着ており、突然現れたということを除けば、いたって普通の少女だった。

「いったい……」

マヤが口を開いた。

「キミはどうやって?」

ケンが締めくくった。少女は少し慌てた様子で、

「どうか許して! これはただの呪文なの。あなたたちが腰を降ろしたとき、私ここで練習していたの」

彼女はマヤの方にかがみこんで見つめた。

「本当なのよ! あなたとあなたのお友達は、この辺の人じゃないみたいね。私、わかるの」

ケンは驚きよりも好奇心の方が勝って咄嗟に、

「うん、僕たちは禅都から来たんだ」

と、言ってしまった。その年若い魔法使いは、ぱっと前方に飛び跳ねると彼ら二人に向き直った。








7:41 2017/08/14

by horibaka | 2017-07-09 07:39 | その他 | Comments(0)
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