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哭きの竜




2017年5月9日(火)










          ◆ 桜シャード ◆




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23:44 2017/05/11

# by horibaka | 2017-05-09 23:42 | 桜日記 | Comments(0)
ときには星の下で眠る




2017年5月9日(火)





          ◆ 桜シャード ◆



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23:39 2017/05/09

# by horibaka | 2017-05-09 23:40 | 桜日記 | Comments(0)
BNNアーカイブ はじまり

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はじまり

投稿日:2001年11月27日


全シャード
偉大さは時間により泡沫へと帰すが、栄光は忘れられる事は無い。古き時代の風は、とても静かに過去を歌う。
―ミーア(Meer)の諺

ダーシャ(Dasha)は木の枝に腰掛け、黒の軍勢が彼女に向かってくるのを眺めながら、微笑んでいた。手元には小さなクロスボウがあったのだが、急いで矢を装填しようなどと慌てる事も無かった。森が厄災から彼女を守ってくれる盾となってくれる事を、彼女は知っていた。故に、その様な事は百年の間繰り返され、そしてこれからも続く事だろう。

谷の隆起した部分に朝日が差し掛かると、まるでダムが崩壊したかの様に、黒い軍勢がスロープからなだれ込んで来た。太陽の光で照らされたヘルメットと矢じりが鈍く光る。その場の空気が、無数の軍靴の音で揺れ動いた。しかし、谷底の背の高い入り組んだ森は、断崖が波を押し返すかの様に彼らの前進を妨げた。木の障害は丹念に織られた織物のようで、軍の陣形は単なる一列の縦隊にさせられてしまうのだった。軍の流れは、森の内部の暗い一本の紐の様にして消え失せてしまうのだった。

立ち並ぶ木の端に身を隠されて、ダーシャは彼女を支えていた丈夫な枝の下で起き上がり、足を組んだ。朝日のベールが彼女の頬を包んだ。彼女はその暖かさに微笑んだ。銅色の光が、上等な毛皮のコートに照り返した。長身で活動的な彼女の体格とは対照的に、細やかな班模様が入っていた。若いミーア人の女にしては、ダーシャは特に危険な女に見えた。彼女はドレスを着る事も無かったし、スカーフを巻く事も無かった。むしろ、一見して戦士とわかる様な、金属や皮を凝らした装備を好んで身に付けるのだった。薔薇色の髪の毛が、彼女の肩に血を散らすかの様に広がっていた。朝の風を受けて、彼女の高く尖った耳は、引っ張られるかの様に立っていた。

また始まった、と彼女は苦笑いを噛み殺し、そう思った。ジュカ(Juka)は攻撃し、私たちはそれを追い払い、永遠の均衡と言う物がまた新たに明らかとなるのだ。何世紀にも渡る失敗で、ジュカ達が懲りなかったのか、と思うかもしれない。それでも、彼らは攻撃の手を緩めようとはしない。戦闘こそ彼らの本能なのだ。先祖は遙か昔にそんな事を記している。

どこか遠くで、金切り声を上げて騒いでいるのが聞こえて来た。彼女は苦も無く、今いる枝から頭上にある非常に高い枝まで飛び上がった。森の天蓋を破り、木の海とも言える森全体を見渡した時、その騒動の元を見つけた。すると、葉の間から、北へ向かって深紅の何かが飛び出した。大きく、赤い羽根が空にはためく旗の様に広がっていた。それは森から逃げようとしているガーゴイルの部族だった。侵略者達は、それらを追い払おうとしている。しばらくの間ダーシャは、その野蛮な生き物が低く浮かんでいる朝の雲の中へ、滑り込む様にして行くのを眺めていた。それは、彼女が不本意にも魅入ってしまう様な、野性的な美しさと言えるものを持っていた。

葉の間から何かが立ち昇って来た。それは風に揺らされながら立ち昇る煙の柱だった。しばらくすると、遠くの緑樹の方に黒とグレーのカーテンが出来上がっていた。何かの燃え殻の臭いがした。耳を澄ましてみる。野営の場所を確保しているのだろうと彼女は思った。今回、ジュカは長期戦を練っているに違いない。それはそれで私の望むところ。森は秋の喜びに満ちている。ジュカの執拗な包囲攻撃は、秋と言うその喜びの季節へのスパイスの様なもの。思いっきり楽しんでやろうじゃない。ウォーロード・ケイバー(Warlord Kabur)には、足をへし折って追い返す前に、お礼を言っておかなくちゃ。

長老達は、彼女の報告した事態の進展に興味を持っていた。報告が終わると、彼女は音も無く木々の間に潜り込み、森の奥深くへと潜行していった。眺めていると目が回りそうな、膨大な枝のもつれは暗い海の様だったが、ダーシャにとっては束縛から解放される場所だった。その中で彼女は何物も追いつけない、班模様付きの稲妻となるのだった。鋭敏なミーアの特性とはその様なものであり、彼らは自然と古くからの盟友だった。どこに住もうと、その土地と友となり、風のスピードで大地を駆け抜けた。

ミーアの堅牢な要塞は、森の中心に位置する孤島の如くそびえ建っていた。その塔や胸壁は魔法建築の不思議さと言う物を体現する物だった。その巨大建造物を構成する石の一つ一つが、力の流れを魔法のそれと同じくしているルーンによってマークされているのだった。過去に稀ではあったが、ジュカの軍がやっとの思いでその魔術の要塞に辿り着いた事があった。しかし決して彼らの衝角は、その呪文のかかった壁に穴を開ける事は出来なかった。その城は不屈のミーア文明の象徴であり、彼らの古代文化の中心だった。

グレーの獣毛を身にまとう長老達は、城の中のそれぞれの豪奢な部屋の中に居た。彼らは古の知識の守護者であり、上質で光り輝くシルクのローブと、黄金を縫い込んだかの様なマントで自らを優美に覆っていた。魔導師アドラナス(Adranath)は、彼らの中でも最も偉大な長老だった。銀色の獣毛に身を包む彼は長身で威厳に満ちており、彼は人々の永い歴史を通して、何世紀にも渡る伝説を漂わせつつ、堂々と歩くのだった。アドラナスは知識を司る者の中で最年長であり、要塞の半分くらいの年齢を重ねていた。その年齢が彼に不思議な雰囲気を与えていた。彼の心構え、手法は、世界が人々に苦痛を与える場でしか無かったとき、その時代を生きた人々に知れ渡る事となった。

時々、彼がダーシャの方を向いていない時、彼女は年月がその老人の感覚を鈍らせているのかと思う事がある。そんな事を考える自分に嫌悪を覚えながら。今、彼女は謁見の間で報告を提出していた。そこは影と香りの支配する厳粛な場所だった。飾り気のない壁は彼女が話すのを聞いているかの様だった。

アドラナスがその知らせを聞いたとき、憂鬱さが溜め息をより深くした。彼の年老いた目は暗くなった。『我が子よ、何とも悲運な前兆を運んで来たものだな。我々の要塞の魔術は森の活力に依存している。それ無しでは、要塞の壁は脆くも崩れる事だろう。ジュカが木々を焼き払えば、我々の力も弱まってしまうのだ。』

ダーシャは頭を垂れた。『偉大なる我が主に、恐れながら申し上げます。彼らにしてみれば、要塞の壁を役に立たなくする為に、全ての森林を焼き尽くさなくてはならなかった事でしょう。彼らは今までその様な卑怯な行いをした事がありません。』

『して、ジュカ達がそれをせぬと言い切れるのか。』

『彼らは確かに好戦的、攻撃的です。が、彼らは確固たる名誉の伝統を守っています。彼らは自らの徳を裏切る様な種族ではありません。私はそんな彼らと何世代にも渡って戦って来たのです。』彼女は成し遂げた事を誇るかの様に、顔を上に向けた。

アドラナスは背もたれの高い椅子にもたれ掛かり、唸る様に言った。『お前は姿を見せない彼らの主を見くびっているのだ。彼はここ10年の間に、ジュカに大きな変化をもたらしたのだぞ。』

『彼らがエクソダス(Exodus)と呼ぶ存在の事ですか?顔を見せる事すら恐れる者など、脅威でもありません。』

『彼はジュカに魔術を教えた。』

彼女は眉をひそめた。『治癒とちゃちな魅了の術ですよ。ジュカがどれほど頑張ったって、私の方がまだまともな魔法使いです。偉大なる我が主よ、私にはあなたの不安が理解できません。ジュカとミーアの間にある古よりの均衡は、今まで揺らいだ事がありません。今回の攻撃の何が危険だと言うのですか?』

『エクソダスが危険であるのだ。』魔術師は低く唸る様に言った。『彼は、言わばこの世界にあってはならぬ存在。私は、奴が古よりの均衡を忌まわしく思うだろう事を恐れているのだ。厳しい冬は間近だ、我が子よ、ジュカが我々を打ち倒せば、我々は破滅に直面するだろう。我々は恐らく生き残れないだろうと、私は危惧しておるのだ。』

その一言を聞いた瞬間、ダーシャはアドラナスの重ねた年齢が、彼を弱気にしているのだろうと考えた。伝説ですら時が経つにつれて色褪せていく運命にあるのだ。妖しい優雅さを纏いつつ、彼女は老魔術師の部屋を辞して、森へ戻っていった。そこでは彼女の同志達が、彼らの魔法の故郷を守る為に集まりつつあった。彼女は、アドラナスの予言を忘れようとした。それは老いぼれた頭の生んだ妄想に過ぎないと。

遥か昔に先祖達は、年輩の者の忠告を無視してはならないと、子孫達に警告を残していった。しかし、ダーシャや同志の戦士達には、その教訓が故郷を滅ぼすものにしか思えなかった。

恐怖は故郷に迫り来る火の壁である。防衛戦を戦っている間、ミーア達は同時に二つの敵と戦っていた。ジュカの戦士の執拗な猛攻撃と、彼らが放った怒り狂う炎だ。ジュカの軍は、地獄の大火を消そうとするミーア勢の、全ての努力を退けた。太陽は黒い煙の嵐の向こうに見えなくなった。ダーシャは恐怖を覚えながら、起こっている事を把握した。攻撃目標は城ではないのだ。ジュカの指導者であるウォーロード・ケイバーは古代の森その物を焼き払おうとしていたのだ。それはダーシャが知るジュカの誇りを大きく傷つける禁忌だった。

敗北は、灼熱の赤い炎と灰や燃え殻の吹雪の姿を取りやって来た。ミーアが崩壊した要塞を放棄すると、ジュカの軍勢が煙の中から現われ、ミーアをまるで朽ちかけた木を切り倒す様に打ち倒していった。ダーシャは、大虐殺が青々と茂る森の大地を蹂躙する中、生存者と共に逃げ出した。その森は百年の間、彼女の故郷だった。それは一週間たらずの内に消滅したのだ。

彼女と同志の戦士達は、長老達の救出に成功した。この様な状態になってさえ、魔法での復讐をと考える者もいた。しかし、ダーシャは違った怒りを抱いていた。目眩がする様な憂鬱さを感じた途端、彼女の黒曜石の様に黒い目が鋭さを増した。何を為すべきかを知ったのだ。

アドラナスは正しかった。彼はエクソダスが想像もつかない様な魔術によって、ジュカ達を蝕んで行ったと言っていた。敵に対抗する作戦を練る為には、ジュカに何が起こったのか知る必要があった。それは彼女が、ジュカの指導者であるウォーロード・ケイバー自身に問い質すべき事だった。顔を突き合わせて、説明を求めるだろう。もし、満足行く回答を得なければ、剣を突き合わせる事になるであろう。

そうなれば、自分は満足できると彼女は知っていた。そして長老達は、今度はジュカの上に虐殺を降り注ぎ、永遠の均衡はまた新たに明らかにされるだろう。それが、脇道にそれ得ない歴史の正しい道筋という物だ。それを祖先達は、はるかな世代の昔から予見していた。ここにおいて、それを為す以外の選択肢がないのなら、ダーシャが迷うことは何も無かった。








5:27 2017/05/23

# by horibaka | 2017-05-06 05:26 | その他 | Comments(0)
BNNアーカイブ 到来

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到来

投稿日:2001年11月5日


全シャード
パワークリスタルの鈍い輝きが、ニスタル(Nystul)の薄暗い研究室中に光を散りばめ、様々なガラスの実験器具がその光を映し出している。研究室の窓から入る月の明かりが彼を優しく包みこんでいるかのようであった。その年老いたメイジが気だるそうに腰掛けると、パワークリスタルの微かな紫の明かりは、彼の顔の心労から来るしわを、より深くしていくようにも見えた。かなりの時が経過したようだった。彼の助手をある会議を召集するために遣わしたのだが…。太陽がとっくに暮れてもその姿を見せることなく、蝋燭はすでに捏ねた蝋の塊と化していた。その間ずっと、彼はクリスタルを眺めながら、研究室のテーブルを殆ど離れてはいなかった。

この世界は力を持った指導者を必要としている、と彼は思ったが、だからといって、彼の信念を曲げるわけにはいかなかった。紫の光がしばらくの間、彼の目に映っていた。そして、少し目を細めてそれを見ていた。王はいつの日か、これがブリタニアにやってくる事を知っていたに違いない。姿だけを変える不死の邪悪…。その邪悪が地を這うようにしてこの地に再びやってくる事はない、と考えていた自らの愚かさに恥じ入っていた。もっと長く、彼をこの地に留めておくべきだったのだ。彼は行かねばならなかった。それは分かる。しかし、この地は彼の不在により苦しんでいるのだ。私は民衆が彼が居なくとも、この邪悪を追い返せること願うのみだ…。

軽く肩を叩かれたことで、ニスタルは目線を上へとやった。彼の実習生であるクレイニン(Clainin)は目が合うと、少しばかり驚いた。自分の師匠の邪魔をしたのではないかと、その実習生は不安げだった。ニスタルはすぐに振りかえり、またクリスタルを眺め始めた。

『申し訳ございません。あの・・・、お邪魔するつもりはなかったのですが・・・、。よろしいでしょうか?』クレイニンは年老いた師匠と彼の友人の陰鬱な表情を気に掛けながら、ゆっくりと話した。『こんな暗い研究室、先生、お好きでなかったでしょう。蝋燭をつけましょうか』

『放っておいてくれ、クレイニンよ。余計な事をするな。年を取ったのじゃろう・・・、お前が近づくのに気付かなかったのじゃよ』彼はゆっくりと立ち上がったが、その視線はクリスタルに注がれたままであった。『皆、集まったのか?』

『はい、ニスタル先生。皆、玉座の間に集合しております。彼らを集めるのに手間取り申し訳ございませんでした。クレット(Krett)に至っては、作業場から連れ出すのに、もう少しの所でフレームストライクを使うところでした。クリスタルが手に入って以来、彼は昼夜問わず、ゴーレムを作り続けているのです』

『クレイニンよ、お前にはよく説明できたじゃろうか?』ニスタルは突然振り向いて、彼の目前の弟子を見た。

『何でございましたでしょうか?』クレイニンは困惑した。その時、彼は師匠の顔に、今まで見た事のない不安げな表情を見たのだ。

『お前への訓練は十分じゃたろうか?私はお前に自らと一体となれる魔法の知識を授けたじゃろうか?それらはエーテルの謎を自らの力で切り拓いていけるものじゃろうか?それらはまた、この国を守るべく、本当にお前に全ての魔法を駆使させる事が出来るものなのじゃろうか?』

『私は…、私が思いますに、才能という点であなたの力と比較する以前に、私は何年という間、あなたの下で修行してまいりました』クレイニンは彼の師の様子をうかがいつつ、戸惑っていた。『今まで受けてきた教えの中で,あなたからの教え以上のものは受けた事がありません。あなたが城を留守にしているとき、研究室を整理整頓しておく事だって出来ます。あの…、スライムと魅惑の魔法で少しへまをやらかしましたが、階段の酸で解けたところはきちんとカーペットで隠しておきましたし…』

『お前はずっと従順で献身的な私の弟子じゃ、クレイニン』ニスタルはそのメイジの肩に手を置いた。『いつの日か素晴らしい魔導師になるじゃろう』

クレイニンは少しばかり不満げであった。『あの…、私に期待してくださっているのは、とても光栄なのですが…、一体どうなさったのですか?』

ニスタルは悲しげに微笑んだ。『また、次の機会に話そう』彼はクレイニンをドアのほうへと導いた。『まさに今、ブリタニアが我々の智慧を必要としているのじゃ』





城の玉座の間は静まり返っていた。ただ、クレッツが床一面にクロックワーク=アッセンブリー(clockwork assembly)を散らかして作業する時のカチカチという音を除けば。シャミノ(Shamino)は椅子にもたれかけ、容易そうにダガーを宙に投げては、それを器用に掴んでいた。玉座の側にはデュプレ(Dupre)が立っていた。その戦士の体格は広間を照らし出す蝋燭の明かりの中でより威厳を増していた。彼はまるで彼の主君がまだそこに座っているかのように、王の席のすぐ横でそれを守護するかの如く立っているかに見えた。

クレイニンが歩いて行き、集まっている者達に静かに一礼した。彼らは頷きで彼を迎え入れ、そしてニスタルが部屋の入口の二人の衛兵に話し掛ける間、それを待っていた。衛兵は広間から出て行くと、ニスタルの後ろで扉を閉めた。彼は集まった者達より、一段高い場所に立ち、そこにいる者の興味を引くかのように、周りを見渡した。『皆、ご多忙の中、万事多難を排し、お集まりくださった事、恐れ入ります』

シャミノはダガーを掴み、音をたてずにそれをベルトに収めると、もたれかかるのを止め、背筋を伸ばして座り直した。『クレイニンがせかすので、出来る限り早くやってきました。彼が言うには、ニスタル殿、あなたが何か発見したとの事でしたが?』

ニスタルは頷いた。『その通り。そして、ここにいる皆に、それがよい知らせであったならばと思う…』

『やけに恐ろしい顔つきだな、旧友よ』デュプレが玉座の脇から言った。『あなたが見つけたという物が、一体全体どのような物なのか、我々に教えてくれ。我々は共にそれと対峙しようではないか』

その年老いたメイジは溜め息をつき、彼の前に集まった人々を見渡した。『クレットとシャミノが見つけてきたクリスタルを念入りに調べたのじゃ。ここ数日というもの、イルシェナーで見つかったものと併せて、その秘密を解くべく時間を費やしてきた。今から説明する事は…、本当に恐ろしい知らせになるじゃろう。しかし、今、目前に迫っている危機がどれほど深刻なものであるか理解する為にも、どうしても聞かせておかなければならんのじゃ…』

彼は話しながら、床をゆっくりと歩いた。その間、彼の影は蝋燭の明かりに照らされて、それが集まった者達の上で揺らめいた。『ここにいる皆が知っての通り、魔術はそれを使うメイジ個人と、とても密接な関係を持っている。魔法のエーテルが呪文を唱えるものによって使われるという現象は、その者の声や表情と殆ど同じくらい、その個人に密接に関連するのじゃ。このクリスタルは…』彼はその人工的な物をローブから取り出して言った。『…魔法により作られており、そして作成者のエナジーを宿している。発しているこの力を感じられる方もいるのではなかろうか』

『そうすると…、そのクリスタルを作った人物を…、えーと、あなたはご存知なのですか?ゴーレムの背後に…、えーと、誰がいるのかもご存知なのでしょうか?』クレットが興奮気味に尋ねた。

『残念じゃが、攻撃者がどのような者であるか、いまだ謎のままじゃ。‘エクソダス’という言葉が、仮に意味を持っているとしたら、それが何を意味しているのか、今のところ不明じゃ。しかし、いま知らせしたいのはそんな事ではない。ブリタニアに攻撃を仕掛けてきている者は皆、共通した魔法の力を持っている。そして、それは私の人生で、以前ある他者にそれを見出した事があるということなのじゃ…』ニスタルは立ち止まり、集まった者たちの注目が彼一身に集まっているのを確認しながら、彼らの方へと振り向いた。『私の言う他者とは、ミナックス(Minax)の事じゃ』

シャミノ、デュプレ、そしてクレットは驚きを共有しているかのような感覚に陥った。

『ミナックスはゴーレムを作り出す元となる物を持ってはいない。そしてゴーレムはフェルッカで、彼女のために派閥戦争を戦っているとは思えないが』デュプレは言った。その声は信じられないという事からか、雲がかかったような声だった。

シャミノが素早く立ち上がって言った。『すると…、モンデイン(Mondain)…?』

『いや、モンデインではない』ニスタルは即座に応えた。『遥か昔に死んでいる。いや、この魔法の力は奴らに通じる物はあるが、幾分違うところもあるのじゃ。ではあるが、私はこの脅威を深刻な物として恐れずにはいられないのじゃ』

『えーと…、あの…、質問、よろしいでしょうか?』クレットが言った。その声はその場の緊張感からか、小刻みに震えていた。『モンデインとかミナックスとか…、えーと…、どうして私がここにいるのでしょうか?私はただの細工師ですよ。腕には自信ありますが…、あの…、そんな大それた邪悪に立ち向かうなんてとても…』

『クレット、君の知識が必要なのじゃ』ニスタルは言った。『敵はこうしている間にも姿を隠している。魔法のサインを発しているクリスタルが、奴らの居場所がどうやって隠されているのか、その詳細について幾つか興味深い事を教えてくれたのじゃ。クレットよ、君はクリスタルとゴレームとがどういう関係にあるのか、ゴーレムがどうやってクリスタルの力を使うのかを理解している。その知識が必要なのじゃよ』

『実際には、何をするのですか?』シャミノが尋ねた。

『クレットと私は敵の居場所を特定する装置を作る予定じゃ。イルシェナーからの情報を総合すると、ピラミッド型の建造物が敵の潜伏場所へのある種の出入口なのではないかと思っている。それが発見されて以来、相当な量のエーテル=エネルギーを用いた呪文で封印されているのじゃ』ニスタルはクリスタルを高く掲げた。彼の顔にやわらかな光の影が出来た。『これのお陰で、エネルギーがどこからやってくるのか知る事が出来る』

『お話を聞いて不思議に思うのですが、』クレイニンが言った。『そんなにも強力なバリアを維持していく魔法エネルギーでしたら…、それは…、あの…、世界中から集めなければならないのではないでしょうか…』

『その通りじゃ、クレイニン』落ちこんでいるその場の雰囲気に反して、ニスタルは弟子に対して微笑みかけた。『そして実際に、イルシェナーに魔法を唱える者は、ピラミッドを閉じこめておくために必要な量を越えてしまっているのじゃ。その事が何か他の下劣な目的に利用されていなければいいのじゃが』

『それがどういう結果を生む事になるのでしょうか?私達はブリタニア中に調査隊を派遣してきました。そして、その様な膨大な魔力に繋がる手掛かりを何一つ見つけられないでいます』クレイニンは部屋をゆっくりと行ったり来たりしながら言った。『エネルギーを集めようとする者なら誰しも…』彼は立ち止まった。その顔は紅潮していた。『そのエネルギーは魔法で隠しておかなければならない…!?』

『その通りじゃ』ニスタルは実習生の肩に手を遣った。『私は何がこのエネルギーを集めているのか知る為に、様々な魔法を使った。今のところ、その魔法はトランメル、フェルッカ両面のあらゆる場所から引き出されている事位しか私には分からぬ。そこでクレット、私が君の助けを借りて作ろうとしている装置は,敵の力の根源を暴き出すための物なのじゃ。いったん見つけたとなれば、あとはそれがどのような物であっても破壊するのみじゃ。ピラミッドはきっと開く。ガーゴイルを奴隷としている者の正体も分かるかもしれない』

『そうなったらもっと多くの事が分かるかもしれませんね…』クレットは夢でも見ているように、宙を見上げていた。彼以外の人が、僅かばかりの好奇心を伴って彼を注目している事に気付くと、現実に押し戻された。『それはそうと…、私達が…、ああ…、私達はあなたの言うその装置を、まず最初に作らなければならないのですか?』クレットが尋ねた。

『そうじゃ。第一段階としてな。』ニスタルは溜め息をついた。『容易な事ではないことは分かっている。恐らく我々が集められる以上の、膨大な量の素材を必要とするじゃろう。クレイニン、全ブリタニア市民に告知してくれ。我々は素材収集の為、相当な助力を必要とする。城の中庭にその装置を作ることになろう。全市民がそこに必要な物を持ってくる事が求められているのじゃ』

『あなた方がその装置の作成を終えたら、私はトランメル中を偵察して回りましょう』シャミノが言った。『魔法を収集している敵の正体が暴かれたなら、それを出来る限り早く発見し、破壊せねば。デュプレよ、あなた方にはフェルッカをお任せできますか?』

『わかった』重装甲のパラディンは答えた。『だが、他の派閥の連中が、事を複雑にせねば良いのだが。フェルッカでその魔法収集の何かしらを見つけたとしても、恐らくはミナックスの連中や、或いはシャドーロード(Shadowlord)の連中ですら、我々がそれを破壊するのを食い止めようと、手薬煉引いて待ち構えているかも知れぬ。奴らが本気で事を構えようとしているなら、我々に勝ち目は無いぞ』

『その様な状況が発生すれば、メイジ評議会(Council of Mages)の助力を得ることが出来ます。』クレイニンが言った。『リーダーの中に、影響力がある友人が数人いるのですよ』

ニスタルは部屋の中央まで歩き、集まった者一人一人の顔を見つめた。『これで、各人のなすべき事が御分かり頂けたはずじゃ。友よ…、今回の新しい脅威が全ソーサリアにとって、どれほど致命的な物になるかなどと言っている場合ではない。全世界がこの邪悪を根絶するべく、ブリタニアに住む全ての人々を頼みにしているのじゃ。さぁ、仕事に取り掛かってくれ。やる事は山ほどあるぞ』

そこに集まった彼らは、各々の仕事に向かうのに先だって、立ちあがり、お互い軽い別れの挨拶をした。ニスタルは無言で彼らを見つめ、そして自らも振りかえり、その場を立ち去った。

私には確信がある。彼ら、そして私は‘エクソダス’が何であったとしても、それを食い止めて見せる。ただ望むとすれば、私が王の下に行ったとしても、彼らが私なしで戦い抜いてくれる事だ。ニスタルはそんな風に思っていた。








5:15 2017/05/22

# by horibaka | 2017-05-05 05:14 | その他 | Comments(0)
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真意

投稿日:2001年11月3日


全シャード
揺らぐ松明の炎だけを微かに響かせ、マントに身を包んだ男が静かに暗い廊下を歩いていた。男がその廊下の終わりに近づくと、石と金属とがきしみ合うような音を立て、扉が重々しく開いた。一歩中に入ると、男は片方の手でわずかな仕草を取った。その瞬間、扉は彼の後ろで、耳をつんざくばかりの雷鳴と共に一瞬にして閉じていた。

『エクソダス(Exodus)』彼は低い声で話し始めた。『あなたには人間どもがこの計画の遂行全体を台無しにしてしまうかも知れぬ、という認識が薄いのではないか?』突然、金属の手が飛び出し、矢のような速さで部屋の中を横切ると、反対側の小さな像を打ち砕いた。遠くの壁の小さな光は、宝石を通して見た火の光のように輝いていた。

『落ちつきなさい。人間どもはまだ我々の秘密の方策に気付いてさえいない』その声は、鳴り続く虫の羽の音のように、淡々と続いた。『Ver Lor Regは私の完全な支配下にあり、働き手たちは増員された監督官の下で建設を始めたところ。制御装置はきっちりと守られている』

『今朝方、スパイの一人がブリテインからやっとの思いで私に報告を持ち込んできた。それによれば、王の古くからの腰巾着のニスタルがパワークリスタルの一つを手に入れ、こうして我々が話している間にも、それを調査しているとの事』彼がゆっくりと動き始めると、それに合わせてマントも微かに動いていた。

エクソダスは一時言葉を失った。しばらくの間、その光は揺らめいていた。『しかし、あの魔道師は我々がブリタニア中にばらまいた装置の秘密をつかむことはできなかったはず』

『ああ。だが、奴は今ごろ十分なことを知っているだろう!エクソダス、あなたはいかなる局面においても人間を過小評価し過ぎるのだ!』彼は振り返り、光の壁に面した。彼が話すにつれて、その距離は短くなっていった。『私はこの男が災いとなるであろう事を以前にも警告し、あなたはそれを無視した。そして人間どもが我々の居場所を見つけるかも知れぬと警告した時も、あなたは再び無視をした。今となっては、この忌々しい魔導師が研究所にパワークリスタルを持っているだけでなく、今は亡き者となった、奴の派遣した調査隊が我々を見つけ出し、そして、まさにあなたの名前が全ての人間の間で囁かれているのですぞ!』

『我々が…失敗するとでも…?』

『私はあなたより人間について良く知っているつもりだ』彼は再びゆっくりと歩み始めた。『私のこの世界への理解、そして知識こそ、あなたが私に近づいてきた理由ではなかったのか?』『その通り。そして、あなたがかつて人間であったことも理由に入りましょうか。この世界を支配しようとするその意志が、私のそれと通ずるものがある。また、今、玉座にある王の知恵より優れた物を持つ人間、それらこそ、私があなたに力を授けた理由に他ならない。私は時が経ち過ぎたといえる程、ブリタニアを離れていたのだから』

『あなたには、我々が征服しようとしている世界を過小評価することなく、この地に慣れて欲しいと願っている。私はサベージとオークの混乱を作り出すよう頼んだ覚えなど無いし、このままでは一体のゴーレムを完成させる間もなく、人間どもはあなたの存在が見つけ出されていただろう!』その影はエクソダスの声の元となるものへ、怒りを込めながら指差した。『我々はガーゴイルの奴隷とゴーレムを失う危機にある!そうなったらどうするのです?あなたに助力を始めて以来、どのようにこのブリタニアを軍隊なしで征服するのか、あなたの口から聞いた試しがない!』

『この件についてお考えのことがあるようですな』エクソダスは静かに返事をした。

その影は腕を下ろし、落ち着きを取り戻した『あなたが提供してくれた今回の記録を調査しておこう。きっと他にも選択肢があると信ずる。でなければ、ガーゴイルシティーを失うのみだ』その暗い影は光の元を離れ、扉の方へと向かっていった。『やらねばならぬことがある。戻ってきたらまた話をしよう』

『お気の召すままに』

マントを身にまとったその影が手を動かすと、重たい扉がゆっくりと開いた。彼はエクソダスのほうに振り向くと告げた。『以前にも言ったと思うが、勝利が完全なものでない限り、私は満足することはない』

『あなたのブリタニアへの復讐は果たされるはず』エクソダスは言った。『しばらくの後には、全人類があなたをソーサリアの支配者、ロード・ブラックソーン(Lord Blackthorn)として知ることになるだろう』

ブラックソーンが振り向きその部屋を出るとき、彼は不敵な笑みを浮べずにはいられなかった。








8:34 2017/05/21

# by horibaka | 2017-05-04 08:32 | その他 | Comments(0)