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ワールドニュース [戻る] そして誰かが見つめている 投稿日:2001年5月17日 全シャード 地上を見下ろす大木の樹幹に腰掛けたオークスカウトのMilugは、小枝の隙間から前方に見える街を凝視していた。店先で品物の取り引きをしている人間達を観察していると、いかつい表情を維持することにも難しさを覚えているようだった。あまりにも静かな時の流れのせいだろうか、彼は住処であったコーブ近くのオークキャンプでホームシックにかかっていた。木を組んだアジトの居心地のよさ、日々の争い事、そして時には略奪を求めて森の中をうろついたことなど。最も懐かしいのは、焦げた肉の香りと、神秘的なスキル訓練のためロードの1人がオークメイジをいたぶっているときの笑い声だ。 彼が受けている命令はごく単純なものだった。「人間を殴ることなく街を見張り、奴らが何をしているのかを報告せよ。繰り返す、殴ってはいかん。次の命令を受けるまでは殴ってはいかん。」Milugは命令を受けることが好きではなかった。特に「殴ってはいかん」と注釈が入るものについては大嫌いの部類に入っていた。しかも、今回彼の上官であるオークロードは3回もそのことを付け加えた。さすがにこれでは後になって命令を忘れてしまったとは説明できないだろう。「オークロードは頭が良すぎる…」Milugは感慨にふけっていた。潜在意識だろうか、Milugは手の拳を頭に打ち付けながら、前回ロードの命令に背いたときのことを思い出していた。オークロードが怒りを覚えたときの攻撃力は凄まじいものがある。Milugは殴られることも嫌いだ、それならば殴る方がいいに決まっている。しかし、命令を受けてからすでに1週間が過ぎようとしているのに、キャンプからは何のためにここで見張りを続けるのかについて説明がない。Milugの辛抱は他のオークでも同じだろうが、すでに限界に耐えがたくなってきていた。 地響きに彼のオーキッシュ思考は中断された。そこには凶暴そうな斧を振り回すオークが、木々を伐採している。彼もまたリスクを負ってでも街の近くに新たなキャンプを設営しようと、命を受けているようだ。そうは言っても森の中、そう単純には街から見破られることはないはずだ。もちろん、興味津々な人間達が近づいてくれるのは大歓迎でもある…いずれにせよオーク達には鍋に入れる食料が必要なのだから。 気が進まないまま彼は注意を街の監視へ再び戻した。しばらく眺めていると、低くきしるような声を発して、周りのオークたちに静かにするように伝達した。オーク達は即座に伐採を止めると、木々の後ろへ姿を隠した。Milugは長い間の禁欲に息を殺した。人間が自分を見つけてくれることを切に願っていたのだ。 「人間キャンプきた。殺してもMilugのせいじゃない」彼は口がほころんだ。Milugは人間達の気を引こうと餌となる音を立ててみようとも思ったが、拳を頭に擦り付ける方がよいと考えを変えたようだ。他のオーク達も斧を握り締める手が震えていた。彼らを人間への攻撃から遠ざけているのはロードからの強い抑制の恐怖だけなのだ。人間達が何事もなかったかのようにその場から立ち去る1分程の間、その絶えがたい辛抱は最高潮に達していた。 オークスカウトのMilugが街へのスパイ行為を続けようとしたとき、喉から絞り出るようなオーク語で誰かが話し掛けた。要塞からの最新ニュースを理解したMilugは、街を覗き見るたびに微笑みを止めることができなかった。そのニュースは彼の期待通りだったのだ。 しかも、そう遠くない将来に…。 7:32 2017/05/05
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by horibaka
| 2017-03-09 07:31
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